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ドキュメンタリーとアートの融合 ~映画『サラリーマン』を見て

まずは衝撃的に良かったです
監督が写真家というアーティストなのだそうで
『ドキュメント映像監督は現実の傍観者でいられない」という命題に対して
「企業戦士たちが酔い潰れて路上で寝ている様子を死体と捉え、事件の現場検証のように彼らの姿を白線で囲う」というアプローチが我々に見せてくれるものが尖すぎる!

<以下、ネタバレありの感想文なのでご注意を!>
ですが、未見の方のお邪魔はしない程度に配慮しております

なんと気づかないのだ!
彼らは自分が白線で囲われている事に!
まさに主体を失った死体としてある者は横たわり、ある者は座り込んでいたのだ。その事を彼女は「白線で囲む」ことで我々にはっきり見せつけたのだ。
その一点においてだけでも秀逸なドキュメンタリー映画であることは分かってもらえるはず。
ただのビジュアルアートではないインタラクションがそこには明確にあり、それを含めてドキュメントとアートが共存している本作は、テレビ屋さん的にグワングワン心を揺さぶられ、嫉妬し、学ばせていただきました。

もちろん途中に挟み込まれる映像や街の人たちの顔や行動、看板、ニュース映像…etc.各所各所で「大丈夫なの?」と心配してしまう。

それは「局のルールでそうなっているからモザイクをかけました」や
「取材許諾書を取ったから放送してます」という判断をしている我々とは別世界の判断基準なのだ。
『ドキュメンタリー映画だから許されている』訳ではなく
『必要だと思うから監督が判断して使っている』という力強さ。

僕はこの力をしっかり勉強しなければならないと心の底から感じたし、昔のテレビ屋はこういう判断をしていた時代もあると記憶している。
(一応、『僕らは…」と記述するのは控えました。そんな判断基準を学ばなくて良いテレビマンもたくさんいるから)

先日の広島サミットで逮捕者の手錠をしっかり写している写真家 NickDidlick 氏も同じだよな。これをルールがそうだからと『人権を守るために手錠にモザイクをかけました」では、もうすまないんだよ。世の中は?いや僕の中の何かは…

そしてさらっと出てくるインタビューの構成の凄さよ。
並び順で監督の伝えたいことが浮き彫りになってゆく。
あの人(見た人ならわかるはず…これくらいは伏せておこう)がサラリーマンの服装について話す姿なんか爆笑だったし、スーツ工場で吊るしのジャケットにビニールが自動でかけられている様子のインサートも最高でした。

そして本編のラストで『白線によるインスタレーション』に一つの決着をつける気持ちの良さよ。
はー良いものを見させていただきました。
ありがとうございました。

注)取り扱うテーマは今見るとちょっと古いかもしれません。
コロナ禍を経験した我々はもう新時代を生きているので。
監督もその辺分かっていて、一応その答えも付け足しています。
だから「企業戦士が私生活を捨てて働く日本人」という姿と取り上げているというだけで「ま、今は違うし見なくて良いか」と思っている人は、ちょっともったいないかもしれません。

ご興味を持たれた方はこちらから
サラリーマン【日本初公開】 | ドキュメンタリー映画|アジアンドキュメンタリーズ (asiandocs.co.jp



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