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「週刊金曜日」(2023年8月25日号)に陳思宏『亡霊の地』(三須祐介訳、早川書房)の書評を書きました。

小説の舞台は台湾の中部の永靖という小さな街。十九世紀に外の人間によって開墾されたこの街には、農民たちが暮らしてきた。争いや災害がなくなることを願って〈永く安寧と平和が続くよう〉永靖と名付けられたのだと言います。

一九七〇年代になると、宅地造成され、開発が進む。しかし、それでも都市部に比べたら、閑散とした辺鄙な街であることに変わりはなく、時代に取り残された永靖から若者は離れ、街並みはうらびれました。その結果〈地名にはもともと祈りがこめられていたが、呪詛に変わり果てた。土地はその名の通り、靖に、たいそう静かになった〉のです。

鬼地方。作中で、度々、この街はそう呼ばれます。そしてその三文字には、次のルビが振られている。

〈クソッたれの地〉。〈ひどいところ〉。〈亡霊の地〉。

そんな永靖に向かって、呪詛を吐き捨てるように展開する物語の中心となるのは、この土地にルーツを持つ、五人の娘と二人の息子、そしてその両親で構成される、ある一家。その家族を視点に、救いのない生の物語が語られていきます。土地に根付く家父長制の抑圧、同質性の強い空間の排除の視線。絶望そのもののような生き様が、閉塞感に喘ぐ彼・彼女らの言葉が、小説のなかで掬い取られるのです。

書評では、彼女・彼らの世界に居場所のない感覚に言葉を当てながら作品を読みました。また、小説の構造 ―― さまざまな声が入れ替わり立ち替わり物語を語る ―― が平明な語りを許さない理由にも触れています。詳しくは誌面でお読みください。

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