見出し画像

AI関連スタートアップの売上高マルチプルはおおよそ25倍である、というレポート

2022年のOpenAIによるChat GPTのリリース以降、急速にその市場を拡大させつつあるAI関連スタートアップ。

AI関連スタートアップの資金調達の件数・調達額が共に拡大傾向にある現在、ポーランドのワルシャワにあるM&A助言会社であるAventis Advisorsが上述のレポートを公表している。

ChatGPTをはじめとする革新的な生成AIモデルの発表は世界に衝撃を与えた。生成AIの登場により、ベンチャーキャピタリストは既存投資戦略の見直しを行い、企業は製品のロードマップや新規投資の方針を見直した。メディアでは、OpenAI、Anthropic、Perplexityなど、主要なLLM(大規模言語モデル)開発企業による資金調達のニュースで埋め尽くされた。

OpenAIが人間の知能を凌駕するAGI(汎用人工知能)を作り、生成AIでは同社が一強のポジションを占めると思いきや、何千もの小規模なAIスタートアップがその技術を活用してニッチなソリューションを開発しており、多くのスタートアップが登場している。

テクロジー関連スタートアップが面白いのは、First Moverが必ずしも市場でナンバーワンになる、というわけではない点である。

検索エンジンの事例で言えば、Googleは18番目に登場したスタートアップであったが、瞬く間に市場を席巻した。

基本的にAIセクターは多くのテクノロジー関連セクターと同様「First Movers Advantageが存在しないが、Winnner Takes Allの世界」だと思うので、これからGoogleのような市場シェア1位の会社が登場していくのだろうと思うとワクワクする市場である。

以下、そんなAI関連スタートアップの情報である。

無料で公開されているレポートとしては有益な情報ばかりであり、以下参考和訳を載せておきたい。

<参考和訳>※完訳ではありません

始めに:AI関連スタートアップの調査方法

  • 調査対象は、2010年から2024年2月までの間に世界中で行われたAI企業による資金調達ラウンドである。

  • データソースはCrunchbaseで、AIセクターに該当したラウンド件数は51,000件である。

  • 尚、当社の分析では、Crunchbaseの業界タグ「人工知能」に基づいてAI企業を定義している。これには6つの異なる産業サブセグメントが含まれる:GenerativeAI、ML、Predictive Analytics、NLP、RPA、Intelligent Systemsである。

  • 当社の分析では、過去数年間における資金調達量、AI関連スタートアップに投資された資金の額、資金調達ラウンドの中央値、AI関連スタートアップのプレマネーとポストマネーの評価額の把握に重点を置いた。

調達ラウンド件数

  • 調査の対象期間は2010年からで、2010年当時AI関連スタートアップの資金調達ラウンドはわずか240件であった。

  • その後、2015年以降、AI関連スタートアップの資金調達ラウンドが急増していった。2015年は人工知能業界にとって重要な節目である。2015年には、人工知能分野で2,000件以上の資金調達ラウンドがあり、その後資金調達が爆発的に増えていった年なのである。また、OpenAIが2015年6月に非営利団体としては史上初の資金調達を行なった年でもある。

https://aventis-advisors.com/ai-valuation-multiples/
  • その後、資金調達環境が良好であったこと、AIに対する期待が大きかったこと等から、2019年にはAI関連スタートアップの資金調達ラウンドの件数は5,700件を超えた。

  • 2021年にはI分野の取引件数は6,800件に達しようとしていた

  • SaaS企業の市場サイクルとバリュエーションも、この2021年から22年にかけてピークを迎えていたことは、SaaSバリュエーション・マルチプルに関する別レポートで確認している。

  • その後、2022年にChatGPTがリリースされ、生成AIスタートアップが新たに注目を浴びることになる。ベンチャーキャピタル、企業、そして起業家は、生成AI技術の社会的実装の可能性がより明白になるにつれて、同セクターに対する関心を高めた。

  • とはいえ2022年の資金調達ラウンドの件数は年間6000件程度にとどまっていた。

  • 2024年1月から2024年2月では、692件のAI企業の資金調達ラウンドが発生している。

資金調達シリーズ別の案件数

  • 2015年から2024年にかけての資金調達案件のうち、シードラウンドは全体の35%を占めている。そして、プレシード、シード、シリーズAラウンドを総合的に見ると、同期間における資金調達の60%を占めている。

