電波スタッフジャンパー

小説『僕は電波少年のADだった』〜第3話 電波少年ばっかりやってるとバカになるぞ

「はい起きろよー、もう9時だぞ」
 局長来客用の長ソファはAD憧れのベッドだ。
 夜中に仕事が終わると、ADはこっそり制作フロアの制作局長デスクの横にあるソファの様子を見る。と、同時にフロアに偉い人がいないか見る。
 偉い人がいる前でソファに寝転がる訳にはいかない。しかし偉い人は、深夜までデスクにいる事はない。かと言って、あまりに遅い時間に局長来客用ソファを見に行くと、先客ADが高いびきで寝ている。頃合いが難しいのだ。
 しかしこのベッドの占有権を手に入れると、それはそれは幸せな気持ちで寝られる。しかも、業務部長が毎朝9時に来て、フロア中のADを起こして回るので、絶対安心の目覚まし時計付きなのだ。
 この業務部長は、つい最近までバリバリのプロデューサーだったので、現場で人生をすり減らして働いているADにとても優しい。優しくドカンと脚で蹴りを入れて
「はい起きろよー、もう9時だぞ。ここに寝ちゃダメだっていつも言ってるだろ」と、起こしてくれる。
「おはようございます!」朝の挨拶は爽やかに!
「まったくここはADのホテルじゃないんだぞ」
 チョビ髭の業務部長は、制作局フロアで寝ているADを起こして回るのが日課だった。トイレに顔を洗いに行こうとすると、業務部のお澄さんが
「はい今日も頑張ってね」と言ってくれる。
こうしてADの一日は始まるのであった。

 制作局では偉い人たちは10時出社。それなりに偉い人は11時位にデスクにつき、ディレクターやADたちが本格的に仕事を開始するのは午後と、普通の会社と逆の順番で仕事が開始される。本当こんな世界に2年もいると、いわゆる娑婆に戻れなくなる気持ちも分かるというものだ。
 顔も洗ったし、スタッフルーム行って編集の準備でもしておくかと思ってエレベータフロアに向かおうとした時、嫌な人に見つかった。
「長餅!黒川はいるか?いないんだろうな、こんな時間に来てるはずないもんな」
 その声の主は営業推進部中西太助さん(40)だった。
 中西さんは現場あがりの営業局副部長。ちなみにテレビ局では普通の会社の部長職のことを局長と呼ぶので、部長といえば課長と同じ、副課長って役職はないだろうから、中西さんは一般の会社で言う係長みたいなものか?
「お前まだ電波少年やってるのか?民間企業としてありえないぞ。あの番組。」今日は朝からツイてない。
「お前、アポ無しで森田製菓に行ってただろ。」
 正確に言うと、<僕>が行ったのではない。<電波少年>が行ったのであって。
「全く売れない電波少年に血の涙を流して、やっとの思いでつけたスポンサーのところにアポなしで行くかね。黒川もキチガイだろ?」
 当時、電波少年は関東ローカルの30分番組。黒川班のレギュラー番組は、電波少年と『アッチャンカッチャンの世界征服宣言』の2本だけで、世界征服宣言も23時台の30分番組だから、社内でもかなりの小さな班だった。最近の昭和テレビの新しい看板は、クイズプロジェクトから生まれたという『クイズShow by ショーバイ』。水曜20時からの全国ネットのゴールデン番組。商売をテーマとしたクイズ番組で、海外ロケも豪華出演者も電波少年とは雲泥の差。スタッフも局員だけでプロデューサーの大杉・渡部、演出看板は七味。その下にも、尾澤・磯辺・森田。もう錚々たる布陣。
 僕だって出来ればそういうゴールデンの番組やってみたかったし、電波少年やってるのは会社が決めた配属なんだから、僕のせいじゃないし、だいたい入社試験では、他局だけど『リアルワールド』みたいな番組作りたいって言って入ってきたのにお笑い班に来たのだから、怒られたってどうしようもないんだけど。という顔を露骨にしてしまうのが僕の悪いところ。中西さんは、そこが気に入らなかったらしく、説教モードに入ってしまった。
 「お前局員なんだから、ちょっとは勉強しろよ。この間までスポットしか入ってなかった電波少年に提供がついたんだぞ。提供スポンサーに配慮するのは当たり前だろ。よりにもよって、その提供スポンサーの森田製菓に行くか?」
 電波少年は関東ローカル番組だから、営業局の首都圏営業部が関東圏に流れるCM枠としてセールスをしている。2クール(6ヶ月)まとめて買ってもらうのが基本セールスなんだが、問題の多い電波少年は簡単には売れないらしい。テレビで売れない番組があるなんて知らなかった。
 そんなやんちゃな番組に、今月から単月契約で森田製菓とアベックレコードが2社ついた。そういえば今月からフォーマットに提供10秒が付け足されていた。編集で飯合さんが「ますます本編尺が短くなっちゃったなあ、うひゃひゃ」と笑顔でぼやいてたから、今ひとつ意味がわからなかったけど、番組にとっては良いことだったんだな。きっと。
 営業局の中では嫌われ者の電波少年に初めて提供をつけたのは、趣味がジャズピアノだという首都圏営業部渉外五木さん。セールスを担当する渉外と呼ばれるテレビ局のCMセールスマン達が電波少年に提供つけたら、他社製品とか平気で扱う番組だから絶対にトラブルになると避けていたところ、五木さんには電波少年の何を気に入ってもらったのか「こういう番組が昭和テレビには必要だから少しでも提供をつけてあげたい」と、頑張って売ってくれたとのこと。ありがたい話なのだが、そんな美談を知ったのは、この20年後だった。
 それくらい当時のテレビ局では制作現場と営業現場に隔たりがあった。

