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彼女の恋愛❶

こんばんは、長嶺涼花と申します。
私の投稿した作品を、開いていただきありがとうございます。
さて記念すべき一本目の創作物の投稿ですが、私の中でも印象深い小説を選びました。
見ていただける方に、私の表現を気に入ってくださる方が居たら幸いです。


恋人と別れた次の日、オシャレをする理由も見つからず、畳まれた洗濯物の上2つを適当に取った。
ちぐはぐな組み合わせならまだ笑えるのに、平凡で減点も加点もないような服に嫌気が差したが着替えないでおいた。
だって別に、誰に評価される訳でもないし。
まして笑いながら『もっと似合う服あるのに』なんて言ってくれる人もう居ないから。
「…やめたやめた」
考える時間が勿体ない。
たった一夜明けただけで思うのは早いかもしれないが、残念ながら本当にそうだ。
もう、思い返す時間なんて勿体ない。
「出よ」
行く宛てなんてものは適当に決める。
服見て、コーヒー買って、海にでも。
彼の匂いが染み付いたこの部屋からはさっさと出たい。
本心でそう願ってるから。
「…」
彼が好きだと言った観葉植物。
彼が嫌いと言ったこのラグ。
彼が使ってたブランケット。
彼に何度も愛してもらったあのベッド。
全部全部、色褪せてく。
全部全部、嘘みたいに消えてく。
「いいよ、それでいい」
彼のこと好きだった私ごと消えてなくなれ。
そしたらきっと、私は変われる。
自分だけで立ててたあの頃に帰れる。
彼に生かされてた私なんて消せる。
「…出来るよ、私なら」
彼の靴で散らかってたはずの玄関を後にして外に出れば春の香りが鼻に届いた。
そう言えば出会ったのもこんな春の香りがする日だったっけ。
あー、だめだめ。忘れるの、消すの私。
いつか思い出になるんだから、それなら今したっていいじゃん。
彼なんて私の人生に関わらない人だったんだから。
あんな色鮮やかな世界、所詮私には合わなかったんだから最初から。
「よし、行こ」
しばらく1人で乗ることの無かった愛車に乗り込む。エンジンを掛ければ、いつもよりその音が低く感じた。
隣から楽しそうな声が聞こえないことが、こんなにも虚しいなんて私は知らない。
『みーあ、今日はどこ行く?』
「っ、…」
聞こえるはずない。
聞こえていいはずがない。
甘くて、優しくて、酷い。あんな声、もう聞こえて欲しくない。
「…いや、だ」
一瞬で弱くなる。彼の前だと私は弱かった。
涙も簡単に流すし、弱音も簡単に吐いた。
生きる気力は彼の存在。
あの声と、あの手と、手繰り寄せながら生きてた。
でももう、一緒に居ちゃダメなの。
彼なんて麻薬、手放さないと人間じゃない。
私は上手く分量を測れなかったの。
「…、」
泣かない、泣かないの。
不安じゃないよ?彼なんて居なくても。
1人で買い物して、1人で居るだけ。
仕事して、帰って寝るだけ。
ただそれだけ、戻るだけ。

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