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「週刊金曜日」(2024年7月5日号)に黒川創・瀧口夕美『生きる場所をどうつくるか』(編集グループSURE)の書評を書きました。

編集グループSUREの本を読んだのは、鶴見俊輔『たまたま、この世界に生まれて』が先だったか、瀧口夕美『民族衣装を着なかったアイヌ』が先だったか、忘れてしまいましたが、とにかくどちらかの本かが最初でした。この出版社は従来の流通制度で本を売っていません。本屋には流通を通しておろすことがなく、注文をした読者に、一つひとつ丁寧に手渡すようにして販売をしているのです。

『生きる場所をどうつくるか』によると、この出版社は元々、黒川の父親、北沢恒彦が一人で運営する編集グループだったようです。北沢の死後、黒川や瀧口らが受け継ぎ、先ほど言ったように、流通システムとは別の場所で本を直接、読者に届けてきたといいます。今回、諸事情によって代表が瀧口に交代となり、あらためて、SUREという出版社の可能性はどこにあるのか、それを問うためにこの本が編まれた、と僕にはそう読めました。

本書は京都の喫茶店ほんやら洞や黒川・瀧口の仲間を集めた座談会です。彼女・彼らが生きてきた場所について語ることで、じぶんたちの源流となったものを歩き直す、そのような構成となっています。

SUREの理念は流通システムとは別の場所で本を直接、読者に届けることだと書きました。この「システムとは別の場所」ということが重要で、この本では、それゆえに、アナキズムとは何か、そのことが改めて問われます。鶴見俊輔や、法哲学者の那須耕介、それからほんやら洞に関わりのあった人たちの思索や実践を再検討しつつ、これからの時代に必要な生き方を考えていくわけです。

この本を読んでいると、アナキズム的な思考の原基とは、大きな正義や概念にからめ捕られることなく、のびやかに、自由に、生きることにあったんだと、それがよくわかります。

書評の末尾には

生きることがままならない世界で、自分の足場を築く。その経験は継承され、歴史を生み、新しい時間を紡ぐだろう。この小さな本は、そんな複層的な広がりの意味をしっかり手渡してくれる一冊だ。

と書きました。経験の継承。まさにこの本が願うのは、そのことです。北沢恒彦、鶴見俊輔、那須耕介といった、今は亡き人々。あるいは、黒川の原点でもあるほんやら洞。生き方、思想、場所のかがやきをどう受け継ぐか。読者にそのことを委ねてくれるこの本は、小さいけど、確かな目で未来を見据えた一冊です。

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