 そんな中、現場経験もある中西さんは、営業推進部という部署に属して制作と営業の橋渡し的な仕事を担当している。こういうサッカーで言うポリバレントな人材は会社では重宝されるが、現場からみたら番組も当てられず、営業に飛ばされた人だ。多分営業畑から見れば、何も売ったことのない現場あがりの営業局員。イソップ童話のコウモリは、どちらの立場から見ても嫌われ者。
 だいたい文句があるなら黒川さんに直接言えばいいのに、と思っているからコウモリの説教は耳に入らない。
 「お前、電波少年ばっかりやってるとバカになるぞ」
 そういう事は黒川さんに直接言って欲しい。
 するとタイミング良く黒川仁男が出社してきた。
「黒川ーっ、やってくれたな」
「はいっ、はいっ、ははいーーっ」ものすごい低姿勢だよ、黒川さん。
 ライオンがもっと美味しそうな獲物を見つけて目を離した空きに、ガゼルよろしく僕は全速力を出していない感じの全速力でその場を離れた。その目の端に中西さんに連れられて説教部屋と僕らが呼ぶ6階B会議室に入ってゆく黒川さんが見えたので「ご無事で」と、心の中で呟いた。
 今日のロケは午後から。ロケ弁何かな?中西さんに怒られると、何故か無性に牛タンを食べたくなった。

