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「週刊金曜日」(2024年6月7日号)にツェリン・ヤンキー『花と夢』(星泉訳、春秋社)の書評を書きました。

少し前に、チベット研究者の星泉さんが監修を務める、チベット文学と映画の雑誌「セルニャ」(Vol.4)に本作と作者のことが紹介されていました。

「『花と夢』はラサで活躍する人気女性作家ツェリン・ヤンキの最新作にして、初の長編である。ツェリン・ヤンキは現代チベット語文学の黎明期の一九八〇年代からチベット語で小説を発表し続けている貴重な存在である。チベットには漢語で小説を書く女性は少なからずいるが、チベット語で書く女性となると極めて少ない。この作品はチベット自治区出身の女性作家による初めてのチベット語長編小説としても話題を呼んでいるのだ。」

チベットの女性が生きる「今・ここ」とは、どのような瞬間と場所なのか。僕はこの小説が日本に届けられるのをずっと待ち望んでいました。

そして、先日、星泉さんの翻訳による日本語版の本書をようやく手にすることができ、それだけで、もう、大きな喜びが込み上げてきました。

この作品の中心にいるのは四人の地方からラサというチベットの都市部に移り住むことになった女性たちです。四人はそれぞれの事情を抱え、ラサにあるナイトクラブで働くことになります。彼女たちがラサで被ったのは、人間的な尊厳の蹂躙、生の簒奪そのものでした。男性や金持ちなど、権力を持った人々に凌辱された彼女たちの声が、静かに激しく、響いてくる。

僕はその声を、別の本からも聞きました。それが、昨年刊行された海老原志穂編訳『チベット女性詩集』(段々社)。ここにホワモという詩人がうたった「私に近寄るな」という詩が収録されています。女性を欲望し続ける社会に荒々しい声で拒絶の意志を突きつけたあの詩は、チベットの女性たちがいかに生を簒奪されてきたかを告げる凄まじい作品でした。

〈私に近寄るな/私は甘露ではない/私は欲望ではない/光り輝く真珠 それは私ではない/甘やかな唇 それは私ではない/私に近寄るな/私は春の輝きではない/私は享楽ではない/いきいきとした青春 それは私ではない/甘く酔いしれる感情 それは私ではない(……)〉。

書評ではこの二つを重ね合わせて、読み解きました。『花と夢』と『チベット女性詩集』は一緒に読まれるべき作品だと思います。ぜひ。

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