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ベンチャーディールズ (1) スタートアップの資金調達方法 /Venture Deals - How to Raise Money

以下、米国VC・Foundry GroupBrad FeldJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

講師はベンチャーキャピタリスト、聴講者は起業家です。Venture Deals2020年夏のオンラインコースはもうすぐ始まりますが、まだ参加は間に合うと思います。ご興味ある方は是非。

今回は「How to Raise Money」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になる本なので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

このセクションではどのように資金を調達するのか、について説明します。資金調達に対するいくつかのハイレベルな考え方、リードインベスターとなるベンチャーキャピタルとの具体的な関わり方、及び資金調達の進め方、について話していきます。

1. 資金調達における心構え

(クリント)スタートアップがベンチャーキャピタルから資金調達する際、スタートアップ側の取り組む姿勢・心構えは重要でしょうか?

(ブラッド)とっても重要ですよ。ベンチャーキャピタルからの資金調達は常に困難が伴います。思ったよりも時間がかかり、事前に予想し得ない多くの事が起こります。

資金調達プロセスに入るにはまず「絶対にこの資金調達を成功させるんだ!」という心構えを持たなければなりません。
資金調達とは、ヨーダの言葉を引用すれば、「やるかやらないか、だけだ。試すなんてことはあり得ない」( To do or do not. There is no try)と言う性質のものです。あなたは資金調調達を「試す」のではなく、絶対に資金調達を「する」のです。この資金調達という、先行きが予想し得ない、スリリングで混沌としたプロセスにあなた自身がコミットし、適合させることで、ようやく成し遂げることができるのです。

2. いくら資金調達すべきか

(クリント):資金調達に対する心構えができたとします。どれだけの資金資金調達をすればいいのですか?それはどのように決められますか?

(ブラッド)調達すべき金額とは、あなたのビジネスが次のマイルストーンに到達するために最低限必要となる金額です。調達金額及びマイルストーンは、あなた自身が決める事項になります。

マイルストーンの定義はとても重要です。私のいうマイルストーンとは、あなたのビジネスがより価値のあるのステージに移行した、と言える段階を指します。

必要な資金調達金額は、そこに到達するために何が必要かを考えれば出てきます。しかし、ここでいう「必要な」とは、あなたがそこに到達するために最大限に必要な資金ではなく、最低源必要な資金です。最終的な調達金額はその水準にはならないかも知れませんが、資金調達を成功させるために必要となる事項を論理的に整理・組み立てた上で決めた調達額、ということになります。ある範囲の調達レンジを決めて、外に出て投資家周りをする、という考えは非論理的です。

あなたがベンチャーキャピタリストである私のところに来て、「300万ドルから500万ドルの間で資金調達しようとしている」と説明したら、私はすぐに、300万ドルまたは500万ドルのどちらかを選択します。 したがって、レンジを用いて説明するのではなく、特定の金額を準備して臨んでください。

あなたの会社がまだアーリーステージで非常に若く、事業基盤を築いている段階の場合、50万ドルまたは100万ドルを調達できれば、次のレベルの到達には十分でしょう。もしあなたの会社がレイターステージで、近い将来株式公開を予定していて、バリュエーションがすでに非常に高い場合、短期的には必ずしも全額必要ない場合でも、最大限多額の資金を調達しておくことが正解、ということもあり得ます。

資金調達額には、将来企業価値に関連する幾多の分析に基づいた絶対的な解などは存在しません。自分が今どこにいて、どこに辿り着きたいのか、という考え方から、金額を組み立てていくのです。

3. 資金調達に準備しておくべき資料とは

(クリント)金額についてはわかりました。他に何をする必要がありますか?どのような種類の資料を準備しておく必要がありますか?

(ブラッド)かつては資金調達に関する多くの書類を準備しておく必要がありましたが、現在はパワーポイントのビジネスプランが主です。ビジネスプランについては大抵は、パワーポイントで記され、あなたが何をしようとしているかをまとめた事業計画のことです。

ビジネスプラン冒頭のエグゼクティブサマリーは、あなたの計画を「伝える」部分だと考えてください。それは読み手が読み物としてとして理解し、回答できるものにしておいてください。 パワーポイントのプレゼンテーションとは、大勢の人々の前に立ち、彼らの間を歩き回り、ビジネスで何をしようとしているのかを「示す」ために使用するものです(が、エグゼクティブサマリーだけは読み物として伝える事ができる内容にしておいてください)。

(クリント)デモや製品を見せることはどのくらい重要ですか?