 今日は電波少年ロケの日、ロケ担当ディレクターは飯合さん。金曜日のロケはタレント梅村のラジオ終わりから開始なので13時位にニッポン放送玄関にロケバスをつければ良い。飯合Dも現場合流だからロケの七つ道具だけロケバスに突っ込んで「おはようございまーす」と乗り込むと、同じようなタイミングで技術さんも乗り込んできた。
 おっと今日のカメラはチャンチャカチャンだ。ちなみにチャンチャカチャンというのはカメラ岩海苔さんのあだ名。どんな意味だか誰がつけたんだか全くわからない。ロケ同行プロデューサーは赤シャツ横浜プロデューサー。音声は高浜さん。おっ今日はアシスタントなしか。
 当時テレビ用のカメラは過渡期で、撮影用のカメラに紐付きで収録デッキを抱えたアシスタントが就くこともあったのだが、チャンチャカチャンはちょっとお年寄りなのでVTRデッキ一体型カメラを使うことが多かった。チャンチャカチャンこと、岩海苔さんは機材シフトを組むデスクという立場にいたから、その立場を利用して自分のカメラは軽いカメラにして、面倒なカメラは若手に回していたんだと思う。電波少年のアポなしロケのカメラとしては、カメラに2本紐がついてVTRデッキと音声マンがついてくると機動性が悪い。なにせ色んなところを走り回るので。
  視聴者には全く伝わっていないと思うが、このようなカメラの機動性やカメラマンの性格や腕、ディレクターとの相性、意外に音声さんや調整さんのツッコミなどがロケの雰囲気を決めてしまう、今日は何が起きても楽しそうな感じだ。
 13時ちょい前、バスに飯合さんの乗り込む。
「飯ちゃん、飯ちゃん、今日も頼むよ」と横浜Pの挨拶。
 横浜さんはたぶん「今日も(あんまり面倒なこと起こさない程度に面白いロケを)頼むよ」という意味で言っているのだが、飯合さんには「今日も(ぶっとんだ爆笑のロケを)頼むよ」と聞こえているはず。飯合さんは「俺のロケは爆笑」が口癖だった。
 今日のロケ予定のネタは3本『鬼平犯科帳に出たい(さいとう・たかを執筆開始のニュースを受けて)』『○○が××したから■■に行って▽▽したい(〇〇が××したニュースを受けて)』『クリントンに栗きんとんを差し入れたい(恒例の大使館訪問ネタとして)』。クリントン来日中なら、速攻クリントンを追いかけ回すのだけど、今日は来日前で大使館へご機嫌伺いに行くというネタだから緊急性もなく、今OAに向かってネタも枯れ気味だからということでロケ成功率の高そうなさいとう・プロダクションへ向かうことに。
 あっという間にさいとうプロ前。技術さんもスタンバイは早い。梅村の「僕も鬼平犯科帳に出たい!行ってみましょう」の掛け声とともに、さいとうプロ玄関へ。飯合さんはカメラマンの左側に立って、カメラマンの耳元でコミュニケーションを取ったかと思うと、ちょくちょく右側に移動する。というのも、取材用のテレビカメラ(そのカメラのことをENGと呼んでいた)の右側には、テープが走行した時間の出る表示窓があって、今、録画状況なのかスタンバイ状況なのか、そして録画テープの録画可能時間が後何分残っているのかをチェックしているのだ。テレビ用の録画テープは最長30分。今後の展開を想像して、ロケににかかる尺を考えカメラマンに「今テープ替えといて」と指示をする。大事な場面をテープチェンジで撮り逃がす訳にはいかない。
 そんな飯合さんの姿は、どこからどう見てもかっこよかった。僕もディレクターになったら、あんな感じにみえるのかなと一人夢想していた。
 さてロケ中のさいとうプロ玄関では、突然の梅村の訪問におそらくアシスタントらしき人が対応している。その時、梅村につけられているワイヤレスマイクの音声をディレクターは受令機で聞いている。ヤバイ状況なのか?好感触なのか?僕らADには全くわからない。音声を聞けるのはディレクターと同行プロデューサーだけだ。
 すると、さいとうプロの玄関で対応してもらっていた梅村が両手で大きな丸を作った。
「取材おっけーでーす」。
 ロケ隊は急いで梅村のもとに駆け寄る。このときのスピード感ある画、かっこよかったなあ。ADである僕も「うまく行ったんだな」と、おっとり刀でロケ隊の後ろを走って追いかける。すると飯合さんが「ADは外で待ってろ」との指示。事務所にたくさんの人が入っても迷惑になるだけなので、最少人数でお邪魔することに。こうなるとADにとってはつまらない。演出技術を盗むことも、ドキドキする場面に立ち会うことも出来ない。ロケバスに引き返すか、目立たない所でロケ隊が帰ってくるのを待つだけだ。

 1時間ほどして、みんながロケバスに帰ってきた。どうやら御大さいとう先生に会えた上に、鬼平犯科帳の連載は始まったばかりだし、時代劇なので梅村テイストのキャラクターを出すのは難しいが、ゴルゴ13ならということでOKを頂いたという。なんて太っ腹なんだ。
 この後、人間的に出来た横浜プロデューサーが平身低頭で無礼な取材をあやまりつつ、取材の許諾を後処理で頂くとともに、今後の展開を相談。その間、ディレクター・撮影部・梅村はやってやったぜのしたり顔でロケバス待機。こうしてまた1つネタが出来たことになる。
 続いてのロケ『クリントンに栗きんとん』はアメリカ大使館の人に、丁寧な受け答えをしてもらったにもかかわらず、とらやの栗きんとんは受け取ってもらえずロケ終了。

