詩 『過去からやってきた男』
サスペンダーにシャツ
紺のネクタイ
ローファーと帽子
人も信号機も街路樹も
アップデートされている
されてないのはわたしだけ
わたしには行くところがない
上着の懐中時計をとりだす
わたしにないものは時間だけ
現代的でなければならない
肉屋の軒先に人が吊るされているのを
誰かがタブレットで写真を撮る
万年筆と手帳を取りだす
花は蜜にもたれかかり
言葉は脈を失う
わたしは透明になってしまいそう
海はまだ遠く
潮風はどもっている
透明な雨が降る
濡れているのはわたしだけ
ギターの音が聞こえる
わたしはあなたに会いにいく
月を通り越して
新しい靴を履いて
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