見出し画像

【ちそうの学校 #2 レポート】 風土という言葉と生き方

11月18日(水)に行われた第二回ちそうの学校。今回もその内容と見どころをダイジェストにまとめてお届けします!
第二回は「風土」というテーマについて、お二人のゲストをお招きしてトークセッションを行いました。

■ゲスト紹介

ゲスト一人目は長崎アートプロジェクトの招聘アーティスト、KMNR™ の谷口弦(たにぐち げん)さん。佐賀県最後の和紙工房、名尾手すき和紙の7代目として和紙職人の姿を持つ一方で、アーティストとしても活動しています。長崎アートプロジェクト「じかんのちそう」では長崎市民とのワークショップを通じ作品を制作中。

ゲスト二人目は、長崎に本社を構える株式会社KabuK Style Co-CEOの大瀬良亮(おおせら りょう)さん。「長崎を現代の出島として復活させ、世界中の人が訪れたがる場所にしたい」という思いと、世界のどこにいても仕事ができる時代の訪れを感じたことから、世界中住み放題の定額制コリビングサービスHafHを立ち上げました。

▽ゲスト
谷口弦(KMNR™・名尾手すき和紙7代目)
アートコレクティブKMNR™(カミナリ)主宰。佐賀県名尾地区において300年以上の歴史を持つ名尾手すき和紙の7代目。長年受け継がれてきた紙漉き技術を駆使し、特定のマテリアルを漉き込んで一枚の紙に仕立てることで、その素材が内包する情報(魂)を受け継ぐ、新たな文脈を持った媒体としての紙「還魂紙」を生み出し、作品制作を行う。

大瀬良亮(株式会社KabuK Style Co-CEO)
1983年、長崎県生まれ。2007年筑波大学卒業後、電通入社。被爆をデジタルマップで伝える「Nagasaki Archive」でYahoo!デジタルアワード特別賞受賞。2015年から首相官邸初のソーシャルメディアスタッフとして内閣広報室に出向。2018年からつくば市役所まちづくりアドバイザーとして広報戦略を担当。

そして前回同様、長崎アートプロジェクト ディレクターの林 曉甫(NPO法人インビジブル 代表)と同キュレーターの桜井 祐(TISSUE Inc. 共同設立者)を交え、4人によるトークセッションが行われました。

スクリーンショット 2020-11-25 11.33.19

トークセッションの様子(左上:桜井 左下:大瀬良 中央:谷口 右上:林 右下:パブリックビューイング会場)

■なぜ風土という言葉が出てきたのか?

そもそも今回のテーマである「風土」という言葉は、大瀬良さんが打ち合わせの中で「外の文化と内の文化を混淆させる現代版の“出島”として各地にHafHをつくることで、さまざまな土壌にいい風を吹かせたい。自分たちがやっているのは“風土”コーディネーションなんです」と話してくれたことがきっかけでした。では、大瀬良さんが風土という言葉にたどり着いた経緯はどのようなものなのでしょうか?

(大瀬良)長崎はもともと国が外国との窓口として出島に目をつけて、その周りに人が集まってできた場所なので、自分たちで作った町ではないんですよ。そう考えると特別な場所ですよね。でも原爆を落とされて、この半世紀、長崎人は初めて自分たちで町を作らなくてないけなくなったんじゃないかと思って。そのときに、東京、いわば江戸にいる僕たちが長崎に風を吹かせることが大事なんじゃないかと思い始めたんですよね。
だから僕は「東京から長崎ばおもしろくするばい」っていうテーマで、東京で長崎の県人会を始めました。そこである方が「大瀬良さんって風の人ですよね」というふうにおっしゃってくれて。その言葉が僕の中でビビッときて、それで土と風の関係を考えるようになりました。

大瀬良さんの前向きな「風土」という言葉の捉え方の一方で、谷口さんはまた違った意味を見出していました。谷口さんは風土 ―“その場所”である制約と意味―というサブタイトルにある「制約」について特に意識しています。

