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スイカ / 最後の東京帰省日記 ⑧

 前回の続き

 資料館を出て、全生園の敷地の中に入った。木漏れ日を浴びながら、豊かな緑に覆われた園内を歩く。かつて「一度入ったら死んでも出られない」と言われたこの場所は、今では地域の人たちにも開かれているようだ。小さな子供とお父さんらしき人が、キャッチボールを楽しんでいる。

 広い園内に少し迷いながらも、約束の時間ちょうどに、叔母さんがいる病棟に到着した。受付で手続きを済ます。まだコロナの影響もあり、病棟内でのマスクの着用や病室での一緒の飲食不可など説明を受けた。

 叔母ちゃんは寝ていたようで、職員さんが起こしてくれた。数年ぶりに会う叔母ちゃんは、見た目は前と変わらないし、喋り方も以前のままだが、だいぶ認知症が進んでいるようだった。

 しばらく話をしていると、叔母ちゃんがスイカを食べようと冷蔵庫を指差した。自分の訪問に合わせて、昨日買って冷蔵庫に入れておいたらしい。しかし、受付で説明を受けたように、病室での飲食は不可である。叔母ちゃんがナースコールで職員さんを呼び、病室で一緒に食べたいとお願いするも、やはり規則でダメだということだった。残念がる叔母ちゃん。せっかくなので、お土産で半玉のスイカを持って帰ることになった。

 小一時間滞在した後、病棟を後にした。大した話はしていない。久しぶりに顔を見せだだけである。帰り道、自分のためにスイカを買っておいてくれた心遣いにほっこりとする。スイカが傷んではいけないので、予約していたホテルに直行することにした。膝にスイカを抱えて、バスと電車に揺られる。

 次回に続く

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