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ベンチャーディール(30) VCとの交渉に向けて/ Venture Deals - Getting to an Agreement

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

前回に続き、交渉に関する講義として「Getting to an agreement」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他の講義も順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルなので、是非ご一読ください。


(以下、講義和訳)

1.概論

このセクションでは、VCとの交渉をうまく進めるにはどうするか、合意に達する(資金調達を受ける)にはどうしたらいいか、について説明します。

(クリント)まず、スタートアップがVCとの交渉を有利に進めるにはどうしたらいいでしょうか?

(ブラッド)複数のオプションを準備しておくことです。もし、複数のVCと同時に資金調達について交渉していて、2〜4つのバージョンのタームシートがある場合、起業家側は現在どのVCのどのタームシートがベストな条件なのか把握しているので、その条件を他のVCに持ちかけることが可能です。

ただしこれにはタイミングが非常に重要です。「鉄は熱いうちに打て」という諺の通り、交渉のモメンタムは時間が経つとすぐに劣化していきます。VCとの交渉を長期間続けるのは極めてハードです。とあるVCからタームシートを入手した一方で、他のVCと同じタイミングで交渉に入ることができる可能性は実際にはほとんどないでしょう。

複数の交渉を並行して行うために一生懸命タイミングを調整して、最初のタームシートを入手したら、他のVCにYesかNoを突きつけ、そして1週間から3週間にわたるタイトな交渉を行う。。。タイミングが合えば有効な手法ですが、そんな自分の思い通りにタイミングを合わせにいくのは実際には困難です。

2.複数のVCと同時に交渉を行うには

(クリント)複数のVCとの交渉を同時に行うためのコツはありますか?

(ブラッド)とても難しいです。"Herding Cats"のことわざの通りで、大勢の人の意見をまとめるのは不可能です。VCにあなたのペースに合わせるよう仕向けることはできません。あなたがVCとの交渉において唯一できることは、自分自身がコントロールできること・できないことの境界線を引き、理解しておくことです。

多くのスタートアップは、「あなたの会社への投資に関心があります」とほのめかしてくるVCが出てくると、その他のVCとは距離を置き始め、もしかしたらタームシートを結べるかも知れない、という希望的観測に興奮しがちですが、多くの場合はそれは希望的観測に過ぎません。それがわかった時、あなたは一度距離を置いたVCに再度アプローチしなければなりません。

複数のVCと並行して交渉を行う場合は、VCに対してタームシートを提示の上「来週末までにはこのタームシート交渉を終えたいです」と明示的に期日を指定する方のが効果的です。ただし、この方法は、明らかにVCが投資に関心を示しているとわかるまではとるべき策ではない、ということも理解しておいてください。特定の検討期限を提示しておいて、その日に誰も現れなかった場合、「皆さん、待ってください。私たちはみんなにさらに2週間与えますよ」と言うのは非常に厳しい状況に追い込まれます。この時点であなたは交渉上の優位性を相当失っています。こうした交渉の進捗管理プロセスは若干テクニカルですが、全てのプロセスを直列ではなく並列で実行していく、という考えがポイントです。

3.タームシートは起業家側から提示するな、VCから提示させろ

(クリント)起業家がVCから提示される前に、自分たちからタームシートを提示することについてどう思いますか?

(ブラッド)私はスタートアップからVCにタームシートが提示されることはあまり好きではありません。これが本当に効果的な状況はただ一つで、それは、多数のエンジェル投資家のグループと多数のシードステージのVCを集めてまとめて一気に資金を調達しようとしているときです。通常はVCからスタートアップにタームシートを提示します。この場合、投資家にとってはVCが出してくる用語や、付与される可能性のある条件がわからないといった状況が起こるかも知れませんが、彼らに交渉のスタート地点を委ねることで資金調達のポイントはどこなのか、について起業家は多くの情報を得ることができます。

もう1つ言えるのは、タームシート交渉は起業家のほうが知識・経験の面でVCよりも明らかに少ないので、もしタームシートが起業家から出てきた場合、VCは「なぜあなたの会社はタームシートのこの部分の条件について望むのでしょう?」といった質問を繰り出す可能性があります。そしてこの場合、起業家は大抵の場合答えを持ち合わせていません。その瞬間、VCにとってその投資案件からドロップアウトするのは非常に簡単です。

4.タームシート締結に至るまでのポイント

(クリント)どうやってVCと契約まで辿り着けることができるのでしょう?契約を結ぶのはどうですか?契約書調印まで完了し、投資家からの資金振り込みまで完了させるための何かしらの原則はありますか?