(谷口)僕が田舎に住んでいるということや、和紙の原料から栽培して紙にする工程まで自分たちで行うという自分の仕事から、土を日常的なものに感じています。その上で、風は土の後に来る、という印象を持っています。例えば僕たちが原料を栽培して紙をつくると、買ってくださるお客さんがいる。お客さんはその和紙をどこかへ持っていったり、新しいお客さんがホームページを見てやってきてくれたりする。そうやって風が吹くのは、自分たちがここでやってるから、という結論に落ち着くんです。”ここにいる”ということに意味を感じていて、それが土なのかな、と。その場所に生まれた以上の意味を感じています。
以前は制約という言葉をネガティブに捉えていました。周りに人もいないし、同業者もいないし、って。良い意味で考えなかったんですよね。でも今はその情報のなさが土を耕す上での原動力になってきてると思います。

スクリーンショット 2020-12-15 12.55.09 1

(名尾手すき和紙の歴史を紹介している様子)

風という言葉からスタートした大瀬良さん。土という言葉とその場所にいる、という制約に意味を見出している谷口さん。二人のトークは「風土」という言葉を交錯しています。

そんな中、大瀬良さんからこのような発言が。

(大瀬良)谷口さんはかなりチャレンジングな制作をされてますよね。確かに谷口さんは土地においては「土」の人なんだけど、このようなインスピレーションは制約の多い和紙業界という「土」において、谷口さんは「風」を送り込んでいる人間ですよね。

自己紹介でもあったように、谷口さんは今回の長崎アートプロジェクトの招聘アーティスト。土地の「土」の人でもあり、和紙業界に新たな「風」を送り込む人でもある谷口さんは、和紙業界の「風」として、どのような活動を行なっているのでしょうか?

■KMNR™アーティストとして

(谷口)和紙を作っていると、これは僕じゃなくてもできると思ったんですよね。確かに佐賀県最後の和紙工房の7代目で、っていうのはあるんですけど、もともと日本全国で盛んだったわけですし。
今やる意味、っていうのを考えましたね。少し前には今よりもペーパーレスという言葉が流行っている印象もあったし、和紙は必要じゃないって突きつけられてるような気もして。
そんな思いから、下を掘ってみようと思いました。和紙の先祖はどこからきたんだろう、僕はどこからきたんだろうって歴史を調べたりして。そこでKMNR™のテーマになっている還魂紙(かんこんし)に出会いました。

なるほど、和紙を作ることに対して、谷口さんはそのような考えを持っていたんですね。ところで還魂紙って……?

(谷口)1300年前に中国から日本に紙が入って来ました。その当時は和紙という言葉はなくて、みんな手漉きで紙を引いてたんですね。明治維新が起きて洋紙が入ってきて、機械で新品の紙ができるようになったのですが、それと同時に使われなくなった紙もありました。手漉きで再生した紙、それこそが還魂紙です。
「還魂紙」とは、鎌倉時代に亡くなった人の骨をパウダー状にして、紙に漉き込んで写経して弔うという風習から来た言葉です。日本には八百万の神という考え方があり、例えば日記でもゴミクズでも全ての紙に魂が宿っているという考え方になります。その紙を再生紙にして世の中に還すのは、魂がその紙を依り代として宿った状態になっているから、という考え方に僕は衝撃を受けました。和紙の世界が一気に広がって、同時に自分の源流にも立ち返ったように感じたんです。
還魂紙の考え方と同じことを、現代で作品という形で提示できるんじゃないかと思い、KMNR™として活動を始めました。

谷口さんはKMNR™としての活動の経緯やコンセプトを丁寧に語ってくれました。そしてそのアーティスト活動のひとつが、今回の長崎アートプロジェクトでのワークショップ、「記憶の彫刻」プロジェクトです。

アーティストである谷口さんから、参加するプロジェクトメンバーに「あなたを形作ったもの」という問いが投げかけられ、ワークショップではその問いへの答えとして持ち寄った「もの」を生かして和紙を制作しました。

スクリーンショット 2020-12-08 0.29.30

スクリーンショット 2020-11-25 22.37.26

スクリーンショット 2020-12-08 0.38.09

(野母崎でのワークショップの様子)

例えば上の写真にあるように、持ってきた写真をミキサーにかけて和紙にする人や、鉛筆を砕く人、好きな本の一節をコピーして持って来ている人、中には拾った骨を持って来ていた方もいました!