 「じゃ■■いくか」悪魔の顔で飯合さんがロケバスの運転手に伝えた。
(来ちゃったよー、飯合さん行く気だよー)
この『○○が××したから■■に行って▽▽したい(〇〇が××したニュースを受けて)』採用になったときから、やばい事は分かってた。横浜Pが軽くうつむいている。だいたいこういう他人の失敗を、嫌ーな感じで軽く触れるネタを書く作家は決まって蛸谷さんか、鮫鰭さんだ。そして、こういうネタが大好きなのが飯合ディレクター。鬼平犯科帳ネタでしっかり撮れ高を確保し、クリントンネタで来日した時の布石を打つと、時間制限のない金曜日のスケジュールをまるまる使ってハードなネタで大物を狙う。計算ずくだよ。
 飯合さんは1回の担当で必ず1つ、もしくは2つOAされるネタを撮ると豪語していた。1週間にロケするネタは10数本、スタジオにかかるのは多くて5本。少なければ3つが通常だった当時のアポなし電波少年。2つ取ったら大金星だ。
「長餅たち局員様と違って、ネタを評価されないと出入り業者の俺たちは御飯の食い上げだからな」
 飯合さんは後にそう教えてくれた。


 ロケバスが■■についた。カメラのチャンチャカチャンはついた瞬間準備万端。ホントに手際が良い。梅村はネタがヤバければヤバイほど、面白いサブだしが出来ると知っているから、やる気満々。彼の無謀なやる気が先方の機嫌をますます損ねやすくしてしまうことなど知りもしない。目はピュアなんですけどね。
 ヤバイネタのタイトルコールはロケバスの中、
「それでは行きましょう」

 「こら!そこでカメラ回してるスタッフ!梅村じゃ話にならん。こっち来い」ガタイの良い〇〇の広報担当の人がこっちに向かって歩いてきた。
 やっぱりネタがひどかった。梅村が交渉に行くなり、先方の広報担当が出てきて、「〇〇さんに会えませんか」という梅村に怒るのをやめて周りにいるはずのカメラを探し始めた。電波少年をよく知っていらっしゃる。カメラのほうに来るなんて梅村と喋っててもネタにされるだけですもんね。
 すると速やかに飯合さんが横浜Pに
「交渉よろしく!だいぶ梅村怒られたから、なんとかネタにしてね」
 横浜Pが頭を抱えながら名刺ケースを片手に、コチラへ向かってくる広報担当にお詫びに向かう。と、その時
「安岡!横浜さんにワイヤレスつけて!」
おいおい横浜さんが怒られてるところまでカメラ回すつもりだよ。
「えーっ、バレないとこにつけてよ」
 音声安岡は、これまた手際よくワイヤレスマイクを両面テープで横浜Pの赤シャツの裏側に貼り付けた。あっという間だ。
「カメラを止めろよ!」
オカンムリだ。近づいてきた広報担当の表情が見える。

