もう一度会いたい●
ゆっくりと目を開けると、そこは知らない家の中だった。
全く状況を理解できていないのに、なぜかこれは「おじいちゃんの家だ」と不思議と思った。
「おお、これを見てみなさい」
記憶の中のおじいちゃんの声が聞こえて、それに応えるようにわぁっと遠くの方で親戚らしき人たちが盛り上がっている。
これもまた不思議な感覚で、盛り上がっているはずの人たちは一切見えない。実体のないモヤッとした輪郭があるような気はするけど、そこに私の知ってる親戚は1人もいない。
でも私の足はゆっくりとそっちに向かった。
「…りょうちゃんも来てたのかね!ほらこっちへ______」
満開の笑顔を咲かせて近づく老人は、間違いなく私のおじいちゃんだった。それ以外の誰も実体が無いのに、おじいちゃんだけ綺麗な色がついている。
「どう、して…」
有り得ない、どうしてこんなことが起きているんだ。だっておじいちゃんは、もう…居ないのに。
頭の中では『これは起き得ないことだ』と分かっているけど、目の前のおじいちゃんをじっと見つめてしまう。どうしても目が離せない。
「そんなところに立っていないで入ってきなさい」
「…おじいちゃん、っ…足」
記憶の中と何一つ変わらず優しいおじいちゃん。でも最後の方は足が弱って歩けなかった。それなのに今は、元気に歩いてる。
処理しきれない感情が頬を伝って、私1人だけその空間に馴染めずにいる。
「…?」
そんな私の涙を掬うように優しい風が頬を撫でた。目をあげれば、また1人綺麗な色の見慣れた人物が目に入る。
「うそ…なんで、」
思わず手を伸ばすと、もう1人のおじいちゃんが少しだけ後ろを見て「ふっ」と微笑んだ気がした。
あんまり背中を見たことはないのに、その行動が『らしいな』なんて思ってしまって、とうとう私は泣き崩れてしまった。
「ねぇ、これが有り得ないことでも良いからさ、
聞いて欲しい話があるんだ。
私ね、2人のことが大好きなんだよ?
あんまり言わない孫でごめんね?
それにね、最後の方。
ちゃんと向き合ってなかったよね、
それもごめんねって言いたくて…
でもさ、もしも許してくれるなら、
私の今の話を、聞いて欲しいんだ____」
はっと目を開けた瞬間、脳裏に綺麗な色の2人が浮かんだ。
それと同時に映った真っ白な天井に、息苦しくなるほど泣いた。
大切な人は、いつでも心の中に居ます。
夢の中で大切な人が背中を見せてくれるのは、
『見守っているよ』という意味らしいです。
どうか皆様も良い夢を。
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