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中島知久平の「必勝戦策」。第一、の、一まで

 ヘッダーの画像は中島飛行機の社章です。この社章は天皇陛下の行幸が決まり、社内公募で採用されました。中央が「中」で、それを囲むのは飛行機です。

 と入力して気づいたら、低翼単葉機です。行幸が決まったころは戦闘機の主流が決まっていませんでした。時は流れ、WW2の戦闘機は低翼単葉が主流れになります。奇しくも中島飛行機は低翼単葉機をメインに生産していました。

 ページを上げます。


 斯くかる防衛態勢にあっては、假に日本が米国の十倍の軍需生産があったとしても、数理上国防の完璧を期し得ないことは瞭かであります、然るに実情は之と正反対であって、日本の生産力は前述の通り劣勢である、今假りに、日本の飛行機生産能力を、急速に増強し、二、三倍に達しても、之を広袤三萬粁の戦線に配備したのでは胡麻塩同然たることは免れない。

 従って、ソロモン、や、ビルマ戦線に航空勢力を結集し彼我勢力の均衡を努むれば、勢い他の戦線は極めて希薄となり、防衛が困難となることは避けられない、又総ての戦線に配備して広く防備せんとすれば、ソロモン戦線、ビルマ戦線は劣勢となり、苦戦となることは当然の帰結である。

 是実に現代戦に於ける守勢態勢に内在する避け難き宿命的缺陥である。

 茲に於いて、敢然として飛躍的戦策転換を策せず、只単に、生産力増強のみに依って、勝敗を決せんとする𦾔式の戦法を漫然継続する限りに於いては、現国防態勢は決して楽観を許さざるばかりではなく、極めて危険なる態勢であると断ぜざる得ないであります。

 はい。長島流に意訳します。

「現在の防衛態勢は、仮に日本の生産力がアメリカの十倍以上あっても計算上完璧に守りきれません。事実、日本の生産力は低く、飛行機の生産力を三倍に増えたとしても、防衛線が三万キロメートルもあるので胡麻塩同然です(穴だらけです)。

 ソロモンやビルマに航空兵力を結集して均衡しても、他が手薄になります。かといって均等に防衛したら、ソロモンやビルマで劣勢になります。

 現代戦における宿命的な欠陥です。

 ここにおいて、飛躍的に戦略を変えず、ただ単に生産力増強のみによって勝敗を決する旧式の戦法を漫然と継続する限り、国防は楽観視できず、極めて危険な状態であると断じます」

 あたりでしょう。念を押すように「生産倍増は愚策で、生産力は英米のほうが上です」と知久平さんは説明しています。第一次世界大戦は国内総生産(GDP)で結果が予測できたのらしいので(そもそも「GDP」の計算自体、第一次世界大戦で英国が「ドイツに勝てるかどうか」が動機で生まれた計算らしいです)、知久平さんは「身の丈に合わない防衛ライン」に警鐘を鳴らしています。

 日本が真珠湾を攻撃した後、米軍による本土空襲は行われたのですが、軽微だったの(または報道管制)で本土の人間は危機感が生じていなかったのでしょう。

 しかし空のエキスパートである知久平さんは青ざめたことでしょう。アメリカの国力を熟知している知久平さんは誇大妄想に近いようなエンジン六基の巨大飛行機の開発を決断します。

 はい。今回の旧仮名遣いのお勉強です。

假←仮の旧字体

広袤←東西南北の面積、なニュアンス

胡麻塩←今なら「まだら模様」という使い方になるかな?

彼我←ひが

是実←是実に? 真実、という意味合いが強かったのかな?

缺陥←欠陥の旧字

 いやー、ブリーチの斬魄刀のようだ。


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