 こういうプライドが高い職種の方のプライドを傷つける時の怖さは、この番組で十分勉強させられた。広報担当の人の後ろをついてくる梅村は、自分でなんとかできなかった事を悔いて、ものすごく落ち込んだ顔をしている。
「カメラを止めろっていってるだろっ!勝手に回すんじゃないよ!」
チャンチャカチャンはまだカメラを降ろさない。
怒った広報担当はズンズンコチラに近づいてくる。
「何やってるんだよ!カメラを止めろ」
そこでチャンチャカチャンは初めてカメラを肩から下ろす。
そしてカメラを止めた。
タリーと呼ばれる録画中の合図となっている赤いランプが消える。
広報担当もそのカメラを見て、すこーーしだけ落ち着く。
「だれだよ責任者は」
「僕です」
 梅村は必ずこう答える。
「おめーじゃないんだよ、本当の責任者を出せよ、責任者を」
「はい、あいすみません。私です。電波少年のプロデューサーを担当しております横浜と申します」
 担当者が怒っているのだから、プロデューサーもすぐ謝りに行きたいのだろうけど「責任者は?」と、聞かれるまで前に出られないのが番組の決まり。
 やっと横浜Pにキュー出た。
 揉み手の中から、手品のように名刺がすっと出てくる。
 その時、飯合さんがアイコンタクトをとった。それを合図に、撮影スタッフみんなオフサイドトラップのように、そっと一歩下がる。まるで横浜Pが自然と謝るために前に進み出たよう。リアルダチョウ倶楽部である。
 先方の広報担当と横浜P、そしてうなだれる梅村の3Sが自然に出来る。
「貴方もわかってるだろう」
「はい」
「どうしてこんな事するんだ」
「はい、すみません」
「すみませんって、取材には申請ってものがあるだろう」
「おっしゃるとおりです」
「じゃなんでこんな事するんだ」
「はい、あいすみません」
 横浜Pのお詫びが続く。大人になって、他の大人にこんなに怒られる人生ってなかなかないと思う。お詫びの間、腰は何度も45度折れ、顔は失礼のない程度の芸術的な笑顔。清潔感たっぷりの日に焼けた顔から覗く白い歯が眩しい。
 飯合さんの指示したオフサイドトラップのおかけで、先方の怒りは全て横浜Pに集中する。スタッフはロケにもならず、全権を横浜Pのに一任して呆然と立ち尽くしている。
 飯合さんは両手を横に軽い起立姿勢。音声の安岡さんはもじゃもじゃ頭につけていたヘッドホンを外して首にかけ、腰につけた3チャンネルミキサーに目を落としている。僕はどうしていいかわからないが、先方の怒りに油を注がないように仕事に関する全てを放棄していますという白旗オーラを出来る限り出すようにしていた。 
 チャンチャカチャンはカメラを右手に垂らして持っている。
 飯合さんが、チャンチャカチャンの右側のポジションからカメラのテープ走行を示す表示窓をちらりと見た。
 何かを感じて僕も遠目に、ふとその表示窓を見た。
 なんかデジタルの数字が動いてるぞ。
 回ってる!
 カメラ回ってるよ。
 タリー消えてるのにカメラ回ってる。
 よく見ると、力なく下げた右手に持たれたカメラのレンズは広報担当・横浜・梅村の3S方向に向いている。チャンチャカチャンが巧妙に手首だけで3人を捉えている。表示窓がよく見えないので、すぐ隣りにいる音声安岡さんの3チャンネルミキサーのメーターを見ると、針が振れている。
首にかけてるヘッドホンからうすく音が漏れている。
「だから君らは何考えてるんだって言ってるんだよっ!」
広報担当の声が高くなった。
それに合わせて音声メーターの針が赤いエリアに飛び込んだ。

「いやー撮れちゃったな、参った参った。これOAできたら爆笑だよ。うひゃひゃひゃ」
 帰りのロケバスの中は戦場から帰ってきた帰還兵を載せた引き上げバスのようだ。カメラのチャンチャカチャンが自慢のピラミダルのひげの先をちょいちょいとねじった。安岡さんは機材チェック。梅村は高いびきだ。
 このネタがOAになるか、ならないかはこの時点では分からない。しかしカメラが回ってなければ100%ネタにならない。実際、この後横浜さんがどうやって交渉したのか、想像もできないけど、このネタはOA出来た。企画の肝だった〇〇さんが、広報の不手際を詫びて、後日家に梅村を招いて、ごちそうまでしてくれるという大ネタになったのだ。もちろん、その食事席で梅村は〇〇さんに▽▽したのだけれど。
 カメラの右側にいるとテープが回っていることが分かること、怒られてもカメラを回していないとネタにならないこと、この番組をやっていると沢山のテクニックが勉強できてとても楽しい。が、このテクニックが他の番組で使えるかと言うと、それはハテナだった。
 今日もしっかりネタ3つをこなした飯合さんに
「飯合さん、この番組面白いですか?」と、聞いたら、ぽちょっと想像していない答えが帰ってきた。
「番組は面白いよ、爆笑。でも長餅はこの番組しかやってないんだろ?
電波少年ばっかりやってるとバカになるぞ。」と、言われた。
今日、二度目だ。
 朝苦手な人に言われたときは全く納得できなかった事と、同じことを憧れのディレクターに言われて、考え始めている自分の小ささが本当に嫌で、どんな顔してるかロケバスのガラスに映して見た。