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Tiger Global Managementの事例を踏まえた、LP持分譲渡と個別株式売却の違い

2021年に合計315社の(主にレイターステージの)スタートアップに対し投資を行ってきたTiger Global Managementが、自身が保有する株式(正確にはTiger GlobalがGPとして運用するファンドが保有する株式)の売却を始めているらしい(以下Pitchbookの記事より)。

Tiger Global Managementはこれまで多くのファンドを組成してきているが、どのファンドのどのポートフォリオ企業が今回売却対象となっているのかは不明である。推測ではあるが、最もスタートアップの評価額が高く、現坐剤最も評価額が下落している2021年組成の15号ファンドの投資先が対象となっているものと思われる(15号ファンドのパフォーマンスの状況については下記の過去記事をご参照)。

上述のPitchbookの記事によれば、当初Tiger Global Managementは"Strip Transaction"、つまり既存ファンドのLP持分を新たなLPに譲渡させる方式でキャッシュの確保と既存LPへの売却代金の分配を検討していたらしい。ところが、LP持分の買い手が見つからず、結果ポートフォリオ企業個社の株式売却に切り替えた、とのこと。
概要についてはこれくらいしか明らかになっていない中、以下勝手な推測になるが、「なぜこのタイミングでTiger Global Managementはキャッシュ確保に乗り出したのか」「なぜLP持分譲渡では買い手が見つからなかったのか」「今後の業界にどのような影響がありそうか」について私見を綴っていきたい。

1.なぜこのタイミングでTiger Global Managementはキャッシュ確保に乗り出したのか

Tiger Global  Managementは以下の通り、過去数十年に亘りプライベートエクイティ投資を継続してきている。そのうちレイターステージのベンチャー投資に注力し始めたのが2018年、2020年、2021年が組成年(ビンテージイヤー)のファンドと考えられるが、いずれもファンドの存続期間が終了するタイミングとは程遠く、そこまで投資回収を早めるタイミングでは全く無い。

公開データ等をもとに作成

ではなぜこのタイミングでTigerは資金回収を急がなくてはならなかったのか。一言で言えば評価損の確定だろう。15号ファンドはまさに相場的には一番高騰していた時期に投資していた銘柄が多く、これ以上保有し続けていても評価額が回復し、高値で売れるという可能性は低い。であれば今、LPに分配金を払ってしまおうという考えが働いたものと思われる。だが一方で、ファンドの運用者であるGPが、そんな不確定な将来について「この株価はもう戻らない、損を出しても売ってしまったほうがいい」と断定できるものなのだろうか。さらに、損を出してでも保有株式を売却するという判断は、顧客(LP)の利益のために最大限の努力を尽くすというフィデューシャリーデューティー(FD)上、どのような整理がつくのだろうか。このように考えてくると、損切りを確定させたのはGPであるTiger Globalの独断ではなく、LPの強い意向も多分に汲んだ上で、実行に移したものと思われる。TigerのLP投資家は米国内の地方公務員年金基金等の機関投資家で構成されている。いわゆるプロ投資家である機関投資家は(FD)について極めて目線が厳しい。機関投資家からの強い意向もあって、今回保有株式の早期売却に踏み切ったものと推測される。

2.なぜLP持分の譲渡では買い手が見つからなかったのか


これはシンプルに売り方に問題があったのだろうと推測する。譲渡対象としたアセットの質があまりにも悪かったのだろう。譲渡対象となるポートフォリオ企業の中で、パフォーマンスの比較的良い企業と悪い企業を織り交ぜて売却交渉を行った場合であれば、もしかしたら買い手が見つかったのかも知れない。が、明らかにジョーカーしかいないような組み方のセットセールスをしてしまったのではないか。

3.今後の業界にどのような影響がありそうか

この記事を書いている時点(2023年6月25日)では、まだ売却先が見つかっていないとのことだが、もし今後売却が進んでいった場合、業界にとっては基本的にポジティブな影響しか与えない。Tiger Global個社にとっては悲劇だが、業界にとってはこれまで取引量が限定的であったVC業界におけるセカンダリー市場の裾野や深さがこれを機に拡大していくのかも知れない。

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