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ベンチャーディールズ (16) 取締役会とは /Venture Deals - Board of Directors

 以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「Board of Directors(取締役会)」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になる本なので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

今回は取締役会についてお話します。取締役会とは、企業にとって最も重要な会議体の一つです。したがって、取締役会メンバーを正しく、賢く選び、タームシート上でその構成を正しく規定しておくことが非常に重要となります。

(クリント)そもそも取締役会って一体何でしょうか?

(ジェイソン)取締役会は、会社およびCEOにとって最も重要な会議体です。起業家であるあなたの戦略立案を助け、人材の採用を助け、ネットワーク構築を支援し、あなたに知見を提供し明日ます。つまり、あなたが会社を経営するにあたってあらゆる支援を行うのです。

基本的にスタートアップには十分な人材がいませんし、あなたが望むようなスペックの経営人材の確保は難しい場合が殆どです。そうした場合、取締役会があなたにとって最も信頼できる集団として機能するのです。これが取締役会の良い側面です。

悪い側面は、恐ろしいほど時間の浪費になる可能性があることです。何かがうまくいかない度、取締役会はあなたを拷問のように痛めつけることができます。毎月1日の取締役会のためだけに、2週間かけて準備をさせ、あなたの仕事の時間を毎月半分奪い去っていくのです。彼らは頭の凝り固まった連中で役に立たないこともありますし、あなたの会社の売却を迫ってくることもあるでしょう。その他、会社にとって有害なことしかやらない連中もいます。

詳しく知りたい人は、我らがFoundry Groupのメンバー、Brad Feldが書いた「Startup Boards」の購入をお勧めします。とっても面白い本ですよ。

いずれにしても取締役会とは、会社にとって良いものにも悪いものにもなり得る、ということをきちんと理解しておくことが大事です。

(クリント)どうすれば取締役会を正しく、良い方向に導くことができるのでしょうか?

(ジェイソン)私がアーリーステージの企業のCEOである場合、まずバランスの取れたメンバーを揃えることができるよう努めます。構成員が創業者とVC、そして外部の第三者から成る取締役会がバランスの良い構成といえるでしょうか。外部の第三者とは、あなたの会社の主要な投資家ではない人のことです。

アーリーステージのスタートアップが取締役会の管理・運営をVCに委ねてしまう事例もあるようですが、それは好ましくありません。アーリーステージのスタートアップが将来、複数のラウンドで資金調達を行う度、投資家の数も増えていき、そして取締役会の議席を投資家に渡していく可能性が非常に高いため、スタートアップが成長していくにつれ、創業者が取締役会のコントロールをできない、という事態も考えられます。ですが、そのくらい企業が成長した段階においては少なくともVCと創業者はすでに信頼関係が築けているので、そこまで気にすることではありません。一方、アーリーステージのうちから、自分の会社の取締役会をVCに支配させることはやめるべきです。最初は創業者・VC・外部第三者を交えて、バランスよく意思決定をしてくべきだと私は思います。

(クリント)アソシエイトをオブザーバーとして連れて来るVCがいますが、彼らについてどう思いますか?

(ジェイソン)場合によりけりですね。ただ、私は一般的にオブザーバーやアソシエイトに対して否定的です。会社にとっては大抵役に立たないからです。そのアソシエイトがあなたを助けてくれるのであればいいですが、単にアソシエイトに勉強の場を提供していたり、または彼らが友人に対し「取締役会ってすごいんだぜ」と飲みながら吹聴するためだけの機会を提供しているのであれば、意味はないですね。

起業家の皆さんが常に心に留めておかなければならないことは、取締役会とはあなたとあなたの会社のためにあるものだ、ということです。アソシエイトの教育の場である等、他の目的のためになることは絶対に避けてください。

(クリント)聴講生で何か質問は?

(学生)ジェイソン、取締役は誰に対する受託者責任を負っているのでしょうか。投資先の会社ですか?それともVC等の投資家ですか

(ジェイソン)会社です。取締役会メンバーは、常に会社の最善の利益のために行動する義務が法律で定められています。ちなみにベンチャーキャピタリストである私は複数の投資先、例えば9、10の投資先企業の取締役に就任している可能性があります。さらには私はLP投資家に対しても受託者責任を負っているのです。受託者責任を様々な角度・ステークホルダーに対し負っているというわけです。

すべてが順調に進んでいる場合、何も問題はおきません。あなたがお金を稼いでハッピーならば、私(取締役)もハッピーで、投資家ももちろんハッピーです。素晴らしい。しかし、もし事業がうまくいっていなかったらどうなるでしょう?私の所属するVCとコンフリクトが起きるかも知れません。あなたは事業がうまくいっていないので事業をピボットしたいと言うでしょう。ところがそのピボットした事業の同業に私の所属するVCが投資していたらどうなるでょう?私のVCおよびそのポートフォリオ企業とあなたの会社にはコンフリクトが発生してしまいます。

スタートアップの創業者は、私のようなベンチャーキャピタリストが誰に対し、どんな義務を負っているか、注意しておくべきです。私が何であるかに常に注意を払うことが重要です。私は他にどんな会社の取締役に就任しているのか、チェックしておきべきです。

(学生)取締役人数の適切な水準などありますか?また、起業家は誰が私取締役会に入れるか等、指名権についてどのくらい権限を持っているのでしょう?

(ジェイソン)私は、VCから来る取締役は大抵役に立たないことをわかっているので、いたずらに数を多くするより少人数の取締役会が好きです。起業家皆さんに対する私からのアドバイスは、「取締役会は少人数にしなさい。そして真に信頼する人だけをそこに入れなさい」ということです。

後者の質問についてですが、あなたは起業家が取締役会メンバーの決定権限は完全に持っていないと思われていて、新たに資金調達をするたびに新たな投資家が入ってきて、そして新たな取締役がどんどん入って来る、と思われているのだと思います。

取締役会の構成人数が5名で、会社から2名、投資家から2名、外部から1名が就任しているとしましょう。多くの場合、私たち投資家はCEOにその外部の1名の席を会社のメンバーで埋めるか、少なくとも彼らが良い人物だと思う人を投資家に提示してくることを期待しています。我々投資家が外部のメンバーも呼んでバランスの取れた取締役会を維持したい理由は、外部のメンバーを投資家・会社のどちらかの力で一方的に選ばず、相互理解の上で選べるようにしたい、と考えているからです。

(学生)取締役会を設置する適切な時期はいつでしょう?VCから資金調達をする前でしょうか、後でしょうか?

(ジェイソン)会社を設立した初日からです。優秀な取締役を惹き付けるつもりであれば初日から作るべきだと私は思います。取締役会を設置するのに早すぎることはありません。彼らが会社にとって役立つのであれば、それは素晴らしいことです。

CEOは、特に外部投資家から資金調達を行う前の段階では、わがままでいるべきです。つまり、「企業を成長させるために、自分は何を求めているのか」を「私は何が欲しいのか」を発信する必要があるのです。それは「自分はこれが得意だが、これが得意ではない。だから得意でない分野を保管してくれる取締役を探そう」と自分自身で認識しておくことと同義です。

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