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人間 / 最後の東京帰省日記 ⑦

 前回の続き

 清瀬駅からバスに乗った。見知らぬ土地で、バスに乗るのは難しい。行き先があっているか不安になりつつバスに揺られていると、10分程で無事「ハンセン病資料館」バス停に到着した。

 国立ハンセン病資料館は、叔母がいる国立療養所多磨全生園から歩いてすぐのところにある。この資料館では、ハンセン病の基礎知識やハンセン病問題の歴史を、豊富な展示や証言を通じて学ぶことができる。以前、叔母と一緒に来たことがあるが、改めてじっくり巡りたいと思い、訪れることにした。平日のお昼過ぎであったが、自分以外にも数名の来館者がいる。

 館内の映像資料の中に、行きの飛行機で読んだ本に書いてあった「ハンセン病元患者宿泊拒否事」の手紙の実物が写っていた。元患者さんへの、誹謗中傷の手紙の数々。現代における、デジタル上の誹謗中傷よりも生々しい、直筆の悪意。手書きの手間も厭わない、意志のある悪意。

 この事件において、元患者さんを励ます手紙も数多く届いたそうだ。しかし、千の善意より、一の悪意に、人の心は引かれる。ただ、それでも千の善意は決して無力ではない。傷つける者と、傷つけられる者、そして励ます者とを前にして、人間の本性について考えさせられた。

次回に続く

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