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【上田】滞在レポート by 横山彰乃 _ 生きることとアートの呼吸〜Breathe New Life

初めまして。横山彰乃です。
踊ったり、ダンス作品を作ったりしています。

長野県大町市で生まれ育ち、幼い頃から大学で上京するまで、松本・大町・白馬で教室をひらいている先生の元でモダンダンスを習っていました。高校生のときに、まつもと市民芸術館がオープンしてコンテンポラリーダンスを初めて観ました。地方都市や都会ではモダンダンスを習ったり、ダンスや演劇といった舞台芸術を観る機会はまぁまぁあると思います。大町市というところはたぶん想像するより田舎で、当時そこでダンスに出会えていたことはとても珍しいことだったのかもしれないと、今回の滞在で感じました。
大学入学と共に上京し、長野帰りたいな〜と常に思いつつも、そのまま都会暮らしが続き、現在も東京を中心に活動しています。


参加動機

自分の創作の根底に、長野の自然が無意識レベルに深く根付いていることに気づき、いつかは長野でも活動をしてみたいと考えていました。
ダンサーとして参加していたカンパニーでの活動を経て、自分自身での活動が増えてきた最近、拠点のことを考え始め、うっすら二拠点など思い始めたところ、たまたま、この研修プログラムの募集を目にしました。どのように故郷と関わることができるか、まず知り、考える機会を得たいと思い応募しました。

ざっくりスケジュール
▲1日目
・犀の角(上田)
・木曽ペインティングス
・木祖村藪原宿
・月灯りの移動劇場「Peeping Garden / re:creation」川西木材倉庫
▲2日目
・天空の芸術祭(海野宿跡)
・PHOTO KOMORO(小諸)
・果樹農園直売所シアター『破戒』
・NOBO(上田)
▲ 3日目(大町)
・北アルプス国際芸術祭
▲4日目(長野)
・松代象山地下壕
・川中島古戦場史跡公園
・長野市立博物館
・善光寺
・長野県立美術館
・ネオンホール
・相生座
4日間、朝から晩までたっぷりと。細かく記載するとまだまだある。

北アルプスが常に目の前に見えているのが当たり前の地域で育ったので、各地域での山の感じ方が異なり、面白い。いつも帰省するときの感覚や視点とは違った状態で長野に来たとはいえ、山が見えると安心する。
美術館や公演のハシゴはあっても、芸術祭のハシゴというのを初めて経験し、地域ごと芸術祭ごとの取り組み、特色、目的や期待する効果が全然違うのだなということを感じた。


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▲▲北アルプス国際芸術祭にて

数年前、北アルプス国際芸術祭が大町市で開催されてから、地域と芸術について今まで以上に考えるようなった。国際芸術祭が地元で開催されるって、アーティストにとっては誇らしい嬉しい出来事なのかもしれないけれど、わたしにとってはとても複雑で、今も手放しに喜べない。大好きな故郷。

自然豊かな土地で開催されている芸術祭に行くと、作品鑑賞はほどほどに、作品はない場所を探索したり、川や海で石を拾ったりすることの方が楽しくなってしまう人間なので、こんなにちゃんと時間いっぱい作品を目がけて観て回ったの初めてかもしれない...。
正直なところ、生まれ故郷がどうなっているのかというそわそわとした不安があったため、そういった気持ちが強すぎて、シンプルな作品だけへの感想は抱きにくかった。
観ることができた作品の中で、サイトスペシフィックな作品についてとても考えさせられた。作品周辺の景色が圧巻で作品よりもそっちに気がいってしまうことや、前回開催の作品だけど管理どうしているどうしていくのだろうとか。
今回の研修中に歴史的政治的な建造物を目にしていたせいか、サイトスペシフィックなものは規模が大きくなればなるほど、少し恐い。長い長い年月をかけて出来上がった風景を崩してしまう可能性があるのかもしれないと思った(その点、ダンスは瞬間的に消えていくから良いな)。


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「心田を耕す」ヨウ・ウェンフー
地域住民と協働して50万本もの竹ひごを田植えのように植えていった作品。
住民の理解と協力があって完成したのだろうなと想像できて良いなと思えた。本物の稲穂の景色はべらぼうに美しいのだけど、解説にも書かれていた通り、”土地に対する深い感情”を真摯に考えられてるようにみえて、自分の地元心が安心した。観れて良かった。

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膨大な時間をかけて植えたのだろうと想像し、意図は違えど、人間が作り上げた七倉ダムのロックフィルとして積まれた岩や、大町ではないが松代象山地下壕の掘られた穴のことが忘れられない。
背景が違うとこんなにも感じ方が変わるのか。

