見出し画像

【大町】横山彰乃さん ふしぎうぶすなレジデンシー@信濃大町 STRANGER THAN PHENOMENON 振り返り編1

NAGANO ORGANIC AIR大町(以下、NOA)では、大町市出身のダンサー・振付家の横山彰乃さんが滞在。信濃大町アーティスト・イン・レジデンスがホストとなり、滞在制作を重ねていきました。

普段は首都圏の劇場などでグループやソロで舞台作品を制作・発表している横山さんが、大町商店街にある空き店舗、旧「ショーゲツ(松月)」(以下、ショーゲツ)を舞台に仕立てあげ、10月8日〜10日に3日間限定のパフォーマンスを行いました。

主催者側の想定を上回る方にお越しいただきました。ご来場いただきありがとうございました!

本公演最後のレポートでは、初日夜に行われた振り返りの様子を2回に分けてお伝えします。

参加者は、横山さんとホストの信濃大町アーティスト・イン・レジデンス(以下、あさひAIR)事務局、信州アーツカウンシル(以下、信州AC)のコーディネーターです。

大町商店街の一角にあるショーゲツ

ふんわり考えていたことが現実に

ーーNAGANO ORGANIC AIR大町(以下、NOA)と出会ったきっかけを教えてください。

横山:ここ数年、ダンスで地元に関わりたいけど、どう関わろうかと考えている時にNOAを知って。ちょうど2021年短期研修プログラム「生きることとアートの呼吸」の募集がかかっていて、いろんな地域の人たちを見られるということと、大町市の北アルプス国際芸術祭も見れるということだったので、「ちょっと参加してみたら何かきっかけになるかも」と思って応募してみた感じです。

横山さんの短期研修プログラム滞在レポート↓

横山:短期研修プログラムでは、さまざまな地域で「箱」がなくてもやっている人たちを見れたのが刺激的でした。「なんかできる、やろうと思えばできる、やればできる」みたいなのをすごく感じて(笑)。

ただ、前向きな気持ちになりつつも、「大町でやるのはすぐじゃないかな。数年後にできたらいいな」ぐらいにふんわり考えていたら、2021年の年末に信州ACから「2022年度滞在アーティストとしてどうですか?」とお話をいただいて。(滞在地域は)木曽と大町の二択だったんですけど、「思い切って大町にした方がいいのかな」と思って、「せっかくなのでお世話になります」と。

開場を待つ横山さん(左)

ーー「思い切って」というのは、どういう感じだったのでしょうか?

横山:地元ってすごくプライベートな感じがするので、ダンサーとして地元に行くということに気恥ずかしさがあったから、「今、このタイミングでできるのか」って。結果、やってよかったなと思っています。信州ACとしては、それを気遣ってくださっての二択だったんだろうなって。

信州AC・野村政之:こちらから決め打ちのように「大町でお願いします」とお願いしたのと、他にも選択肢があるなかで、横山さんが大町を希望したというのでは、その後のいろんな人とのつなぎ方も変わってくるだろうな、というのはありましたね。

横山:誰かに背中を押してもらえないと、なかなか勇気がいることだなぁと。声をかけてもらったことがきっかけで、思い切って大町にしました、はい。

ーーそもそも地元を意識し始めたきっかけは?

横山:自分が主体となってカンパニーを立ち上げてから思い始めたんですが、単純に、東京でやっていたら北海道の人には観てもらえないし、ダンスってライブだと思っているので、映像を撮って観てもらうのとは、それはそれで大事なんですけど、「自分から行かないといけない気がする、行きたいな」と。そう思っていたタイミングと、地元にも関わりたいなというタイミングと、そのふたつですね。

ーー実際にやってみてどうでしたか?

横山:大町に来るまでは、「とはいえ何をしよう…」と。でも、制作発表をするあさひAIRで、大町市中心市街地の空き店舗を会場にする、ということに決まって、やりやすくなりました。私もシャッター商店街が気になっていて、何かやってみたいというのもあったので、運良くやらせてもらえました。

ーーショーゲツは子どもの頃に訪れたことがあるんですよね。

横山:はい。両親と買い物にきたりしていて、この踊り場だけ覚えていたんです。なんか独特な空間だった記憶があったのと、上に抜ける作品をやってみたかったので、せっかくなら劇場でできないことをやりたいなと思って「ショーゲツさんでやりたいんです」と言ったら、お借りできることになりました。

ーー自分がもともと持っていたものが、今回、たまたまうまく組み合わさった。

横山:そうですね、今回たまたま組み合わさったことがいっぱいあったなと。本当にラッキーが重なった感じです。

普段はダンスの制作中は稽古場にこもっちゃうので、つくっているさまを人に見せることがなく、できたものを劇場という「ショーウィンドウ」にポンって出す感じ。でも、それだと人に触れる時間がめちゃめちゃ短くなっちゃうので、滞在制作としてはおもしろくないのかなというのがあって。それで、制作期間中は「ここ(ショーゲツ)を掃除とかしていますから、いつでも来ていいですよ」というふうにしました。ここのシャッターが久しぶりに開いたというのもあってか、すごくたくさんの方が来て、毎日声をかけてくださったんです。