自身のKMNR™の活動と風土という言葉に関して、谷口さんはこのようにもおっしゃっています。

(谷口)僕らが土を耕しているというような匂いを、KMNR™という手段を使って、風にして飛ばしていると思っています。ネガティブに感じていた制約も、アイデンティティに感じていて、僕たちが熟成したものを飛ばしていきたいです。
生まれた場所があるからこそ、すごく遠くまで飛んでいける。だから土と風っていう境界線も、滲むように、曖昧になってます。長崎アートプロジェクトの交流も、何かが滲むように感じます。

自分が作るもので自分が作られたもの、「風土」。その間に位置する存在である谷口さんならではの考えがわかります。

■おわりに

今回の記事で紹介したのはほんの一部に過ぎません。「風土」という言葉に関して、この後も濃厚なトークショーが続きます。
例えばトークショーの中で、「風土という言葉に当てはまる英単語がない」という話題になります。皆さんなら、「風土」という言葉をどのように英語に変換するでしょうか。
また、パブリックビューイング会場からも質問が届き、終始「風土」という言葉を考え、話合い、盛り上がりを見せました。

⏬続きは以下のリンクから視聴できます!⏬

前回のテーマは「野母崎の地層」、そして今回のテーマは「風土」
「風土」とは、風景でもあり文化でもある、捉え方に幅のある言葉なのだと感じました。だからこそ「風土」について考えるとき、自分たちの立っている場所をいま一度見直すことができないでしょうか。大瀬良さんと谷口さんのトークセッションはその気づきを与えてくれました。

ゲストによって異なる様相を見せるトークショーの次回は12月16日(水) 19:30〜、以下よりご視聴いただけます。どうぞお楽しみに!

画像6

▽テーマ
ちそうの学校 #3「地域資源の観光化と生態系維持のはざまで」

▽日時
12月16日(水) 19:30-21:00

▽配信URL
https://youtu.be/e9AvcGiPQxo

▽パブリックビューイング会場
きまま焙煎所(長崎市脇岬町3630-1)

▽ゲスト
井上岳一(日本総研 創発戦略センター シニアスペシャリスト)

1994年東京大学農学部林学科、2000年米国Yale大学大学院修了(経済学修士)。農林水産省林野庁、Cassina IXC(家具・デザイン雑貨の製造・販売)を経て、2003年に日本総合研究所に入社。大企業からベンチャー企業までの経営コンサルティング、中央官庁の政策立案支援、自治体の支援(特産物づくり等)に従事した後、2010年より創発戦略センターに所属。創発戦略センターでは、持続可能な社会システムの創出に向けたインキュベーション活動を行っている。

山本春菜(イラストレーター)
1985 年福岡生まれ。福岡教育大学生涯芸術課程卒業後は、ヨーロッパの美術品を扱うアンティークショップに入社。かたわら、福岡県「芦屋釜の里」にて芦屋釜復興を担う職人の手伝い、鹿児島市平川動物公園の動物生態画を描く仕事にも携わる。2015 年、長崎市地域おこし協力隊として野母崎地区に着任し、2018 年夏まで野母崎の文化や自然の調査および情報発信を中心に活動。以降はフリーのイラストレーターとして、継続して野母崎に在住。

▽聞き手
林 曉甫(長崎アートプロジェクト ディレクター/NPO法人インビジブル 代表)、桜井 祐(長崎アートプロジェクト キュレーター/TISSUE Inc. 共同設立者)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?