見出し画像

『週刊金曜日』(2023年11月3日号)にユ・ヒョンジュン『空間の未来』(オ・スンヨン訳、クオン)の書評を書きました。

コロナ禍で僕たちに突きつけられたのは、空間とは何か、という本質的な問いでした。

オンラインの環境が整備された世の中において、僕たちは新しい空間のなかで生活せざるを得なくなりました。学校でも、職場でも、あらゆる処で、避けがたい変化が起こった。この世界の住人みんなが、あのとき〈コロナのせいで、空間の重要性をもっと感じるようになった〉のです。韓国でおおきな脚光を浴びる建築家によるこのベストセラーは、その地点から僕たちの現在を規定する空間の考察を始め、未来予想図を描いてゆきます。

僕たちは知らず知らず、空間によって生を規定されている。建築家である著者は、そのことを深く知ります。だからこそ、彼が手始めに分析するのは、宗教と教育において権力者が権威を握る、その仕組みです。空間の高さと権力勾配の関係性。アーキテクチャと生権力。僕たちが空間によっていかに縛られているのかを、知的な文章でユ・ヒョンジュンは解明していくわけです。

では、現在の都市空間をいかに変容させれば、僕たちの生は明るく、希望のあるものになるのか。社会的な分断を繋ぎ止める公園。物流網が地下に張り巡らされた都市。自転車で回遊しながら仕事をするライフスタイル……。ユ・ヒョンジュンの未来夢想は広がり続け、閉塞感のなかで、今、息をしている僕たちをわくわくさせて止みません。

しかし、そうした思索が同時に露わにするのは、従来の社会にひそむ設計ミス。著者が強調するのは、法は国家が提供するソフトウェアでなければならないということです。だから随時、アップデートされなくちゃいけないのに、今のままでは新しい空間をデザインするための桎梏にしかならない。そのために若い人々は権力の軛に縛り付けられているのが、現状だというわけです。

空間設計に自由を与えよ。そして、未来を作れ。本書からはそんなメッセージが伝わってきます。アフターコロナの世界の、新しい都市文明論。僕たちの未来の設計図が確かに、ここには描かれているのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?