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熱量がある記事を書くために。~ライターが意識すべき心得とは?~

 記事に熱がある。読んだ時にこういった感想を耳にするのが、笠川真一朗氏(以下、笠川氏)の記事の特徴だ。熱量がある記事というのは誰しもが簡単に書けるものではない。今回はそんな記事を書き続ける笠川氏に、取材時や記事の執筆時に意識していることを伺った。

記事を書くベースになっている高校時代

 私が記事に熱量を加えるにあたってベースになっているのが、高校時代の経験です。京都の龍谷大平安高校時代に野球部のマネージャーを務めた経験が生きており、当時つけていた野球ノートが原点。この野球ノートは毎日監督が見ることになっており、1日の練習内容がわかるものになっていないといけませんでした。空気感も伝わるように内容を記さなければならないので、自分の気持ちだけでなく相手の気持ちに立つことも必要です。

 私は立正大学でも野球部でマネージャーをしていました。高校、大学時代の経験から、選手はしんどいことが多いことはわかります。試合では野手の場合1試合でだいたい4打席、投手なら100球ほどの内容で見ている人からは良い悪いといった印象を持たれてしまうでしょう。そんな厳しい世界にいる選手の代わりにライターが言葉として伝えるからには、その選手の意図を深く理解する必要があると考えています。その点で、野球ノートで記していた空気感も含めて書きあらわすという作業が、ライターとしての記事執筆にも生きています。

記事を書く上での想い

 相手の気持ちに立つうえで、選手のしんどい部分をより理解するためには、一緒に自分もしんどいことに取り組むのも一つです。「この人はそんな凄いことをやっているのか」「この人はそんなことまで調べているのか」などと感じてもらうことも必要。それらは誰かにやってもらうのではなく自分で体験し、苦労をすることで得られるものと考えています。
 相手の気持ちに立つことは話を聞く時だけではなく、取材をする前から意識していることです。例えば試合後に取材をする場合、選手は当然ながら疲れており、片付けや移動の準備もあります。基本は相手に時間を貰っているという意識で行うべきだと思います。「僕も野球をやっていたから気持ちもわかるし、ガンガン聞くよ」ではなく、気持ちがわかるし、上手に選手の気持ちを伝えたいと思うからこそ慎重に丁寧に、と意識しています。

 記事を書く時は、いろいろな人に読んでもらえるのがベストだと考えていますが、選手本人に手紙を書いているような感覚で執筆しています。選手にも家族がいて、その家族が読んだときに「この子頑張っているな」「育ててきて良かったな」とか、地元の友人が「すごいな」「俺も頑張らんとあかんな」と思ってもらえるような記事を書きたいと考えています。
 記事はその選手にとって一生忘れられないものになることもある。選手はネットで自分の名前を検索されることもあります。そういう時に自分について書かれた記事が引っ掛かった場合、その選手はそれだけでプラスになります。選手にとって身近な人たちが記事を見た時に、すごいなと感動してもらえるような記事を書けたらという気持ちはいつも持っていますね。

インタビュー時の工夫

 インタビューをする際の質問の仕方にも気を遣う点があります。それは一番大事な質問はなるべく後の方に回すことです。最初に大事な質問をしてしまうと、相手も自分もお互いの事をわからない状態でのやりとりになるため、口調や表情が少しかしこまったものになってしまうことがあります。
 最初は日常的な会話や、試合のある一場面の何気ない内容でも良い。ただ、その中で試合中の細かい部分を何気なく話すことで、相手からは「この人そんな所も見ているのか」と思ってもらう。そうすることで「この人は信頼できそうだから話そう」などという雰囲気になることがあります。それはしたたかということではなく、取材の最初にその試合で自分が気になったことを投げかけてみる所からきています。

 取材をしていて相手が言葉にできない感情や内容を、言葉にしてあげられるように引き出しを増やしておくということも大事ですね。取材をしている時に「言葉に表しづらいのだけど」という内容を、ライターは選手の代わりに訳してあげるということができます。話を聞いている中でこういう事を言いたいのかという点を理解して、「こういうことですか?」などと投げかけてみると、選手からも「そうそう!そういうことです!」と返事をもらうこともありました。自分の考えや感覚、感情などを言葉にするのが苦手な選手もいる中で、なるべく言葉にしてあげたいし、記事として書きたいと思っています。

 記事の中で空気感や臨場感を出すにあたって、まずは選手に「この人は細かい所まで見てくれる」「この人は信頼できそうだ」と信用してもらう必要があります。そのような関係性を築いていくためにできることは何か。例えば、試合開始の一時間前のアップなどを見るというのも一つ。アップは選手が自分の意志で動くものなので、長くそのチームやリーグを見る仕事などが入った場合は必ず見ます。ボールに触れていない時や試合前にバットを持っている時に何をしているか……そういった視点は大事だと考えています。

 試合中の選手の表情もポイント。その表情を確認するのに、双眼鏡やカメラのズーム機能を使って見るのもおすすめです。「○○選手はこのピンチでも笑っている」「今はすごくきつそうだな……」などという表情が良く見えるからです。それが取材の時の質問や、記事の幅を広げることに役立ちます。

記事を書く上での工夫

 記事を書く点では、ストーリーに展開があった方が面白いのではないでしょうか。私はライターになる前に、お笑い芸人として活動していました。その時にやっていたのが、自分が面白いと思った他の芸人さんの漫才を文字に起こす作業です。目で見て耳で聞いただけでなく、文字にすることで「これは小さいボケだ。これも小さいボケだ……これは大きいボケだ……」といった、種をまかれたうえでの展開があることに気づけます。その結果、最後のボケがさほど大きいものでなくても、それまでの伏線が敷かれていることで大きく感じることがあります。

 これを野球の記事に置き換えてみると、他のライターさんが書いた記事を読む時に、凄いと思った表現に〇など印をつけていく。すると、最後の方でこの記事の一番凄い所はここだなという感覚がわかります。それを繰り返すことで、自分の好きなライターさんの記事の癖などもわかるようになり、「だから自分はここが好きなのか」などと気付きを得ることができます。

 笠川氏の話を聞き、「熱量がある」と感じるのは文章だけの話ではなく、選手との接し方や、取材にかける想い、配慮が溢れ出ているからこそだと感じた。熱量がある、もしくは人に読まれる記事を書くには、取材対象となる選手への配慮や想いといった、それ相当の準備が必要であることがわかった。

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