【大町】横山彰乃さん ふしぎうぶすなレジデンシー@信濃大町 STRANGER THAN PHENOMENON 振り返り編2
NAGANO ORGANIC AIR大町(以下、NOA)では、大町市出身のダンサー・振付家の横山彰乃さんが滞在。信濃大町アーティスト・イン・レジデンスがホストとなり、滞在制作を重ねていきました。
10月8日〜10日には大町商店街にある空き店舗、旧「ショーゲツ(松月)」(以下、ショーゲツ)を会場に、パフォーマンスを行いました。
本公演最後のレポートでは、初日夜に行われた振り返りの様子2回目をお伝えします。
参加者は、横山さんとホストの信濃大町アーティスト・イン・レジデンス(以下、あさひAIR)事務局、信州アーツカウンシル(以下、信州AC)のコーディネーターです。
自身の表現を掘り起こす
信州AC・野村:踊りの構成について、どんなことを考えていたかをお聞きしたいと思います。
横山:回遊型にしたのは、こういう場所だから、せっかくなら移動してほしいと思っていたからです。たとえば1階から2階の奥の方に移動して、そのあとは、また1階を見下ろして、という動線を考えていました。
振りとか踊りの感じは、今年、海外の同世代のダンスのアーティストと一緒に過ごした経験がすごく大きかったんですけど、自分の身体で何ができるのかなというのが気になっていて、それを具体的にはまだ作品にはしていなかったので、そういう動きをベースにやりたいなと思っていました。もともと長野県生まれで土着的な感じもあったからだと思うんですが、日本人特有のというか…、今、掘り起こしている真っ最中みたいな感じです。
信州AC・野村:そういう意味でいったらお祭りの飾りをつくったりとか、ここで調達できるものをコラージュして何かつくるということもダンスとの関係性があったと。ダンスと空間づくりを分けずにやることが、最終的に祭りの実演につながるということだったのかな。
横山:お祭りの準備段階から、エネルギーとしての何かが身体に宿るのではないか、というのは思いましたね。お祭りのためだけにつくって燃やしたり、それをみんなが一生懸命やったりすることで陽の気が感じられる、それを今回やってみたかったんです。しめ縄をやると腕が上がらなくなるとか、そういうのも踊りに影響してくるので、今回はそれが自分の中で大事だったんだと思うんです。何か変わるかなと。
アートだからできたこと
ーー昨年の短期集中プログラムに参加されたあと、横山さんがnoteを執筆されていて、気になった言葉がいくつかありました。たとえば「国際芸術祭が地元で開催されるって誇らしい、うれしいできごとかもしれないけど、私にとってはとても複雑で」と。今の心境は、どうでしょうか?
横山:大町に住んでないので、地元の人の反応がわからなかったこともあり、「いいかたちで芸術とか舞台とかに触れてもらえていたらいいな。地元の人もちゃんと楽しんでいたらいいな」という気持ちで書きました。
今回やってみて、芸術祭があるおかげで、アートを観る土壌が大町にできてきているなと思いました。今回の滞在では、最初の段階から「ダンスやっているんです」と言うと、「興味あります」とか「ダンス好きなんだよね」という感じで話してくださる方が多かったです。小さい頃は地元でダンスをやっているということが恥ずかしかったんですよ、やっぱりちょっと変わっている存在なのかなって。今は腹をくくって来ているのもあるけど、わりと「あ、ダンスやってるんだね!」みたいな感じで。それが、印象に残っていますね。
ーーNOAを通して、アートだからできた地域への影響などについて、何か感じたりしましたか?
