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「週刊金曜日」(2024年3月29日号)に金成玟『日韓ポピュラー音楽史』(慶應義塾大学出版会)の書評を書きました。

K-POPが日本の日常的な風景の一つとなって、どれくらいが経つでしょうか。というものの、じつはそれって最近のことなんですよね。戦後の韓日の音楽史を考えると、両者は真正面からなかなか出会うことができない時間を過ごしてきました。

では、なぜ僕らは出会えなかったのか。本書は、戦後から現在までの日韓の音楽史を追いかけながら、両国の音楽がなぜすれ違い、あるいはぶつかり、ズレを生み、また融和したのかを論じた一冊です。

この本のキーワードの一つは〈まなざし〉。本書で、著者の金さんは、旧植民地の文化に対する日本側の〈まなざし〉が、韓国の音楽をたとえば「演歌」のような枠組みで、恣意的にカテゴライズ(認識)し、そこにある異質性を受け入れようとしなかったことを論じています。

一方で、韓国国内では、韓国政府による受容の禁止が両国の音楽が正当に出会うことに対する障壁を作った。韓国では国家の政策によって長らく日本のポピュラーカルチャーを輸入することが禁じられてきました。民主化以前には音楽検閲もあったわけです。つまり、日本の歌謡曲は韓国国内には「ない」とされてきたのです。

そうした抑圧のなかで、韓国の大衆の、国外の音楽への欲望が自律的にうごめき、韓国音楽は進化を遂げてきたわけです。そして、のちにK-POPと呼ばれることになる韓国の音楽はそうしたメカニズムのなかから誕生したのでした。

この本は、真っ当に出会えなかった韓日の音楽が、いかに他者として認識し直したか、その歴史を綴った一冊です。僕は本書から、日本がアジアの文化をいかに他者として認識してきたか、いや、むしろしてこなかったのか、その戦後的な傲慢さを教えられました。これは文学でも同じことだと思います。

いつか日本とアジアの文芸交流史を書きたい。そう考える僕に、じつにたくさんのことを教えてくれた本です。

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