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詩 『ある詩』

改札で待つきみのもとに羽が降ってきて
あたりの空気をごちゃまぜにする
言葉は渦を巻き
排水溝へと吸いこまれる

文庫本から顔を上げたきみは何もいわない
沈黙が鳴るなかぼくをじっとを見つめる

ぼくは声を失う
はじめて見る服を着ていたからじゃない
ぼくはそこに“ある詩”を見つけたのだ
きみのそばに隠れるようにして

光が介在すると消えてしまう
まだ現像されていない暗室の中の写真のよう

きみは歌いだす
ぼくたちの未来が歌われた詩を
音程に狂いはなく
テンポもはなはだ正確だ
それはきみとぼくの影が光に立ち向かう
ひとつの詩

ぼくには聞きとることができない
何が歌われているのか
きみがためらいなく歌っているということしか

あたりに舞っていた言葉は塵埃さながら収束し
きみの詩にひざまずく

詩が終わると時間が咳払いをし
世界が関節を鳴らす

きみが駆けだす先が
ぼくであることを
うまく信じることができない
その目は一直線に
ぼくを見つめているというのに

白色の貝殻を探しにいこう
銀色に光るまで磨こう

ぼくは手を伸ばす
この手がきみの言葉に届くように
きみが率直に歌った“ある詩”と
喉元に手が触れるように

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