  • その後、資金調達ラウンドの軌跡は、セクターが黎明期から成長期、そして成熟期へと進むにつれて大きく変化する。

  • AI技術に対する期待が膨らんだり、社会的な実装について実現性が確認されると、事業の拡大等を目的としたシリーズAやBラウンド等、より大規模な投資が増えてくる。これらのラウンドには通常、機関投資家やプライベート・エクイティ・ファームが参加する。

  • 2022年以降、ChatGPTの躍進を受け、大手企業はAIの変革の可能性をすぐさま認識し、LLM分野でのスタートアップ奪戦に乗り出した。何千もの小規模なAI関連スタートアップがシード資金を調達する一方で、マイクロソフトやアマゾンのような大手テクノロジー企業は、市場で支配的な地位を得るために数十億ドルを投資した。

  • そのため、資金調達額の大部分は、これまで市場が目にしてきたものを凌駕するような後期段階および企業ラウンドで調達されるようになっていく。主な超大型調達は以下の通りである。

  • マイクロソフトによるChatGPTの親会社OpenAIへの100億ドルの投資

  • アマゾンによるAnthropicへの40億ドルの投資

  • グーグルによるAnthropicへの20億ドルの投資

  • エヌビディア、マイクロソフト、その他によるInflectionAIへの13億ドルの投資

  • 2022年以降は、、特に暗号やフィンテックなど他の多くの投資テーマの関心が薄れたことも重なり、が投資家のAIへの関心が急激に高まり、その結果、多数のベンチャーキャピタル投資家がAI関連セクターに資金を投じ始めた。

  • 米国ではアンドリーセン・ホロウィッツ、セコイア、タイガー・グローバルなどが超大型の資金調達ラウンドをリードしていた。

  • 投資家は米国のベンチャーキャピタルのみにとどまらず、ロンドン、ベルリン、パリなどの機関投資家、戦略投資家、ソブリン・ウェルス・ファンド等も資金を投じている。

  • テクノロジー企業から伝統的企業まで、あらゆる分野の企業がAIを活用して業務を合理化し、意思決定プロセスを高度化し、また新たな収益源を解模索している。最大の投資家や買収者には、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、フォルクスワーゲン、インテルなどが含まれる。

AI関連スタートアップのディールサイズの中央値は7年間で3倍に

  • 2021年のテックバブル以降、ベンチャーキャピタルによる投資が抑制されたこともあり、資金調達ラウンドのサイズ(中央値)は近年低下している。

  • 2023年の最新データでは、中央値は以下の通り。

  • プレシード:$100k

  • シード:$740k

  • シリーズA:$7M

  • シリーズB:$18M

  • シリーズC:$28M


AI関連スタートアップのバリュエーション - 資金調達ラウンド別

  • 2023年時点のAIプレマネーバリュエーションの中央値は以下の通り。

  • プレシード:$3.5M

  • シードキャピ$7.0M

  • シリーズA:$63M

  • シリーズB:$150.0M

  • シリーズC:$450.0M

AI関連スタートアップの評価額算定に用いられる売上高マルチプル:おおよそ25倍

  • AIはまだ若く資本集約的なテクノロジー分野であるため、案件の大半は資本調達に集中している。当然ながら、参照可能なAI関連スタートアップの評価倍率は主に大規模な資本調達によるものである。

  • 以下では、大規模な資本調達取引とM&A取引から売上高マルチプルを収集したその結果、売上高マルチプルの中央値は25倍であった。

  • 注意)この数値には最大かつ最も成功した売却取引が含まれているため、AIスタートアップの売却を検討している創業者は、高値で売却できない可能性も十分考慮する必要がある。


結論

  • ChatGPTをはじめとする生成AIモデルの登場は、テクノロジー業界に激震をもたらした

  • 。ベンチャーキャピタルや起業家たちは、その戦略を変更し、迅速に適応した。

  • OpenAI、MistralAI、Anthropic等の大手AI関連スタートアップがニュースの話題をさらっている一方、何千もの小規模なAIスタートアップがその裏で誕生し、イノベーションを起こそうとしている。

  • アマゾン、マイクロソフト等のテクノロジー企業がこの分野に数十億ドルを注ぎ込むと、AI関連スタートアップのバリュエーション(の中央値)は急上昇した。

  • SaaSやその他ITサービスなどの既存セクターと比較すると、AI関連スタートアップのデータはまだ多くない。

  • そのため、特にExitを考える際の評価額には注意が必要である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?