(ブラッド)今日、起業家があらゆる種類のプロトタイプを作る能力は、以前よりも格段に向上しており、また簡単かつ低コストで作る事が可能になっています。昔はPoC用のアプリを作るだけでも、それなりの資金と労力がかかりました。今日ではラップトップ上で、ほんの少しの作業でプロダクトを示すことができるようになりました。MVP (Minimum Viable Product、必要最低限の機能だけを備えた初期プロトタイプのこと)の概念やリーンスタートアップの概念はここ数年で広く浸透し、ビジネスを立ち上げ、実行する際の強力な手法となっています。

投資家として、私は起業家が持ってきた初期バージョンの製品をいじって遊ぶことが好きです。初期ユーザーになって、彼らが実際に何を作り提供しようとしているのか、きちんと理解したいのです。製品が機能するかどうかはそこまで見ませんが、私からのフィードバックに起業家がどのように反応するか、また起業家と自分自身との噛み合わせについては見ています。投資家との関係性を考えてみて下さい。それは時間をかけて構築していくものであす。あなたが作成した素晴らしいプロトタイプは彼らを驚かせ、唸らせるためでなく、双方がその改善に向けて継続的に従事し、関与させていくことを目的としているのです。

4. 投資家にはどこまで正直に話すべきか

(クリント)その間、ビジネス上で何か問題が発生したとします。例えば主要な顧客を失った、共同設立者が去った、等です。それらはきちんと投資家に示しておく必要があるのでしょうか、それとも次のデューデリジェンスの段階で後々示せば良いのでしょうか?

(ブラッド)投資家とのコミュニケーションに当たっては、非常に重要な原則が2つあります。 1つは透明性です。あなたは、何が起こっているのか、何をしているのか、そして何を考えているのかについて、将来の投資家とオープンにして下さい、そしてあなたは早い段階で長所と短所を明確にしておきいて下さい。投資家側から詮索して掘り下げてもらうのではなく、自分たちがどのような状況にいるのか、を自ら説明していく事が重要です。

2つ目は、決して嘘をついてはいけない、という事です。あなたが嘘をついた時は、あなたが我々投資家とコミュニケーションできる最後の時であるということです。ほとんどの投資家は、嘘をついた事がわかると、あなたとは付き合うべきではないと即座に判断します。

一方、あなたが掲げる野心的な「目標」と「誇張」は別物です。あなたのビジネスの中身を見て、実際には7人のユーザーしかいなかった際、 「私たちは何百万人ものユーザーを獲得することを目指しています」と言うのと 「何百万人ものユーザーがいる」と言うのは全く別です。誇張の文脈で事実を歪曲してはいけませんが、あなたがどこに向かっているか、どんなビジョン掲げているか、を野心的に話すことは何の問題もありません。

5. スタートアップの事業計画の数値は常に間違っている

(クリント)事実と目標はどのように財務計画に組み込まれますか?財務計画では何を見ていますか?

(ブラッド)アーリーステージのビジネスでは、絶対的な真実が1つあります。それは財務計画は常に間違っている、と言う事です。収入・支出項目のうち、支出項目はコントロールできます。もしあなたが事業展開していく上で、支出をうまくコントロールできない場合、あなたはとりわけアーリーステージのビジネスをうまく回せていないと言うことになります。

財政計画の収入項目は大いなる妄想です。事業を始めたばかりの段階で、あなたが3つ、4つ、または5つの事業に対する予知能力を持っている、なんてことはありません。私のようなアーリーステージ投資家は、財務計画の数字そのものは気にしませんが、2つのことは着目します。

 1つは、あなたのビジネスが実際どのようにワークするのか、あなた自身が抽象的な概念レベルから理解しているかどうかです。

「あなたの製品について、話してもらえますか?」「誰がお金を支払い、そして何に対してお金が支払われるのでしょうか?」「売上総利益のダイナミクスはどうなりますか?」「私が資金拠出をしようとしている中で短期間・長期間における費用構造について、合理的な方法で話していただけますか?」こうしたことを聞きます。

2つ目は、あなたが思い描いているビジネスが、大きなビジネスになるかどうかということです。毎年数%程度ずつ成長させるビジネスモデルの場合、例えば年間10-20%程度の成長率で、将来的に100万ドルの売上規模を見込む場合、それはベンチャーキャピタルが支援するビジネスとは言えません。一方で100万ドルを調達し、事開始3年間で1億ドルの売上と2千万ドルの利益達成を見込む事業プランを描いたとすれば、それは妄想に過ぎないと思います。私が見ているのは、こうした感覚があなたの財務計画から得られるか、また財務計画がきちんと考え抜かれたものか、そして事業業がうまくいくかどうかについてあなたが良い感覚を持っているかどうか、です。

6. できればブートストラップで出来る限り事業を伸ばしていくべき

(質問者:学生)ブートストラップで行くべきか資金調達すべきか、どうすれば判断できますか?(※ブートストラップ:外部資金調達をせずにビジネスを行うこと)

(ブラッド)ブートストラップは事業拡大における本当に強力な手法です。私の意見では、もしブートストラップが可能であるならばそうするべきで、資金調達はできる限り延期すべきです。必要最小限の資金で、できる限り多くの進歩を遂げてください。巷では外部資金調達の成功=ビジネスの成功と思われる節がありますが、何の関係もありません。資金調達の成功はこれから始まる長い旅路のスタート地点に過ぎません。事業を自己資金で賄うことができ、資金を調達することなく拡大が可能であれば、将来外部資金を調達する際、あなたはより多くの進歩を成し遂げる事ができ、結果として、より高いバリュエーションを正当化することができるし、あなたはより良い条件を得ることができるでしょう。資金調達する必要がない、と言うことは、あなた自身が会社及びビジネス全体をコントロールできていると言うことであり、素晴らしいことです。

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