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一つ目の話題「嫌いって何?」

「桜はきっと知っている。」という以前投稿した作品の登場によく似た男子高校生2人が、私長嶺涼花の頭の中でお喋りを始めたので文字に起こしてみました✍️

思い返した時に、

           〝あの時間こそ宝物だった〟

と言ってしまうような青春の日々をぜひ覗き見して行ってください😌


『俺ね、死にたいと思いながらボジティブに生きる。が、モットーなんだ!』

桜が散る別れの季節に、シロは俺にそう言った。
俺はその時、ただ頷いた。
自分の中にある思いをシロみたいに上手に言葉に出来なかったから。
これから書くのは、シロとあの言葉についてもう一度話し合うまでの俺らの会話の記録だ。

○一つ目の話題「嫌いって何?」

「ねぇヨウちゃん、嫌いってなんだと思う?」
「また唐突な」
器用にもガム風船を膨らませながらシロは俺に聞いた。
「まぁいいじゃん、とりあえず何か答えてみてよ」
「何かって、そうだな…」
きっと他の人間にこんな質問をされたら、俺は考えようともしないのだろう。
シロだから、ちゃんとした答えを返してやりたいと思う。
だってシロは真剣に〝嫌い〟について考えているだろうから。
「俺は梅干しが嫌いだよ」
「へぇ〜、知ってたけど。そういや何で嫌いなのかは知らないや」
「酸味がどうしても苦手なんだ。その中でも梅干しは特に駄目、だから嫌い」
「酸味って、どこまでが酸味?漬物は?レモンは?」
「えっと…漬物は別に食えるな。レモンも飲み物になってれば平気」
「え?じゃあ梅干しが嫌いなんじゃないの?」
「…確かに、そうかもしれない」
「ふぅん、じゃあヨウちゃんの嫌いは梅干しってことかぁ」
納得したのかしてないのか、シロは手に持っていたペンをくるくると回し始めた。
「どうして急に気になったの?」
「んー。今日、悪口言ってる人が居てね?そん時『マジであいつのこと嫌いだわ』って言ってたのよ。何かそれがすっごい気になっちゃってね」
こういう話をすると、シロの目から輝きが消える。
シロが見ている人の嫌なところは、シロにどれだけダメージを与えているんだろうか。
俺にはそれが分からない。
「俺、そう言えば嫌いって無いなぁ…あれ?嫌いって、何?ってなったの」
「そっか」
「うん。食べ物の好き嫌いすら無いもん」
「シロのお母さんご飯上手だもんね」
「…だから好き嫌い無いのかな、母ちゃんに『ありがとう』って言わなきゃな」
「ご飯以外も、無いの?」
「うん。ヨウちゃんはある?人に対して嫌いって思うこと」
人の言う〝嫌い〟は、シロが思うそれよりもきっと軽い。
俺の梅干し嫌いって発言と同じぐらいの軽さだと思う。
「俺は礼儀がなってない人は嫌い…いや苦手だよ」
「苦手。」
「そう、苦手。嫌いは…ちょっと違うかな」
「何が違うの?」
「視界に入れたくない、とか。声も聞きたくない、っていうのが嫌いかなと俺は思ってて…それほど嫌いと思ってる人は居ないから」
「苦手な人にはどんなことを思ってるの?」
「えー。そうだな『何話していいか分からない』とか?」
「その人と話したいことが無いんだ」
「…うん、その人をもっと知りたいとは思ってないかも」
〝嫌い〟を知りたいと思っているのはシロのはずなのに、俺の中の〝嫌い〟への理解が深まっていく。
不思議なことにシロと話すと、俺は俺をよく理解していく。
俺はシロの役に立ちたいのに。
「じゃあさ、嫌いな人が出来ちゃったらどうする?俺が聞いたみたいに、ヨウちゃんも悪口を言う?」
「どうだろう。その場に居る人もその人のことが嫌いだったら、言ってしまうかもな」
「えー!!ヨウちゃんも悪口言うんだ!」
「そう言われるとキツイな」
「ごめんごめん、でもそうなんでしょ?」
「絶対に言わないとは言えないな」
「そっかぁ…そうなのか、ヨウちゃんも悪口を…」
「それはショック受けてるの?」
「いや、何か…〝嫌い〟が悪いものに思えなくなってきて困ってる」
「どういう事?」
「今日聞いちゃった悪口はとっても嫌な感じがしたのに、ヨウちゃんが言う悪口を想像してみたら意味があるものな気がしてきたんだよ」
シロの頭の中のどことどこが繋がったのかは分からない。
ただ言われた言葉をそのまま受け取るなら、俺への信頼がそう言わせている気がして少し気分が良い。
暗い色した世界の中で俺が少しでも輝いているならシロの生きる意味になれるかもと、希望を持てる。
「ヨウちゃん、梅干しの悪口言ってみてよ」
「え…?」
「いいから、今だけは俺も梅干しのこと嫌いって思うから」
「そうだな、何で白米の真ん中に堂々と居るんだよ!とか?」
「あー、確かに。あいつ主役って顔してるよね」
「そうそう、主役は白米だってのに。めちゃくちゃ目立ってんの、あの赤」
「うんうん。それで?他に嫌いなところはどこ?」
「…種、かな。嫌いだから一瞬で終わらそうと思って、思いっきり噛んだらえっぐい音して毎回びっくりする」
「それヨウちゃんが悪くない?」
「ふっ、それはそう」
「っあー!!駄目だ、つい反論しちゃった」
「いいんじゃないの?シロは梅干し別に好きなんでしょ?」
頭をガシガシと掻くシロの手を止めて、俺はそう言った。
「嫌い。ヨウちゃんのならいっかなって思ったのに、分かんなかった」
「それはそうだろ。梅干しのこと嫌いなのは俺なんだから」
「俺、嫌いも分かんないんだって」
「…」
「名前通り真っ白だね、俺。相変わらず」
「〝嫌い〟を知りたいの?」
「何か、今のヨウちゃんもだけどさ?悪口言ってたあの人も思い返してみれば、生き生きしてた気がするの」
「うん」
「悪い感情のはずなのに、生き生きしてた。もちろん、同じものを持ちたいって思うのはヨウちゃんの方だけだけど。でもなんか、ちょっと羨ましい」
シロの過去は変わらない。
シロが死にたいと思ったこの世界も、変わらない。
「シロ」
「うん?」
「色々食べ歩きしてみよっか。嫌いなものあるかもしれないよ?」
「え!いいの!!!」
「うん。俺の嫌いがこれ以上増えないこともついでに願ってて」
「駄目だよ先行っちゃ。嫌いゼロの俺を置いてかないで」
「置いてかないよ。ほら次の休みに江ノ島行こう」
「おお〜電車旅だ、いいね」
「ね。だから、シロが真っ白じゃ無いって知っていこ?」
「…うん」
でもそんな世界に一人で立ち向かって欲しくない。
今にも消えてなくなりそうな、シロのこと俺はジッと見つめていたい。
そしてシロにもし色がついた時には、誰よりも喜んであげたい。
「楽しみだな、シロ」
「うん。ありがとう、ヨウちゃん」
そのためなら、俺は何だってする。

本気でそう思っていた。

一年後。
高校を卒業と同時にシロが姿を消す、その時まで。
俺はそう思っていたんだ。

~続く~
⇒二つ目の話題「歳をとるって何?」

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