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パフォーマンスが低調のまま終わってしまったPE /VCはどうなるか

もう数年前の話になるのだが、投資のパフォーマンスが低調なまま解散・清算を迎えたPE /VCの最後をLPの立場から見届けた案件が複数あった。

ファンドに対する出資当初は大々的なプレスリリースに始まり豪華なディナー付きLP年次総会等、華々しいイベントばかりであったが、その後10年超が経過し、パフォーマンス低調に終わったファンドの最期は極めて寂しいものであった。

PEやVCは、一度出資したら基本的には最低でも10年間は資金が塩漬けになる。PEやVCに対する出資はその当初の段階では、今後10年間に何が起こるか等予想はつかない。したがって当初からありとあらゆるリスクを想定・検討して出資をすべきというのは無理な素人的考えである。

一方で、だからと言って「このファンドに賭けてみよう」と男気だけで出資に踏み切るのも違うし、「PEファンド・VCファンド出資ブームだから」、「『知の探索』をコンセプトに、スタートアップとのオープンイノベーションの促進を目的とするため」とったその当時の世の中の空気感やブームに乗って安易に出資に踏み切るのも違う。

また、結果的に失敗に終わってしまったファンドのマネージャーに対して「どうしてくれるんだ!」と迫ることも本質的には違う。結局どこまで行っても投資は自己責任だからである。

重要なのは「ファンド出資で失敗すると10年後、こんな事態に陥る可能性がありますよ。自分たちはそれでもこのファンドに賭けてみたいですか」という問いに対し、自信を持って「はい」と言える覚悟を、経営陣および担当部署で決めておくことだと思う。

以下、その「失敗すると10年後にこんなことが起こる」という事例を、なるべく一般化させた上で述べておきたい。

なお、ここでいう「失敗したファンド投資」とは、ファンドのパフォーマンスが低調な先、具体的には総合等倍率(ネット)が1.0倍はおろか、0.8倍程度にしか到達できなかった事例(=LP投資家の資金を溶かした事例)を指す。


1.明らかにGPのモチベーションが喪失し、退出活動が進まなくなる

  • ファンドの投資案件(通常5年)が終了し、その後のファンド存続終了期限に至るまでの投資回収がうまくいかず、パフォーマンスが低調に終わることがほぼ確実になると、そのファンドは運用者であるジェネラル・パートナー(GP)にとって成功報酬(キャリー)が見込まれない儲からないファンドと化す。

  • この時点でGPの投資回収最大化に対するモチベーションは喪失する。もちろん、投資運用者にはフィデューシャリーデューティーというものがあるので、投資回収最大化は目指さない、とGPは口が裂けても言わないが、態度には出てくる。できる限り早く早期に安値で投資先を売却してしまい、ファンドを解散させてしまいたい、という気持ちがその行動から出てくるようになる。

  • もしそのGPがそれなりに大きい規模のファンドマネージャーにより運営されていた場合、投資責任者はこれまで投資を担ってきたパートナーから別のパートナーに代わる。新たなパートナーはいわばファンド早期解散だけを請け負う人物であり、GPコミットを自分で拠出しているわけでもなければこれまでのGPとLPの関係性も把握していないので、ポートフォリオ企業の安売りをしたい衝動に駆られ、言葉も節々にそれを滲み出してくる(LPとしては、それに対しては「最大限の回収と早期退出を両立させろ」と言って釘を刺す必要がある)。

2. LPとGPの利害が一致しなくなる

  • LPとGPの利害は、投資活動がうまく行っている場合は綺麗に一致する。

  • GPの主な収益の源泉は、LPから収受する定額のマネジメントフィー(管理報酬)と、投資先の売却益の一定割合から得られるキャリー(成功報酬)である。概念上、GPは投資期間中は主にマネジメントフィーで生計を立て(LPコミット総額の2%〜3%程度)、投資期間終了後はマネジメントフィーの収受額が少し下がり(投資残高×2%程度)、その代わりに投資先の売却益から得られる成功報酬で生計を立てるようになる。

  • ただし、投資実績が不調に終わり成功報酬が見込めなくなると、GPの食いぶちはマネジメントフィーのみしかなくなる。マネジメントフィーは上述した通り、投資期間終了後は基本的に投資残高に対し一定料率をかけて算出される。うまくいかないファンドの場合、投資先の売却を進めず塩漬けにして投資残高を維持しておけば、その期間はある程度のマネジメントフィーを収受し、食いぶちを確保することができるのである。こうしたファンドのGPにとってのは、できるだけ投資残高の金額を高いレベルにキープしておき、ファンド存続期間が終了した段階で一括して安値で売却することが最も経済的に合理的な行動となる。

  • 一方で、いたずらにマネジメントフィーのみを吸い取られるLPにとって、上述のGPの行動はその利益に大きく反する。早期売却及び回収の最大化を要望するLPと、できるだけマネジメントフィーを吸い取り続けたいGPの間に、利害の不一致が発生するのである。

  • こうした事態に備え、LP投資家としては投資活動がうまくいかなかった場合、GPとどのような交渉をしてマネジメントフィーにかかる利害を一致させるか、についても準備しておく必要がある。

  • もしくは、ファンド出資時のDDの段階においては、「このGPの人たちはもしファンドの投資活動が低調に終わったとしても、まさか寄生虫のようにLPの金をむしりとる態度には出ないだろう」という点につき、信頼できる人たちかどうかを確かめておく必要があるだろう。

終わりに:ここで述べた事例のほとんどは日本国内VC /PEには当てはまらない

  • 最後に申し上げておくと、上述の事象は海外のファンドマネージャーがGPを務めるファンドについて起こった事象である。

  • おそらく上述の事象は、日本国内のVCやPEには起こらないと思う。なぜなら、日本市場で商売を行っている以上、仮にLPの金を吸い取り続けるような真似をしたり、明らかにやる気のない態度を見せたりしたら、日本市場での信頼は失墜し、二度と商売ができなくなるからだ。

  • したがって上記の「パフォーマンスが低調のまま終わってしまったPE /VCはどうなるか」については、そこまで汎用性はないのかも知れないが、それでも「こんなひどい事例も起こりうるのか」と頭の片隅にでも置いていただければ幸いである。




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