設営の様子。はぜかけの吊り具合を確める横山さん(右)

信州AC・佐久間圭子:お隣の塩入家具さんも複合施設・森の休息さんも、ものすごく気にかけてくれて、ほぼ毎回差し入れをいただきましたよね。

横山:手作りのおやきとかおにぎりとか。森の休息さんはキッチンカーがあって、毎日、中に入る人が変わるので、それを持ってきてくれたり。ここが開くこと自体が、皆さんとてもうれしかったみたいで、通りすがりのおじいちゃんとかが「借りただ?」って(笑)。そういう声が聞けるのもおもしろいなって。

首都圏の劇場で上演したり作品をつくる時には全然ない経験なので、ご近所さんとか地域の方と変わらない立ち位置でダンスを創作できるっていう環境が、すごくおもしろいなと思いました。ヨーロッパの公共の劇場とかってそういう感じなのかなって。

公演には横山さんの先輩や通っていたダンス教室の関係者も訪れた

ーー劇場にいったら誰か知り合いがいて、コミュニティの延長みたいなところもあったり、まちとつながっているような…。

横山:ダンスでも場所によっては、そういうことが可能になるんだなって思いましたね。

水と藁と祭りと

ーー作品を制作・発表することは最初からある程度想定されていたんですか?

横山:そうですね。4月に来た時から、水がテーマということと、制作発表の期間はほぼ決まっていました。

あさひAIR・高橋勇太:「スケジュール的に合えば、ぜひ」と話して、横山さんが「いいですよ」と言ってくれたから、ちょうどよかったです。

ーーどういうところを切り口に、この空間をつくっていったのでしょうか。

横山:最近、神楽とか盆踊りとかお祭りとか、そういうことに興味があって。仁科神明宮にリサーチにいって、その帰りに松崎和紙さんに寄ったんです。そこで「神事に使う和紙は真っ白じゃないといけないから、水がきれいじゃないといけない」という話を聞いて、昔の人は水がきれいだったからここに住んだというのは、そういうことだったんだなと。

神事って自然の恵を使って、なんやかんやみんなで一生懸命つくって、舞ったり担いだりする、そういうこともダンスに落とし込んでみたかった。藁が素材としてちょうどよかったというのもあるけど、コメができるありがたさで藁を使っているという気持ちから。あと、ピカピカなものを買ってきてっていうのは、ちょっと違うのかなと思っていました。

ーー地域にあったものをいただいて。

横山:そうですね。本当ははぜかけをしたかったんですけど、いろいろやってみたら重たすぎてかけられない。結果、こういう感じに辿り着きました。最初からこういうふうにしたいと思ってやるというよりかは、こういう感じかなっていうのを、ここで何回も試して、やっぱりこうした方がいい、これが必要みたいな感じでつくっていきました。劇場だとその空間に長く滞在できないので、今回、この空間にいるだけで、できることや思いつくことってあるんだなと、身に染みて体感しましたね。

ーー作品を観た方から「空間に馴染んだ作品だった」という声をたくさんお聞きしました。

横山:こういった歴史が残っているところだと、どこまできれいにしていいかとか、塩梅が全然わからなくて。でも、まったく消すっていうのはやりたくないな、うまく生かしつつできたらいいなと思っていました。

ーーお面も自分で?

横山:普段は小道具というか、仮装みたいなのはやらないんですけど、お祭りだと、お面とか暖簾とか、お祭りのためにわざわざつくってやっているっていうのが、おもしろい。自分で準備するとどういう感じなんだろう、やってみたいなと思って、トライしてみました。お面は、他のイベントで大町に来ていたアーティストの方から教わった張子の作り方を参考に、制作しました。

藁は、ホストの皆さん総出で、ずっと束ねてもらっていました。皆さんがいなかったら絶対にできていなかったです。

信州AC・佐久間:森の休息さんで出店している方が、「ちょっとやっていっていいっすか」って突然来て、束ねていってくれたりもしました。横山さんが森の休息さんのイベントでパフォーマンスしたあとでしたね。

横山:たまたま宣伝がてら踊る機会を何回かいただいて、地元で踊る機会が増えてうれしかったです。空き店舗を使うというのもやれてうれしいなと思いつつ、いろんな場所では踊れないと思っていたので、ラッキーでした。

信州AC・野村:空き店舗でできることになって、「よし!」と思ったものの、そのベースを獲得したら、「他のところでも踊ってみたい」となって、それも実現したと。

横山:今回は大町温泉郷エリアには関わらないだろうなと思って、リサーチの時にふらーっていって、そこにあるカフェでチャイを飲んでいたら、店主さんが「観光ですか?」「いや、こうでこうで」「え、お盆、踊りませんか?」みたいな(笑)。

温泉街で踊る。2022年8月、大町温泉郷お客様感謝DAYs

ーーショーゲツでのパフォーマンスを観にきていた方で温泉郷も行って、こっちも来たという方もいらっしゃいました。「作品が全然違ってどっちもおもしろかった」と。

横山:ありがたいです。ダンスって、チラシとか文章より、観てもらうのが一番宣伝になるなって思いました。

(写真:安徳希仁 文:水橋絵美)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?