(ブラッド)まず、タームシートの合意と実際の資金調達の完了には大きな違いがあることを認識してください。タームシートに合意に向け邁進している際、重要なのは内容を細かい部分まで落とし込まず、比較的包括的な、中傷度の高い内容に交渉の内容を保つことです。
タームシートのうち、特に重要なEconomicsとControlに関する条項は重要です。ですが、一言一句、一行毎に交渉するようなことはやめましょう。行ごとに交渉しないでください。それらの内容を一括りにしてVCと交渉してみましょう。

一般的に、あなたは数日のうちにタームシート交渉を完了させることができるはずです。タームシート文言で行ったり来たりのやりとりをするようなことはないはずです。あなたが雇う弁護士が非常に頼りになるとしても、VCとの交渉を弁護士に委ねてしまうことはやめましょう。ビジネスジャッジに関する交渉は起業家の皆さんとVCとで行いましょう。その上で、タームシートのドラフト作成時に弁護士に手伝ってもらいましょう。

5.タームシート締結後、クロージングまでのポイント

さて、タームシートに合意したと仮定しましょう。その後、資金調達を終了するまでに要する時間は30〜40日程度です。その後、正式な契約書のドキュメンテーション作成プロセスが存在するからです。また、その間VC側でもいくつかのDDが残っているためです。

正式な契約書のドキュメンテーション期間中、弁護士には多くの作業を行なってもらうことになりますが、起業家はきちんとその状況をフォローしてください。最終DDの結果、何かしらビジネス上の問題が表面化した場合、VCはそれがタームシートで定められているか否かに関わらず、最終契約書上にそれを反映しようとしてくることがあるからです。

ドキュメンテーションにおいても、タームシートと同様、文言の仔細に至るまで突っ込み合うのではなく、包括的なコンセプトに基づく議論・交渉が重要です。この期間中、起業家側・VC側どちらの弁護士からどのくらい多大な修正・マークアップが戻ってくるのか、一般的な頻度は申し上げられませんが、弁護士からのマークアップの個数に誰もがびっくりします。そして残念なことにそのほとんどは多くの意味を成すものではありません。

さて、ドキュメンテーションが進む中、起業家側が雇う弁護士から「VCはなんだか12個新しい条件や文言を入れてきました」と言われたとたら、それを聞いた起業家の皆さんはすこしドキッとすることでしょう。こうして、起業家側の弁護士による文書のマークアップ・修正作業に積極的になり、このドキュメンテーションのマークアップラリーが進んでいってしまうのです。

ドキュメンテーションプロセスを進める際は、常にVCと起業家間のコミュニケーションをオープンにしておき、交渉の時間軸を設定しておき、会話を宙に漂わせないようにしましょう。所要時間を明確に設定し、先方にもそれを伝え、起業家と投資家が合意する期日を設定し、弁護士もそのスケジュール・時間軸でコントロールするのです。ドキュメンテーションは弁護士がコントロールするものではなく、起業家とVCがコントロールするものです。

6.Q&A

(クリント)何か質問は?

(聴講生)もし私が比較的経験の浅い起業家であり、とある弁護士に会い、この弁護士に決めた!と思ったとします。しかし、実際に交渉プロセスが始まって、この弁護士がとんでもない(能力が低い)弁護士だとわかったとします。あなたはこうした事例を経験したことがありますか?。投資家として起業家のところに行き、「ええと、あなたは弁護士を変える必要があると思うし、私たちは交渉を最初からやり直す必要があると思います」と言うケースを見たことがありますか?もしくは事前にこうなることを防ぐ方法はありますか?

(ブラッド)こうしたケースはこれまで数多く見てきました。 VCとして、起業家側の雇っている弁護士の能力が低いと思った場合は、タームシート締結から資金調達の正式契約に移行する前に、起業家と直接会話します。
私は「あなたの弁護士はダメだから変えた方がいいよ」とは言いませんが、「あなたの雇った弁護士について少し懸念を抱いています。」くらいのことは言います。

ちなみに、通常は弁護士のクオリティについて、タームシートの交渉中にV側では理解することができます。起業家側が雇っている弁護士の評判も比較的簡単に(データベースなどで)見つけることができます。これまでの実績は離婚調停が主であり、今回がベンチャー投資案件は初めての弁護士なのか、それともこれまで400件のベンチャー投資案件に携わった経験のある弁護士なのか、です。

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