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吹き出す血糊は景気良く

スラッシャーは景気良く。

単にグロくしたいがためだけのゴア描写は心惹かれないが、物語上必要なゴア描写はどうも心惹かれてしまう。

『アングスト 不安』(83)は実在の殺人犯を描いたオーストリアの作品で、そのあまりのヤバさにより、ヨーロッパ全土で公開禁止とされていた。(それがなぜか2020年になって日本で公開されたので劇場で観賞した)

スラッシャー作品は本来「怖楽しい」ものだが、この作品に関しては全く楽しい要素が無く、もっと言うと怖さも無く、ただひたすら段取り悪く異常なテンションで一家を斬殺する場面が描かれる。

しかし目が離せない。あらゆる作り物的な演出を剥ぎ取ったリアルスラッシャーがこれなんだな、とそのおぞましさに見入ってしまう。殺害後に被害者の血を飲む描写がなんとも言えず気持ち悪い。役者の演技が真に迫り過ぎていて、本当の狂人にしか見えない凄みがある。

逆に三池崇史監督の『悪の教典』(12)では、演出された「怖楽しい」殺人鬼が描かれる。訳あって高校で英語教師をしている殺人鬼が、クラスの生徒全員を猟銃で斬殺していくのだが、その際に「マック・ザ・ナイフ」が軽快に流れ出す。相当悪趣味な演出だが、スラッシャー作品としては5億点である。血糊の量も非常に景気が良い。

『昭和歌謡大全』(03)は昭和歌謡が流れる中、青年6人と中年女性6人が殺し合いを繰り広げていく作品。とある殺害シーンで、首からピューっと血が吹き出す瞬間に三波春夫の「チャンチキおけさ」が高らかに流れ出す演出は爆笑モノである。一応コメディだがブラックすぎる。

不謹慎で楽しい。それがスラッシャーである。

文・イラスト:長野美里

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