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テレビ屋が、今改めて『ROCKY』を語る

今ゆっくりゆっくり観ているAmazonprimeの『THIS IS US』のお父さんがいつもROCKYに励まされていたというセリフがあったので、早速『ROCKY』を見直すことにしました。

改めてしっかり観るとやっぱりすごい映画ですね。シンプルな技巧をちゃんと使っているなと思ったところを上げてみます

【最初っからエイドリアンに首ったけ】
記憶より最初っからロッキーはエイドリアンのこと大好きですね。BOY MEETS GIRL的な要素が全く無いことに、今更ながら驚きます。このバランスって最初っから書くの難しいよな。邪推すると脚本家S・スタローンは街の仲間の一人として、ロッキーが恋してる弱虫な女の子として書いたけど、監督J・G ・アヴィルドセンがその女の子をめっちゃピックアップした結果なんじゃないかなとか思います。
冒頭、鏡を使ったトリックショットが2回もあったのも印象的ですし、最後のアポロとの戦いに登場した来た時の、紅いベレー帽と照明で緑に染めたバックとの色の対比がきれいな教科書的なカット。「ああ綺麗になったなエイドリアン」ってみんな思うでしょ。ロッキーも変わったけど、エイドリアンも変わったんですよね。視聴者がびっくりするくらい。演出によって設定以上に印象にのこるキャラクターになったんじゃないかと思います。

ROCKYのポスター

だからFIRST ROCKYはこのビジュアルなんですよ。
(と言っても、これ採用されなかったという噂の『二人で裏口から出てゆく」バージョンなんですかね?)
スタローンは『ロッキーと街の人々』という交流を書いたのに、結果的に映画は『ロッキーとエイドリアンの現状からの脱出』に振ってしまったような気がします。監督の差配なんですけどね。
ところで最近、このビジュアル(↓)よく観ますけど

この時点でイタリアの種馬ロッキー・バルボアはちっともアメリカ背負ってないんだよなあ。
ロッキーが考えてるのはエイドリアンとの約束のことだけ。そんなエイドリアンが最後リングに駆け寄る時、あの印象的な紅いベレー帽落とすけど、一瞬気を取られるだけで拾ったり探したりせずロッキーに駆け寄るって演出考えた人天才だな。

【ミッキーとの和解】
ジムのコーチミッキーは結構最初の方でロッキーに「才能を無駄にしてる」と才能を認めている発言をするんですね。エイドリアンへの恋心もそうだけど、登場人物の変化をあまり作ってない。みんな最初っから最後まで結構一緒。なのにこの成長物語という印象。ここらへん絶妙のバランスだと感じます。映画ロッキーの中で人々は「気づくことによって変われる」が徹頭徹尾打ち出されていると思います。
なかでもミッキーとの和解シーン。ロッキーのセリフはひたすら罵るだけなんですよ。「なんだよ今更」「10年も放ったらかしにしやがって」等々。で、最後ロングショットでミッキーに駆け寄って肩を抱く。高架線に電車が走る。こういう展開なんですわ。しびれました。書けん!こんな脚本書けんよ。ただ教科書にはよく書いてありますね。「セリフで心情を説明するな」と。気づいたんですね、ロッキーは自分が怠惰だったことに。嬉しかったんですね、ミッキーが来てくれた事が。

【静寂のリング下見】
あの有名なフィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるシーン。テーマ曲とともに最大の盛り上がりを見せてくれます。映画を見たすべての人が覚えているし、あの美術館に行ったらロッキーみたいに階段駆け上がって真似したくなります。たくさんのブログでもバックショットで腕を突き上げてる画像あげてます。
ただ演出的に秀逸だと思うのは、このあとリングの下見に行って飾られた自分の姿を描いた垂れ幕の自分のパンツの色が違うとクレームを付けるシーンの静寂!
盛り上げた後の静寂。ロッキーの限りなく深い不安。
これ忘れてたなあ。もしこの後見る機会のある人は是非気にして観て下さい。これぞ演出!

【スタローンってジャブを受ける(演技の?)天才】
誰もが感動するアポロとの戦い。
なによりもまずリングコールのとき降りてくるマイクを撮る俯瞰ショットがあまりにかっこよいんですが(2回目は要らないだろと思ったりもするw)。あの試合、殴り合いというよりアポロのジャブをまともに受けて脳みそ揺さぶられるくらい頭が揺れてるスタローンがすごい。もちろん実力差のある二人の戦いだから壮絶な打ち合いになるはずもない訳で、そこであのジャブですよ。すんごい打ち合いってリアリティの問題はありながらもボクシング映画の最後にありがちなんだけど、この映画ではあの一発一発のジャブが怖いんですよね。ジャブを受けてる演技天才だと思います。
しかも、あの傷だらけになるメイク。制作費を節約するため最初に最終ラウンドの状態にして徐々に落としていったという変則撮影との話(メイクを度々付け足してゆくより時間がかからない!)さすがです。

とまあ歴史的名作には素晴らしいシーンや演出が山ほど盛り込まれてるわけで、自分が主役じゃなきゃこの脚本は渡さない!と3日で書きあげた脚本の割に製作開始までとんでもない苦労があったという伝説の映画『ROCKY』はすでに公開から50年近く経とうとしている(公開は1976年)恐ろしい映画なのでありました。