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親の介護が始まった日・第五話「介護が始まり、最初に直面する事…」

父が退院後、介助・介護にあたる家族の負担は想定以上のものでした。

父は、ゆっくりですが自力で床から立ち上がり歩く事は出来たのですが、トイレに到着前で間に合わず、途中で漏らしてしまう事が時々ありました。
処理にあたるのは母か私。
そして、漏らした側の父の気持ち。
特にプライドが強いのが男性。
父はその度にプライドが削られていきました。
情けなさもあるのか、複雑な表情をしてその場に佇むしかない…。
普段、謝る事なんてめったになかった厳格な父が、小さな声で「……ごめんな」と言いました。
「大丈夫だよ」っと返事は返したものの、この時を思い返すと、私達もかなりのストレスでしたが、父にとっても自分が漏らて家族に下の世話をされる事が、1番ショックでストレスだったのではないかと、今となってはそう思います。

その言葉を聞いてか聞かずか、母はその場の暗い雰囲気をかき消すかの様な大きな声で「しょーがないねぇ、まったく…」とパジャマから肌着、パンツを脱がせて、レンジで温めたタオルで体を拭いて、新しいパジャマを父に着せました。

しかしここで、また初めて経験することになるのですが、色々な薬を飲んでいる尿は酷く臭いんです。そして、1回洗濯機で洗っただけでは、その臭いが絶対に落ちないんです。これが在宅介護の期間中はずっと続く事になります。

いざ処理にあたる時は、ちゃんと不織布マスクやビニール製の使い捨て手袋を使いますが、それでも排泄物の匂いが鼻の奥の方にこびりつくのか、違う生活行動(例えば台所仕事や食事)をしている際に、ふっと臭ってきます。

又、臭い尿で汚れたパジャマや下着は、その箇所をザッと手洗いして大まかに落とした後、強めの漬け置き洗剤で1日漬けました。
その後、洗濯機でその着衣を洗うのですが、液体洗剤ではきれいに落ちないので、強い香り付きの粉状の洗剤を多目に使って洗っていました。

更に、ローテーションする衣服を複数用意しておく必要があります。
お漏らしの度にパジャマや下着、靴下を着せ替えます。
漬け込み時間としっかり乾かす時間を考えないといけないので、最低5着分のセットがないと余裕を持って着回せません。
もう限界となると捨てるので、その度に買い足します。
夏用と冬用の使い分けもあるので、専用の収納ケースも大型のものを買いました。
身体を拭くタオルも同様に臭うので、漬け込んでから洗います。申し訳ないと思いながらも、家族とは別の父専用のタオルを用意しました。
介護中は、かなり物要りとなる上、洗濯も大変でした。

ふとした拍子に衣服やタオルを洗う専用の洗剤の香りがしたりすると、これも反射的に臭い尿を連想してしまい、とても嫌な気分になる事もありました。

このふとした拍子にしてくる、尿の臭いと、連想させる洗剤の香りが長期に渡り悩ませる事になり、精神的にかなりきます。

それを払拭する為に、消臭剤も色々と試しました。
行きついたのは、衣類には消臭スプレーの1番強烈なミント系のものと、室内には犬猫用の消臭剤を常設しました。

数日してから母と相談して、父には成人用おむつと、寝床にはおねしょシーツを敷きました。
床が濡れてしまったら、流石に複数の布団の換えを用意しておくのは厳しいので、この方法で対応するしかありません。
又、介護用のおねしょシーツはとても高価なので、子供用のおねしょシーツを買って代用しました。


在宅で介護する場合、最初に直面するのが下の処理だと思います。
そのストレスはジワジワと少しずつ積もっていきます。
日に日に心が荒んでいく、介護する側とされる側…

ここで、介護保険を使うと、どんな事をしてくれるのか。
医師に言われた通り、市役所に電話してみました。

……つづく

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