横山:ショーゲツ限定ではなくて、宣伝を兼ねたパフォーマンスも含めてなんですけど、観てもらった人にとって、ちょっと刺激にはなれるのかなって。道端で踊るとか、それを観るとか、日常がちょっぴり非日常みたいになる瞬間がある、そういうのはアートの、というか、ダンスの持っている力なのかなと思いました。
開かれた活動をいろいろな場所で
信州AC・野村:年間を通して長期滞在し、作品をつくってもつくらなくてもいいというNOAのスタイルは、ある意味ユニーク、だけど果たして有効なのかという問いもあります。舞台芸術やパフォーミングアーツのレジデンスは、大体2週間とか3週間が多いですよね。
横山:2、3週間だと、リサーチをがっつりしていたら作品に反映できないし、作品をがっつりつくるとそこの地域でつくる意味がないという感じになってしまうかなと思います。たとえば美術のレジデンスみたいに3、4カ月で制作するという機会があれば、今後もやってみたいなと思っています。
ーー今回の滞在はちょうどいい感じでしたか?
横山:はい。ゆるやかに決めていいというところがプレッシャーにならなくて、「いつでもいいよ」みたいな感じで(笑)。
信州AC・野村:それはあさひAIRの皆さんのおかげですね。
今回の滞在中、県内外のアーティストとの交流が結構あったかと思うんですが、それについてはどうでしたか?
横山:みなさん美術の方だったので、「こんなものもつくっているんですか!」「そういうやり方もありなんですね!」というのを知って刺激を受けましたね。
ーーこの作品制作を受けて、ご自身の活動の新たな可能性について考えたところがあれば教えていただきたいなと思います。
横山:大町ともダンスを通して関わっていけるということがわかったので、自分で企画したり、何かしらやっていけたらいいなと思いました。劇場には劇場のよさがあるので大事にしていきたいですが、劇場で出会えない人にも見てもらいたい気持ちがあるので、空き店舗や屋外など劇場に縛られないところでもやって、開いた活動をすることを考えていきたいなと。それはいきなり大きくなくてよくて、自分のできるところから、いろんなところでできたら、と考えています。
信州AC・野村:最後に、「地元との再会」というテーマで一言お願いします。たとえば、昨日(10月7日)のプレイベント「おもいっきり、Night」の時に大町名店街で踊っているさまとかも、「これ、再会だよな」と思ったんですよ。僕の中に、あれがすごく思い出として立ち上がった瞬間があって、これは他のアーティストでは簡単にできないことじゃないかなと。
横山:名店街で踊る機会をいただけたのは、めちゃめちゃうれしかったです。ずっと、いい場所だなと思っていて、ちょっと憧れがあったから。たぶん誰しもが踊りたい気分になる場所です。
横山:「地元との再会」、すごい地味なんですけど、超ラッキーなことが立て続けに起こっているわりに、さらさらさらっと馴染んでいて、それが不思議な感じでした。地元に対してすごく身構えていたわりに「こんな感じか」と。一個一個は超ラッキー、でも、さらさらさら…ですね。すみません、ドラマチックなことが言えなくて(笑)。
ーーあさひAIRの皆さんは主催ではなく、ホストとしての参加でしたが、いかがでしたか?
あさひAIR・遠藤:こちらとしてもありがたい、ようこそって感じでした。こういう思いでつくってくれていたんだと、今の話を聞けてうれしかったです。今回の活動を通じて横山さんのことをいろんな人に知ってもらえたり、関わってもらえたりしたので、横山さんも私たちも新たな可能性を感じられたのではないかと思います。
あさひAIR・高橋:地元だから安心してできたことがある一方、地元が主催じゃなく、NOAが主催であさひAIRがホストだったから、横山さんもすんなりと居心地よく入れたのがよかったのかな、と思っています。
信州AC・野村:斜めの関係性だったからよかったのかな。
横山:大町の方言もめちゃくちゃ落ち着きました(笑)。
あさひAIR・遠藤:私たちもイベント的なことを、これまでたくさん経験してきたから、全然抵抗なくできました。藁の作業も芸術祭でたくさんやってきたから(笑)。
信州AC・佐久間:皆さん、藁の触り方がプロ。それもラッキーのひとつでしたね(笑)。
(写真:安徳希仁 文:水橋絵美)
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