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Venture Deals(9) 転換社債

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

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今回は「Convertible Debt」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。なお、Venture Dealsはベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルのような本なので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

転換社債は90年代半ばから後半に非常に人気がありました。それからしばらくの間姿を見せませんでしたが、今ではものすごい勢いで復活を遂げました。この章では、転換社債とは何か、その長所と短所について説明します。

(クリント)転換社債とは何ですか。特に、優先株による資金調達と比較して何が違うんでしょうか?

(ジェイソン)転換社債とは、優先株式への転換が可能なローンです。その本質は負債、つまり借入金です。その契約書上には 「私はあなたに百万ドルを貸し、あなたはその百万ドルを返すと約束します。」と書かれます。
通常の銀行ローンとは異なり、後に優先株への転換か予測される負債になります。私が転換社債を通じてあなたに資金を与え、後にあなたが他の投資家から優先株による資金調達を受けた場合、私から調達した転換社債は所定の価格または他の投資家が払った取引価格の割引価格で、株式に転換されるのです。

(クリント)起業家が転換社債を使うメリットは何ですか?

(ジェイソン)いくつかあります。昔は、資金調達するだけで30,000ドルから40,000ドルの費用がかかりました。さらに90年代半ばにさかのぼると、45,000ドルまたは50,000ドルもの多額なコストがかかりました。一方で転換社債であれば、所用費用は5,000ドルで済み、数日程度のプロセスで済んでしまいます。

昔は、「転換社債は速い、安い、簡単、弁護士にとって金儲けにならない」という見方が大半でしたが、最近では価格優位性はそれほどでも無くなってきています。現在、シリーズAの株式資金調達であれば$ 20,000〜 $ 25,000の費用で行うことができます。転換社債は約15,000ドル程度です。コストの観点からは、大きな違いはありませんが、転換社債の方が少しだけ速くてプロセスが簡単です。そして、それが転換社債が普及した理由の当初の考えでした。

その後、というか特に最近のことですが、起業家が企業価値に関する議論を遅らせるには格好の手段であるとの背景から人気が出てきました。優先株による資金調達と異なり、転換社債では投資家と企業価値に関する議論は不要です。「ここに百万ドルがあります。あなたは私に百万ドルを返すか、もしくは後に新たに株式で資金調達すると、その百万ドルは株式に転換されます。」議論はこれだけです。

論点があるとすれば、ディスカウントがあるかどうかです。通常、VCからは「我々は他の投資家より先にリスクをとってあなたにお金を出した。だから、転換価格は次の資金調達ラウンドで発行した株価の20%割引にしてくれ」という考えに基づき、ディスカウント条件がつきます。起業家はその時点で企業価値に関する話し合いをする必要がないので応諾することが多いです。企業価値の議論になると、非常にタフな話し合いになることが多いので。

(クリント)転換社債の中にはキャップ(上限価格)が付いているものもあります。キャップとは何か、そしてそれが企業価値の議論にどのように関係しているのかについて教えてください。

(ジェイソン)あなたが今日、会社を始めたとしましょう。通常、私はその会社が200万〜400万ドルの企業価値があるかどうか、を見ています。そこであなたは言います、「ジェイソン、私は企業価値の議論をしたくありません。この会社はすでに1000万ドルの価値があると思っているんです。あなたは投資したいと思っているし、私はあなたに投資してほしいと思っている。転換社債でやってみませんか。次のラウンドの20%ディスカウントを条件にしますよ」

そこで私はこう答えるかも知れません。「ええ、私はあなたがかなり優秀なセールスマンで、またとても面白い会社だということも知っていますよ。ところで、次のラウンドで2000万ドルを出してくれるVCを見つけることができたらどうでしょうか?こうなるんじゃないでしょうか?私にとって転換社債はそれほど良い取引にはなりませんでした。つまり、私は他の投資家により早くお金を入れ、あなたは一年働き、そしてあなたは大きな企業価値での資金調達に成功し、大きな評価を得るに至りました。一方私はというと、自分が初期の初期の投資家であるという正当な信用・評価を得られませんでした。」
だから私は転換社債にはキャップを付けるつもりです。 評価額が「X」に到達するまでは20%の割引を受けます。一方で、そのXの評価額にはキャップ、つまり上限を付けます。したがって、実際の企業価値がどうであれ、私の転換社債はそのキャップを上限とした価格で株式に転換されます。

