旅の話.45 カイロ④
ギザを出て、ホテルへ帰る車内で、ドライバーが
「楽しかったか?」と、聞いてきた。
僕は「まあね」と答えた。
「俺は良いドライバーだったか?」と聞くので、
「運転技術はとてもすごい」と皮肉を込めて言った。
「だったらバクシーシをくれ」と言ってきた。
ドライバーへの報酬は、最初に決めた総額100£Eに含まれているはず。
そうだよね?と確認したら、「その金は会社のものだから、俺には入ってこない」とか何とかブーブー文句を言う。知るかよ。
こっちも頭に来てるけど、面倒くさいので折れて、5£Eあげた。
「これじゃ少なすぎる」と、また文句を言うので、本当にカチンと来た。
「だったらいくら欲しいのか言え!」と言うと、
「お前が決めろ」と言う。
「ならば5£Eだ。嫌ならあげない」と言うと、不満で一杯の顔で受取った。
「聞いてた話と全然違うぞ!」
ホテルに戻ってすぐ、つながり眉毛のオーサマに文句を言った。
「違わないよ。ちゃんと説明した」と言うが、まだ何がどう違うのかも言ってないのに、どんな根拠でそう言えんのか。全くふざけている。
怒りが収まらない。
見かねた平井さんが間に入ってくれた。
最終的に、馬の100£Eと各バクシーシは自腹、サッカーラの入場料20£Eは、ちゃんとドライバーに確認したから引いて、残り80£Eを払うって事で合意した。
部屋に戻り、水道水で頭を冷やした。
いろいろな事がありすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
冷静になって、整理する必要がある。
一息ついて、ポケットに手を入れた瞬間、血の気が引いた。
財布がない。
ロビーか、エレベーターの中でスラれたんだろうか。
冷静さを失っていると、こういう事になるのか。
とにかく急いでレセプションに戻った。
遅いエレベーターにいらいらして、階段で降りようとしたら、
「ここの階段は、2階から下に行けない」と平井さんに言われた。
ようやくエレベーターで1階へ降り、レセプションへ行く。
さっき座っていた付近を探してみるが、見つからない。
呆然としていたと思う。
白髪の太ったおじいさんが現れて、
「財布を探しているのか?」と聞いてきた。
「yes……」と言うと、レセプションの人が持ってきてくれた。
中身を確認すると、何も無くなっていない。
信じられない位、嬉しかった。
僕は何度も何度もお礼を言った。
この事を平井さんに話すと、エジプト人は商売では相手をだますが、それはだまされる方が悪いらしい。盗みや暴力は、最もやってはいけない事なのだそうだ。さらにドラッグ、売春、よっぱらいは厳禁で、死刑になる程の重罪なんだとか。イスラム教徒のメンタリティを、僕はまだ無知だった。
しばらく話をして、外に出た。
一緒に食事をして、駅の切符売り場の場所や買い方を教えてもらった。
ジューススタンドでマンゴージュースを買って飲んだ。
平井さんは本当にすごく良い人だった。
僕がエジプトに来てすぐ嫌な思いをした事に、もっと事前にアドバイスをしてあげるべきだったと、責任を感じているようだった。
そんな事は全然ない。どれだけ救われたか。今でも感謝しています。
彼はエジプトが好きで、この時は2度目の旅。合わせて2ヶ月程滞在していて、まだあと1ヶ月はいるみたいだ。ミュージシャンを目指していたけど、その後どうなったのだろうか。
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