まだ見ぬ空の先へ

 渡り鳥は海を越える。暖かい土地で冬を越え、安全な街で子孫を育てる。気の遠くなるような距離を羽ばたいて渡る。
 わたしたちは旅に出る。自らの足で歩み、自動車を運転し、列車に乗り、旅客機で空を超え、客船で海を渡る。街を渡り、駅に降りたつ度に土地の空気を感じる。そこに暮らす人々の息づかいが街の空気を形作る。普段の日常を発ち、見知らぬ土地へ着く非日常に触れる時、わたしたちの眼には何が映るのか。雪に覆われた北国で助け合う人々の温かさに触れる。科学技術により発展した東国で制限から解き放たれ自由を得る。歴史ある西国で時間の折り重なる文化の重みを味わう。海に囲まれた南国で土地への誇り、祖先への敬意を感じる。
 何者でもない私は見知らぬ地へ触れ自分の姿を知る。いつも探すのは自分自身だ。どんなに離れた土地へ着いても見上げた空は故郷から続き、日常の退屈から郷愁へその色を変えても、変わらずに鳥が羽ばたいている。

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