さて、キャップにはいくつかの意味があります。 1つは、転換が起こるであろう価格よりも大きな企業価値になった場合に備え、VCを保護することです。

もう一つです。あなたが目の前に持っている一枚の紙に、「本日、我々は企業価値評価額は最高で「X」とすることに同意しました」と書かれています。例えばその企業価値が800万ドルだとしましょう。これは何を意味していると思いますか?
私が転換社債を行っていない、ベンチャーキャピタリストだとしましょう。私が来て、あなたの会社にお金を出そうとしています。私が最初に尋ねるのは、「ねえ、あなたはどこか他のVCからお金を受け取ったことがある?」です。 そこであなたは「はい、ユージーンベンチャーズから100万ドルを受け取りました」と言います。その後こんな感じで会話が続きます。
「へえ、どんなスタイルで?」 
「転換社債ですよ」
「 やるじゃん。キャップはあった?」
「ええ」
そこで私は「キャップはいくら?」と聞き、あなたは
「ええと、500万ドルですね」と言うのです。

この会話の中で、ベンチャーキャピタルとして私が注目している数字はいくらだと思いますか?大抵500万ドルですね。そのため、起業家が意識していようがいまいが、実際には、キャップ設定額が次のラウンドの企業価値の水準の目線になるのです。

このため、転換社債は、「ああ、企業価値の議論を遅らせることができます」と言える魔法な道具ではありません。キャップがあるということは企業価値の議論がすでに行われているに等しいからです。ですがそれを実際にオープンにすることはできません。

まるで、ガールフレンドとボーイフレンドの間で、本当に今はやりたくないんだと言いつつ、お互いその機会を狙ってという受け身な議論をし合っているような感じです。

(学生①)20%のディスカウントと言うのは標準的な水準ですか?また、20%のディスカウントを前倒しで対応してはいけないということも聞いたことがあります。 例えば「今後6か月でシリーズAを行うと、5%の割引になります。 6ヶ月から10ヶ月の間に行った場合、10%の割引です、等」の条件は設定できないと聞いています。標準的なディスカウントのストラクチャーを教えていただけますか?

(ジェイソン)あなたの質問はとても大きな問題を提起しますね、ちょっと脱線した上であなたの答えに回答しましょう。

まず第一に、ベンチャーキャピタリストは転換社債が好きでしょうか?少なくとも私は好きではありません。私は価格を設定し、自分が何をどのくらいの価格で買っているのか知りたいからです。私はすでに転換社債を好きではない中、あなたはそれを可愛らしくぶち込んできて、交渉しようとします。そして私はこう言います 。「どういうわけかわからないけれど、私たちがおむつをしているずっと昔に、ディスカウント水準というのは20%だと設定しました。 だから20%は妥当なようです。」

なお、あなたの質問についてですが、タイミングの観点からあなたの考えていることは非常に重要だと思います。通常、これらの転換社債では、資金は6、9、12か月より長くは続きません。私は実際に20%の割引はかなりまっとうだと思います。5%割引は(リスク・リターンの観点から)割りに合いません。他の誰もあなたに資金を提供しないですよ。

(学生②)交渉の際、ディスカウントとキャップ、どちらがより大きな論点になりますか?

(ジェイソン)間違いなくキャップです。ディスカウントの設定水準は20%が標準だと話しましたが、私はこれまで10%や30%も見たことがあります。 5%は見たことがありません。 20%で大体の皆「OK」と答えますのようですし、ほとんどの弁護士は、「はい、それで結構です」と言うでしょう。

しかし、繰り返しになりますが、ディスカウントについては、現段階では起業家が望んでいない、企業評価の議論をせざるをえません。そもそも、転換社債調達を検討するのも、企業価値の議論をすることがその時点できないからであるにもかかわらず、ディスカウントの議論を行うと言うことは、暗黙のうちにそれを行っているようなものです。だから、本当に重要でかつ大きな議論を呼ぶポイントになります。

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