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ベンチャーディールズ(14) 危険なCross Fund Investing / Venture Deals - Cross Fund Investing

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「Cross Fund Investing」のセッションを和訳しました。Cross Fund Investingを和訳するのは非常に難しいのですが、「2つのファンドを跨いだ投資について」になるのでしょうか。これだけだと何をいっているかわからなくなってしまうので、そのまま英語で残しておきました。ちなみに今回の内容は少しだけマニアックになっていますが、ファンド内のいざこざや争いの様子も出てきて、読む分には非常に面白いです。

なお、和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております。この写真がBrad Feld氏です)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。なお、Venture Dealsはベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルのような本なので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

時折、ベンチャーキャピタルは一つの会社に対し、複数のファンドを通じて投資をすることがあります。これはクロスファンド投資と呼ばれます。では、このクロスファンド投資は起業家にどのような影響を及ぼすのでしょうか?以下で詳しく解説してきます。

(クリント)
クロスファンド投資とはどのような状況で起きるものなのでしょうか?

(ジェイソン)Foundry Groupの 第1号ファンドを例にあげましょう。1号ファンドは2億2500万ドル(約225億円)のファンドで28社に投資しています。これらの28社のポートフォリオ企業のうち1社が今、何らかの理由で、私たちが思っているよりも多くのお金を必要としています。我々は準備金(Reserve、フォローオン投資に充当する資金)の残高を確認してみたものの、十分な準備金がない状態だとしましょう。
なお、こういった状況に陥るのは、我々Foundry Groupが準備金の管理を怠ったからではありません。こうした準備金不足問題は、ある投資先企業について500億ドル- 100億ドルのExitを想定していたところ、(もっと大きく成長したので)もっと多くの資金が必要になった、というケースが大半です。なので、ファンドパフォーマンスとしてはとても良い状況のだと想定しましょう。問題は、Foundry Groupの1号ファンドではお金が足りず、スタートアップが必要としている資金を十分に確保できない、という点です。

そこでFoundry Group2号ファンドが登場します。2号ファンドはこんな考えで投資をできます。「私たちはこのスタートアップとすでに(1号ファンドで)関係を築いているし創業者のこともよく知っている。だから2号ファンドから投資します。」このように、異なるファンドをまたがって同一企業に投資を行うことをクロスファンド投資と呼ばれています。一見、これは良い話のように聞こえますが、実はスタートアップにとってもベンチャーキャピタリストとっても危険な手法です

何が問題でしょうか。まず第一に、各ファンドにはそれぞれ異なる投資家がいる、ということです。 投資家(リミテッド・パートナー)の構成は1号ファンドと2号ファンドで一致しません(利害も一致しません)

第二に、1号ファンド・2号ファンドのライフサイクルは全く異なる、という点です。 1号ファンドは組成して時間もだいぶ経ち、そのファンド期間も終わり(だいたい10年目から12年目)に近づいており、そろそろ手仕舞いモードだと思います(注:新規投資は終了し、あとは投資先のExitを待つのみという状況)。 一方で2号ファンドはスタートし、2号ファンド担当のパートナーは1号ファンドとは全く顔ぶれも投資スタイルも異なるメンバーであったとしましょう。もっともFoundry Groupの場合、どのファンドも同じ顔ぶれのパートナーで投資を担当していますが、あくまでここでは例として、ファンド毎に全く異なるパートナーが投資を担当していると仮定します。

たとえば、この1号ファンドは、順調に業績を上げているにもかかわらず、大きな問題を抱えていたとしましょう。一方で2号ファンドは好調だとします。ブラッドが以前に言ったように、「失敗した1号ファンドを持っていても生き残ることはできますが、それ以上の(注:3号ファンド以降の)複数のファンドを持つことはできない」ので、この場合、おそらく2号ファンドは失敗した1号ファンドを下支えします。

この2号ファンドは、1号ファンドの(失敗した)投資を下支えしている可能性があるため、ファンドとしては破綻せず、次の第3号ファンドの資金を調達することができます。こんな奇妙なことが実際に起こりうるんです。そのため、我々Foundry Groupはクロスファンド投資は好きではありません。それは我々ベンチャーキャピタリストとしての受託者責任を大いに傷つけると考えています。

起業家の皆さんにとっては、私ジェイソンは単一のアイデンティティの下、生ている人物に見えるでしょう。ですがもし私が、2つの全く異なる特徴・ステージにいるファンドそれぞれから投資をしている場合、ダイナミクスが大きく異なる2つの異なるファンドから投資している場合、実際にはジェイソンという人間は2つのまったく異なる顔を持ち、あなたの会社に対して全く異なる2種類の利益を要求する可能性があります。

(クリント)クロスファンド投資がよくない、という理由は受託者責任の観点からわかりました。ではクロスファンド投資を、投資家(リミテッドパートナー)が制限することはありますか?

(ジェイソン)我々のファンド契約では、LPの許可なしにクロスファンド投資を行うことはできない、と規定しています。我々はこの文言を自発的に投資家との契約書に入れました。過去のファンドにはこういった制限はありませんでした。この制限がないファンドはたくさんあり、それが通常なのではないかと思います。(LPにとってもキャピタリストにとってもスタートアップにとっても)かなり危険だと思います。

(クリント)同じVCファームの同一物であっても、2つの全く異なるインセンティブ(報酬体系)が与えられる場合があると聞きます。この2つの異なる報酬設計は、起業家にどのような影響を与えますか?

(ジェイソン)悪いシナリオを見ていきましょう。とあるVCが3つのファンドを運用しているとしましょう。1号ファンドは見事ホームランで、ファンドパフォーマンスが非常に好調でした。素晴らしい!そして彼らは2号ファンドを組成します。 ところがこちらは完全に空振り、パフォーマンスとしては大失敗に終わってしまいました。そんな彼らは続いて3号ファンドの資金を集めたいと考えています。そしてこのVCは2号ファンドと3号ファンドの間でクロスファンド投資を実行しようとするのです。言うなれば3号ファンドは、2号ファンドの低調なパフォーマンスを下支えするための器として、投資家からお金を集めようとするのです。

このゴタゴタと2号ファンドのパフォーマンスの悪化のために、何人かのパートナーは首になり新たなパートナーへと交代しました。彼らが資金調達の準備をしている3号ファンドは、2号ファンドを担当したメンバーとは全くことなるメンバーで投資を始めようとします。そこで、2号ファンドを担当したパートナーと3号ファンド担当パートナーで意見の齟齬が生じます。2号ファンドのパートナーが「いいか?この投資先はもう終わったんだよ!(支援するな)」と言えば、3号ファンドのパートナーは「いや、我々はこの投資先企業を継続させようと決めたんだ」と言う始末。。

私は実際に、一つの投資先に対してどのような方針をとるべきか、について、二つの異なるファンドを担当するパートナー間で激しい闘いが繰り広げられるのをいくつも見てきました。はたから見れば一つのベンチャーキャピタルファンドに見えても、中身は全く別の立場と意見を持つ者同士がいざこざを起こしているんです。もちろん、こうしたファンドのゴタゴタは、すべてスタートアップの皆さんに跳ね返ってきていましたが。。。

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