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スタートアップが投資家から「御社の強みは何か?」と聞かれたらどう答えるべきか

(本記事では文章の最後に自分自身が経験した実例を少し記載しました)

学生時代によく耳にしたSWOT分析で出てくる「強み」とその対義語である「弱み」。だが実際に考えてみると「御社の強みとはなんですか?」とは非常に難しい質問である。なぜなら未来永劫続く強みは存在せず(弱みも然り)、時間軸という観点で見た場合、企業の強み/弱みは極めて相対的なものであるからだ。5年前には強みだった事業が誰が今となっては弱みになっていることは珍しく無い。

この「御社の強みとはなんですか?」という質問はどのような文脈でなぜこの質問をしてきているのか、というコンテクストにも大きく依存する。

ここで「質問者が誰か」の観点より、質問者が期待しているであろう回答の時間軸について、あくまで個人的な実体験に基づく見解に基づき述べていきたい。

1.質問者がエンジェル投資家の場合

  • 時間軸の制約は見受けられない。基本的にエンジェル投資家は事業アイデアが気に入って起業家の人となりが気に入れば投資を行う。Exitまでの時間軸の投資の契約上の制約はないため、企業の強みや起業家の好みが個人的に刺されば投資を行う(特にその時々の時流に乗ったテーマ、例えば生成AIや脱炭素等を好む場合もある)。

2.質問者がアーリーステージを対象とするベンチャーキャピタルの場合

  • 基本的に投資を行なってから5年〜10年の期間でのExitを想定しているため、5年〜10年後くらいのスパンで競争力を維持できそうかどうか、がポイントとなる。

  • したがって御社の強みは何かと言われたら、将来永続的に続く競合優位性や強みをアピールする必要はなく、5年から10年くらいのスパンで説明可能な強みが示せれば良いと考える。

  • ただし、「5年〜10年」の先の未来というのは現実的には誰も予測できない。それは10年前に遡って、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、インフレ恒常化を予測できないのと同様である。しかも、アーリーステージのスタートアップというのはそこに市場ニーズがなければピボットすることが求められる。

  • 従って、現実的には投資家に強みをアピールする際は、プロダクトの優位性も重要だが、それ以上に重要なのは「何か外部環境・顧客ニーズの大きな変化があった場合にピボットも辞さないくらいタフで柔軟なチームを備えているか」という点になるだろう。

3.質問者がレイターステージを対象とするベンチャーキャピタルの場合

  • 基本的に投資を行なってから3年〜5年での期間でのExitを想定しているため、その期間で維持できそうな強みを説明することになる。

  • アーリーステージの事例と大きく異なるのは、既に売上も立っていてセールス部隊等の陣容も充実しており、数年後のIPOも見据えつつあるフェーズにあるということである。既にプロダクトマーケットフィットのフェーズはアーリーステージで完了しており今後のピボットは想定されず、あとはどこまでビジネスをスケールさせることができるか、という点がポイントになってくる。

  • 投資家の興味は残り3〜5年の投資期間できちんとExitできるか、という点なので、少なくとも同期間の間だけも持続可能な強みを説明する必要がある。アーリーステージとは異なる極めて現実的な強みの説明が求められることになる。

4.おまけ:年金基金等の超長期保有を前提とした投資家

  • 基本的に非上場株の投資アロケーションが少ないので年金基金(たとえばGPIF)がスタートアップの個別投資を行う機会は少ないとは思うが、彼らは超長期保有を基本的に前提としているので、超長期間にわたり説明可能な強みが求められる。

  • なお、GAFAMのうちでもこの超長期保有投資家の投資対象から外れる企業がある。それはFacebook(Meta)である。なぜなら「ネットワーク効果」という概念で気づいた強みが超長期にわたり強みとして、MOATとして機能するか説明ができないからである。

5.ご参考:自分自身が経験した事例

  • 最後に自分自身が経験した事例を簡単に紹介したい。

  • 少し前に送金スタートアップの投資検討に関与していた。ステージとしてはミドルステージの企業で、世界各国で順調に利用者数も伸ばしARRの成長も順調だった。テクノロジーとしては特にブロックチェーン技術等の最新技術を取り入れてはおらず、利便性の高いUI・UXを武器にビジネスを拡大していた。

  • この企業に対する投資でポイントとなったのは、「いつブロックチェーン技術が送金ビジネスで実装されるのか」という点であった。当時、ブロックチェーン技術の実証実験を世界中の金融機関がこぞって行なっており(そういえば今、R3ってどうなったんだろうか)、中には実証実験を終え実用化を開始した金融機関も存在した。そんな中、3年後〜5年後を見据えた場合の脅威の一つとして、「いつブロックチェーン技術が実装されたスタートアップが台頭してくるのか」という点があった。

  • この点につき、当時調べたところ「少なくともあと3〜5年はまだブロックチェーンの実装は起こらないし、この企業のビジネスモデルの脅威VCにはならないだろう」という結論になった。ブロックチェーン技術を実際に金融機関が導入しようとした場合、既存バンキングシステムのリプレース作業が必要となるが、送金システムのような銀行ビジネスのコアとなる基幹システムのリプレースは10年に一回程度であり、かつ大掛かりな改修が必要となるため、いくらブロックチェーン技術に基づく送金システムができたところで、実用化および普及はまだ遠いだろう、という見解を得ることができた(そして今振り返れば確かにその通りになった)。

  • というわけで、3年〜5年間の期間ワークする強みを整理し、投資実行に至った案件に部分的に関与することができた。


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