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「週刊金曜日」(2023年9月22日号)に川崎祐『未成の周辺』の書評を書きました。

2017年第17回写真「1_WALL」 グランプリという写真の新人賞を受賞し、デビュー。2018年にガーディアン・ガーデンズで個展「Scenes」を開催。同作で第44回木村伊兵衛賞の最終候補にノミネートされる。2019年に第一作品集『光景』を赤々舎から刊行。2023年の今年、本作を第二作品集として上梓。川崎祐さんはこれからが期待される写真家、作家、いや、文学者のひとりです。

川崎さんの写真は、デビュー時から一貫して、ある風景を切り取ったものとなっています。それはそこにある何か、意味や象徴を伝えるのでもなく、川崎さんの眼差しが「語る」とでもいうほかないような写真。前作「光景」では、川崎さんの写真が映し出す、どこかの街の郊外の風景に、僕は初めて出会いながらも懐かしさを覚えるのでした。「家族」が映し出される写真は、川崎さんの「語り」を伴って、深い、追憶の揺蕩いへと読者を導く、そんな力に満ちていたのです。

今回はどこか寂れた街の自然豊かな光景。それが和歌山県新宮市の、中上健次が小説のなかで描き続けた、彼の故郷の写真だというのは、作品集に付されたエッセイを読むとわかる。川崎さんの〈わたし〉へのこだわりが滲出した、強く、しなやかで、どこか脆さや儚さを内に含む、そんな文学の言葉で書かれた文章は、彼が大学時代に出会ったある批評家の言葉、中上健次という作家との出会い、それらをおぼろげに〈わたし〉という存在を確かめるように語る。

〈いまから二十年ちかくまえ〉の、原点のような記憶。その欠片を集めながら〈わたし〉は中上の言葉を受け止め、〈目の前の風景と自分の「故郷というもの」との重なりをそのまま描写する〉と決めた。そう、川崎さんは書くわけです。

本作は不思議な構成で作られています。片方を開けば、バスの車窓から眺める新宮の風景。片方を開けば、川崎さんが歩く新宮の街の寂しくも、ノスタルジアを喚起するような、その佇まい。僕はそこに、この作品の類いまれな文学性を感じざるを得ません。ぜひ、手にとっていただければ。




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