村上世彰氏がブレない「生涯投資家」であることがわかる資料を発見
2006年頃にニッポン放送買収騒動で一躍有名になり、そしてその後インサイダー取引で逮捕され、出所後は引き続き投資活動を継続してきた著名投資家、村上世彰氏は2017年に「生涯投資家」という著作を出した。
この表題に嘘偽りなく、これも村上氏がずっとブレずに同じスタイルの投資を繰り返してきたことがよくわかるプレスリリースがあったので、掲載しておきたい。
そのプレスリリースとは、2022年8月にジャフコのホームページに掲載された「株式会社シティインデックスイレブンスらによる当社株式を対象とする大規模 買付行為等が行われる具体的な懸念があることに基づく当社の会社支配に関す る基本方針及び当社株式の大規模買付行為等に関する対応方針の導入に関する お知らせ」という題名のプレスリリースである。
株式会社シティインデックスイレブンスは村上氏が活動に関与している投資会社であり、このプレスリリースはジャフコが村上氏から突然「おたくの株式を今買い増している」「(株主から抜けて欲しいなら)自社株買いしろ(そうしたら、自社株買いと同時にジャフコの株価が上昇した瞬間に売り抜けて撤退してやる)」と言われたことを踏まえて公表されたプレスリリースだが、この別紙1にてこれまで村上氏が行ってきた数々の大量公開買い付けディール(合計12件、最後の「その他案件」11件を加えると23件)が掲載されており、その投資の手法を理解することができて大変勉強になる。
その手法は簡単に言ってしまえば、以下(1)〜(4)の条件を満たす上場企業に対し、以下①〜④の手順で比較的短期間で株式購入→売却を行うものである。
<条件>
(1) 買収防衛策等に何らかの隙がある。
(2) 自社株買いを行う余裕のある水準で現預金または即時換金可能な資産を保有している。
(3) PBRが1倍を大きく割れている等、株主還元強化の交渉がしやすい株価水準にある。
(4) 村上氏および村上氏関連企業がマジョリティ出資ができる水準の時価総額である。
<取引のプロセス>
①株式保有比率5%超(財務省に大量保有報告書を提出し公表する必要のある水準)まで上場企業の株式の買取りを進める
②さらに1年程度をかけて、保有比率9%〜40%の水準まで買い増しを進める
③買い増しを進めた段階で、取締役交代等の提案を行い、それが嫌ならプレミアム付き価格で自社株TOBを行い、村上氏関連企業が保有する株式を買い取れ、と迫る
④企業はやむなく③の条件に応じ、村上氏および村上氏の関連企業は市場価格対比でも有利な株価で売却し、売却益を得る
<以下、ジャフコプレスリリース内で取引詳細が掲載されている企業事例>
・アコーディア:村上氏が持株比率を24%まで高めた上で、当社が保有するゴルフ場の約7割を売却した後、その売却代金を自社株TOB(プレミアム付き)に充当する取引を実施。その際、村上氏は株式を売却。
・MCJ:村上氏が2012年後半から株式を買い集め、2013年3月時点で村上氏関係者で19.52%まで持株比率が上昇。その後、当社が大規模買付行為を是認し対抗措置を取らないことを公表した後、株価が急騰した段階で村上氏っ関係者は株式を売却。
・黒田電気(上場廃止):2015年頃から大量に株式を買い集め、2017年11月上旬までに持株比率は約38%まで上昇。その後、当社および外資系投資ファンドが、当社上場廃止に伴う自社株TOBを実施し、村上氏関係者は保有する株式を売却。
・新明和工業:2019年2月までに持株比率を23.74%まで高めた上、当社は自社株TOBを実施し、2019年2月に村上氏関係者は大部分の株式を売却。
・三信電気(※2回も自社株TOBを実施している事例):2015年4月頃から村上氏関係者が市場で株式を大量に買い集め、持株比率が38%まで上昇。その後、2018年5月に当社は自社株TOBを実施。その際、村上氏関係者はその持株比率を13.90%まで減少させたが、その後、2021年6月に第二回TOBを実施。その際も村上氏関係者に、市場対比有利な価格での売却機会を提供している。
この手の取引が23件並んだジャフコのプレスリリースを読んだ時、村上氏の「生涯投資家」という言葉に嘘偽りは無い、と改めて確信した。2006年のニッポン放送株取引の事件以来、全くブレずにほぼ同じ手口で取引を続けてきているのである。それは「自分達は会社側からみれば嫌われ者の株主だ」ということを前提に、「こんな嫌な株主を締め出したいなら株式を高く買い取れ、そうすれば株主やめてやる」という、いわば自分達が会社からしたら嫌われ者の株主であることを自認した上での投資手法である。あくまでこの交渉に乗りそうなコーポレートガバナンス上の隙のある企業をピックアップし、株価を吊り上げた上で高値で売却(会社に買い取らせる)する、という短期間での裁定取引を行なっているだけである。自分自身が日本企業にとっての毒薬となることで、コーポレートガバナンスの強靭化を裁定取引を通じて推進することこそが、村上氏および村上氏関連企業がこの投資活動に見出す社会的大義なのかも知れない。
財を築き上げ経済的に成功し自身の衣・食・住の欲求を満たした人々は、次は社会的欲求等を満たすためか、政治家や公職に転身する姿をよく見てきた。だが村上氏の場合は全く違う。この短期売買を続ける仕事に生涯を捧ぐ予定なのだ。年を取ったら少しは嫌われ者であることに疲れて、たまには社会的名声も欲しくならないのかなとふと思ってしまうが、そんなマズローの欲求5段階説には当てはまらない、生涯投資家をブレずに貫き通す村上氏の性格が、一連の23件の過去の取引から滲み出てくる。
プレスリリースを読んでここまで面白かったのは久しぶりであり、ぜひ皆さまもご一読いただければと思う。
(ご参考)村上氏が関与するシティインデックスイレブン社が現在5%超の株式を保有する企業は、以下リンク先から見れます。
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