愛するより愛された結果●
愛するより愛されろ、愛されるより愛する。
反する言葉に聞こえてそれは隣同士の言葉なんじゃないだろうか。
結局今の関係に何か言葉を貼りたくて、どちらかを選んでしまうんじゃないだろうか。
でも時に言葉は、真実を覆い隠す。
感情はいつでも相手に依存したものより、自分から出るものが輝くんだと私は思います。
そんなことを考える人間が書いた、
愛するより愛された結果をご覧下さい。
手を繋ぎたい時に、手を差し出してくれる。
そんな単純なことでいいのに。
なんの前触れもなく浮かんだその感情は、どうしようもなく我儘に聞こえる。
拗ねて、待って、それを捕まえようとする子供が気づけば心に住んでいたみたいだ。
「帰るよ?」
「ぁ、うん」
上手く返せない。
急に思考の糸が絡まってしまった。
絡まっているくせに、核にあるモノを囲うように丸くなっていく。
いっそのことトゲトゲしていればいいのに、思い浮かぶ全てが優しく甘い。
「どうしたん、頭でも痛いか?」
「いや、そうじゃないよ……」
些細なズレに急に文句を言いたくなる。
心配するならそんな言い方じゃなくてもいいでしょ、あぁいや優しさに対してそんな気持ちは駄目だ。
駄目なのに、比較対象がハッキリと居る。
そもそも、
遠くに閉まったはずのそれが実は心の核でしたなんて、今更どう説明したらいい?
「ならいいけど。今日のハンバーグ楽しみにしてんだから、俺」
「あぁ…そうだね」
様子がおかしい時に、私が何かをさせられた事があるだろうか。
うん、絶対にない。
でもそれじゃ駄目だって、それだけじゃ何かが減っていく気がしてしまって。
それであの人の元を飛び出したんだった。
『じゃあ今日は俺がハンバーグ作ろうかな』
「ぇ」
『いや食べたいよ?食べたいけど作ってあげたくなって!だから今日は作ってあげたいの勝ち!』
気を使わせないように言葉を選んで、罪悪感を消すために笑顔をみせてくれて。
ねぇ、それって何だったの?
私なんかのどこに、それをくれる価値があったんだろ。
『んー?だって、俺はさ…愛してるから』
その言葉を言う時だけ真剣で、でも私は恥ずかしくてマトモに返せたことは一度も無かった。
私の全てを見てそれでも愛してくれた彼の愛を、私はちゃんと見ていたのだろうか。
簡単な事だ。
例えばご飯を食べない昼が増えたこと。
結局何も出来ずに通り越す休日も増えた。
あれだけ些細な気遣いを求めていたのに、求めることすら諦めていたこと。
それが全部彼から離れてなくなって私に起きたこと。
簡単な事だし、特別変わったことでもない。
なのに、なのに私は。
「……ごめん」
「え、はっ?おい!どこ行くんだよ!」
気づいてしまった。
彼の隣に居れた時間が特別だったことに。
思い出してしまった。
私は元々普通じゃなかったこと。
そして何よりも、知ってしまった。
「私、愛してるんだな…………」
誰かと彼を比べないと知れなかったのに、どうしようもなく愛してしまってる。
自分の中のど真ん中に大切にしまうほど、愛してる。
彼に愛されていたから?
いいや、そうじゃない。
出会って、彼を知ったあの頃からずっと私だって彼を愛していたんだ。
「もしもし、久しぶり」
『うん。久しぶり』
「……あのさ、聞いて欲しいことがあって」
『うん』
「今更かもしれないけど、その」
『うん、聴いてるよ。ゆっくりでいいよ』
深く吸った息が縺れた糸を解いて、輝く核が顔を見せる。
もう一度捕まえろと、子供が私を睨む。
こんな我儘口に出したら、一発で地獄行きだろうな。
それでももう、私も掴みたい。
「愛してるよ」
『……そっか。____。あ、今待って』
「えっ」
電話越しに聞こえたのは、彼の声だけじゃなかった。
それと同時に、彼の糸も十分に絡んでいることを知った。
「ごめん、切る」
『ちょっとま、』
心から望んでいたのに、差し出してくれた手を私は振り払った。
繋ぐ資格がないと思った。
流れる涙がアスファルトを濃く色付けて、それを隠すように雨が降った。
風邪でも引いて一人で苦しめば、過ち分補えるだろうか。
もし誰かに許されたとしても、私の核はもう輝くことは無いだろうけど。
とにかく今日も、私はちゃんとご飯を食べないだろう。
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