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中島知久平の「必勝戦策」。一、生産戰ニ因ル國防ノ危機。 5ページまで

 ヘッダーの画像は、つい先日、ラジコン飛行機模型の大会、というか集まりに出場した富嶽です。

「こんなに大きな模型飛行機が飛ぶのか」

 と思うぐらい、写真では伝わらない大きさです。中島飛行機があった頃では、1/1サイズの隼の実機が飛んでいたわけなので、

「現代の技術なら趣味でも飛ばせる」

 であり、技術の発展を考えれば当たり前っちゃー当たり前なんですが、門外漢な私からすれば、何回飛んでいる姿を見ても驚くばかりです。

「必勝戦策」の要であるZ飛行機はまだまだ後の方です。知久平さんの説得が始まります。

 ますは写真を上げときます。


一、生産戦に因る国防の危機

 今や、国を挙げて、戦争は生産戦である、生産決戦であると叫ばれて居りますが、第一線に於ける戦力は、国内の生産力が基の根源をなすものでありますから、従来の戦策を蹈襲する限りに於いては、正に戦争は生産力の戦争であると謂ひ得てるのであります。

 ガダルカナル、チュニジア、スターリングラード等の戦績は、軍需品の補給に或る程度以上の差が生じた場合には、如何に大和魂、独逸魂を以てしても如何ともすることは出来ない、又、如何に高度な訓練せられたる精兵を以てしても如何ともなし難しいことを、如実に證明して餘りあるのであります。

 而して、一国の軍需生産能力は、軍需生産の根源をなす製鐵能力に比例すると共に、工作機械の生産能力に比例するものであることを申し上げる迠もないことことあります。

 そこで、之等に対する日本と米国との比率を現在どうであるか云へば、製鐵能力に於いて約一対二十であり、工作機械の生産能力は約一対五十程度になって居ると思われます。此の比率は、實に日、米両国の戦力の比率を現はすものであって、極めて重大なる意義を有するのであります。少なくとも指導の任にあたる者は、此の事実に対し、極めて冷静に、透徹したる観察と、思考とを拂ふ必要があると思うのであります。

 今や国を挙げて一億敢闘生産増強の示標に遮二無二邁進して居る、此の重大事態に直面して、生産増強は最も重要なる対策であることは勿論である、然らばそれで宜しいのであるか、玆が重大問題であります。

 では、長島流に意訳したいと思います。

「今は国を挙げて『戦争は生産力で決まる』と叫ばれており、国内の生産力が根源です。ガダルカナル、チュニジア、スターリングラードの戦闘は軍需品の補給差が生じた場合、大和魂やゲルマン魂があっても耐えられない。高度に訓練された精兵部隊でも難しいことをあまりにも酷く証明しています。

 一国の軍需生産能力は製鉄能力に比例するとともに工作機械の生産能力に比例するものであることを、申し上げるしょーもないことであります(現代の戦争は精神力ではなく生産能力を、今さら述べるなんて笑っちゃいますよね)。

 そこで日本とアメリカの生産能力の比率は、製鉄が一対二十。工作機械が一対五十ぐらいあると思います。この比率は日米の戦力差を表すもので、極めて重大な事実です。少なくとも指導に当たる人物はこの事実に冷静に濁りなく考え、余計なことを考えない必要があります。

 今や国を挙げて一億生産増強の指標にがむしゃらに邁進しています。この重大な局面に生産増強はもっともですが、そのままでよろしいのでしょうか?」


 あたりでしょうか。打ち直して気づいたのは「知久平さんは腰が低いなー」でした。無論、上から「おいおい。今のままじゃ負けるぜ。だから俺様の作戦を聞けよ」な態度で出たら誰も見向きはしないでしょう。

 とにかく下に下に出て、「このままではまずいです」と事実を言います。国の首脳部の多くは欧米に留学経験があります。欧米の国力を知っているでしょう。薄々、「このままではジリ貧になる。でも、拳の落とし所がわからない」と感じていたのでしょう。

 そこに、軍人経験あり、飛行機会社を経営し、現役の政治家をしている中島知久平が、「恐れながら申し上げます」と、さながら上奏したのでしょう。

 そして打っていて、ロシアによるウクライナの侵攻を想起しました。ゼレンスキー大統領はウクライナの諜報機関から「何もしなければ、5年以内にロシアに併合される。しかし武力で抵抗すれば欧米諸国を巻き込んで国の独立を守れる」と聞いたそうな。

 はーい。それでは今日の旧仮名遣いの勉強です。

謂う←いう

蹈襲←踏襲

餘←余り

而して←そうして  文章の流れからして「念を押す」という気持ちで書いたのかな?

迠もない←しょうもない  「国力とは生産能力である、常識ですよね。しょうもないことを行って申し訳ない」という態度か?

透徹←とうてつ

拂う←払う

玆が←ここが


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