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ベンチャーキャピタリスト過去名ブログを読む②:Saas企業ならT2D3を目指せ


米国トップVCの一つであるBattery VenturesのGeneral Partner、Neeraj Agrawal氏が2015年に書いた記事を紹介します。ベンチャーキャピタル界隈で広く普及した言葉「T2D3」(トリプル×2、ダブル×3)を生み出したのがこの記事となります。

これは端的に言えば、スタートアップのAnnual Recurring Revenue(ARR)について、0期目から1期目にかけて$2Mまで伸ばした後、→2期目で3倍($9M)→3期目で2倍($18M)→4期目で2倍($36M)→5期目で2倍($144M)の成長を達成できれば、見事そのスタートアップは5年で企業価値$1Bn超のユニコーンに変貌する、という考えです。ちなみに、なぜARR $144Mで企業価値$1Bn超かというと、売上高マルチプル10倍を前提とすると企業価値は単純に$1.44Bn程度に到達するからです。

2015年、この記事が出たときは、スタートアップはだいたい5期目でIPOを行う、売上高マルチプル(特にSaasの)はだいたい10倍、という前提でT2D3が語られていたのだと思います。それから7年弱が経った今、スタートアップはIPOを急がず、またマルチプルも(業種によりますが)10倍からさらに上昇し、この記事が描かれた頃から市場の前提条件は変化しました。ですが、エッセンスはこの7年前から今も全く変わっていない、と思わせてくれる記事です。以下、記事概要を箇条書きにしたものとなります。

(以下、記事意訳)

成功するSaaSスタートアップ のARRは、T2D3(トリプル×2、ダブル×3)という成長率で拡大していく。つまり、ARRが3倍→3倍→2倍→2倍→2倍と加速度的に伸びていくのである。

このT2D3の概念は空想の産物ではなく、実例に基づいた表現である。Cornerstone、ExactTarget、SuccessFactorsなどの優れたSaas企業は皆T2D3での成長を遂げた。

以下、T2D3を実現するための7つのフェーズについて説明する。

フェーズ1:プロダクトマーケットフィットを見つけよ

顧客のペインポイントを見極め、そのペインに正しく対処しうる解決策を提供することが求められる。多くの起業家は「どうやってプロダクトマーケットフィットに到達したか知るのか?」と訪ねてくるが、残念ながら明確な基準はない。顧客と語り合う中で見つけていくしかない。

フェーズ2:ARR$2Mを目指せ

このフェーズに至るには通常1−2年かかる。顧客数でいえば30人から60人くらいのフェーズ、平均顧客単価は$30K - $80kのイメージ。

フェーズ3:ARRを3倍の$6Mまで伸ばせ

このフェーズくらいまでだと、創業者がセールスをトップダウンで完結させてしまうケースもある。が、それもそろそろ辛くなってくる。体型的なセールス組織が必要となってくる段階である。5−10名くらいのセールス担当者の採用が開始されるのがこのくらいのタイミングだろう。

フェーズ4:ARRをさらに3倍の$18Mまで伸ばせ

この頃にはセールス担当者は10−20名くらいになっている。そして、創業者が全く関与せずとも、セールス部門のみで取引が成立し始める段階である。ただし、著者の経験では、有効なセールス部門をうまく組織に当てはめることはSaas企業にとっては最も難しいマネジメント課題であり、ここで体制整備に失敗し、事業の成長が伸び悩んでしまう企業も多い。

フェーズ5:ARRを2倍の$36Mにさらに伸ばせ

このフェーズでは、セールス担当者は20-30人程度、さらにその上のレイヤーに3-5名程度のセールスマネジャーの2層構造ができ始める。この頃から事業の海外展開も意識し始める頃で、米国企業の場合、欧州のどこかにカントリーマネジャーを配置する。広く薄く複数の地域に展開するのではなく、最初は深く一つの地域を掘っていくことが重要。

フェーズ6:ARRをさらに2倍の$72Mに伸ばせ

このフェーズには、マネジメント上たくさんの課題が出てくる。誰を昇進させるか、新たな管理部門を作るか、外部人材を雇うか、等。さらに、従来のオーガニックな販売手法とは異なり、リセラーやチャネルパートナーを用いた販売手法も検討し始めるのがこのあたりのフェーズ。ここでも手当たり次第にチャネルパートナーと提携するのではなく、1、2のパートナーとじっくり取引を拡大させていくのがポイント。

フェーズ7:ARRを2倍に積み上げ、ついに$144Mに到達

ここまできたらあまり記載することはない。IPOおよび企業価値$1Bn超が見えてくるフェーズである。



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