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日常に落ちてたプリン●

落ちたプリンを見て「これ小説になるね」なんて訳分からない会話から生まれた、意味がありそうで無さそうな変化球ショートショートです。
実際にその時起きた出来事を言語化したら、こんな少し切ないお話になりました。
プリンが美味しい日常のお供にどうぞ。



あの時落としたのは、きっときみだけのプリンだったんだと今なら分かる。
ぶれた写真のように、僕は君の輪郭を捉えられなかった。
だから寄り添えなかった。
”人”の文字のように君を支えることが出来なかった。
”入る”の言葉のように君の心に触れられなかった。
「結局知ろうともしてくれなかったね」
その言葉こそが本心だったのに、僕は無視して見ないふりして捨てた。
捨ててしまったそれこそが、君の大切なものだったというのに。
「貴方にとってこの時間はなんだったの?」
その問いかけにも答えられなかった。
何度も何度も君は僕が噛み砕きやすいように柔らかくして教えてくれていたのに。
僕はいつもその君の甘さを知らずに、アルコールみたいな大人の味に酔ってた。
最後まで僕自身も甘党だなんて気付こうともしなかった。
「落とすならもうあげないから」
どうしてあの差し出されたスプーンに噛みつかなかったんだろう。
そうすればきっと、あれが落ちて2人の傷に染みることなんてなかったのに。
僕はもうその甘さを味わうことも出来ない。
「じゃあこれで、さよなら」
全て分かった今でも、僕は不器用でちゃんと全部を食べきることが出来ないだろう。
少しだけ取りこぼしてしまうんだ。
だから必死に思い出そうとしても、あの甘さはもう口にはいない。
落ちたプリンだけが、頭に残っている。

梳かした時に引っかかる髪のしがらみのように君と僕はもう真っ直ぐにはなれないのだ。

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