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(七倉ダムのロックフィル。スケールが全く伝わらない写真。)

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(松代象山地下壕)


△「おもいでドライブイン」淺井真至
30年前に閉店したというかつてのドライブインをそのまま使用し、残されていたお土産や置物など、そこに取り残されていたものたちと共に"おもいで"を舞台に絵が展示されている。
研修初日に見た木曽ペインティングスでもあったのだけど、古い建物に残された物たちを変に綺麗に片付けてしまわないで、そのまま使用しているところに、自分が体験していない当時を想像することができて面白く感じた。
長いこと人が生活をして時間が経っているところって、時間も物も混沌としているのだなと感じた。

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わたしは既に県外で長く暮らしていて、たぶん地元を美化もしていて、だから変わって欲しくない変えて欲しくないとも思うこともあるが、そこで暮らしている人たちはどう思っているかわからない。今まで他の地域の芸術祭を観に行っていた時は想像できなかったことを、自分の故郷である故に感じた。
各地域の芸術祭は様々な理由があると思う。移住してもらうためなのか、観光客の集客なのか、地域活性化なのか。どういう目的なのか細かいところまではわからないけれど、そこに暮らす人たちが良いと思えるものであって欲しい(作品はもちろん、仕組み全体)。住民がむしろ中心となって、中心はまぁ難しくても、住民が望む芸術祭になっていきますようにと願う。
もう少し大町の人たちと話して聞いてみたいなと思った。
他のものではなくて、芸術ではないといけない理由を、自分も考えたい。
わたしはどう関わっていけるだろう...。

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▲▲果樹農園直売所シアター『破戒』

ブルーベリー農家で農作地の横の直売所をDIYしまくってシアターを作ってしまったブルーベリーガーデンの黒岩さん。現在進行中らしい。
黒岩さんのように、生活と活動が本当にそのまま共存している、自分の土地でやりたいようにやる、そして地域の方も観に来てくれ始めているというのは魅力的だった。自分の土地が最強なのかと、去年の自粛期間中から思うようになった。「ここに行けば面白いものが観られる。この人たちと会える。」というものに憧れる。旅公演も良いけれど。
地方に拠点を構えること、鑑賞者について、都会ではないといけない理由、など、現状を考えさせられる。

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▲▲最後に

4日間、様々な地域で、良いな素敵だなと思えた活動は、そこにいる人たちが作り上げていると再認識した。東京にいると、人が文化や街を作り上げる感覚が自分の場合あまり感じられず(既にいろいろ溢れているから?)、人がいて気持ちが集まって文化や街ができるという、当たり前のことに触れて感動していた。東京(厳密に言うと埼玉)で暮らして何かをしているときに、この人たちのことを忘れたくないと思った。

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(高瀬川で拾った石、犀の角にて撮影、手ブレ)

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(シナノゴールド、シナノレッド、でかい梨、
鎌ヶ谷アルトギルド石井さんから頂いた洋梨、大町のクラフトビール)


同じ日程だった参加者や、アテンド・サポートしてくださった犀の角、NAGANO ORGANIC AIRの方々と話をできたことも印象深い。
それぞれの暮らす場所での、演劇や美術や企画制作やダンス等、それぞれの活動。研修タイトルが「生きることとアートの呼吸」だったことを思い出し、東京近郊以外の話も聞けたことが刺激的だった。

気持ちを持って、関わっている人たちと大切に活動したい。
考え続けて、少しずつ長野や故郷とも関わっていけたらと思う。
もっと生きることとダンス活動が直結していけるように。


▲▲ 横山彰乃 (よこやまあやの)
ダンサー / 振付家
長野県大町市出身。幼少よりモダンダンステクニックを使ったかなり自由な?ダンスを始める。
2009年よりダンスカンパニー [東京ELECTROCK STAIRS] メンバーとして国内外の全作品に出演。2016年[lal banshees]を立ち上げる。モダンダンス・ストリートダンステクニックをベースとしながら、囚われず派生し、個人の感覚に着目した独自のムーヴメントを追求。情景を意識した空間作りと、音との繫がりのある緻密な振付で、性別に囚われない中性的なダンスを創作している。見落として通り過ぎてしまうような現実をファンタジックに切り取り、そして現実に戻す音楽的ダンスを体現したい。
2021年度セゾン文化財団セゾンフェローI
http://www.yokoyamanaa.com/

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