ながめ

広く浅い趣味の記録

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マガジン

  • 真昼の遊霊

    • 63本

    学校の文芸部で書いた作品を掲載しています。各作品の製作制限時間は10分です。さあ、続きを書きましょう。

  • 柏木怪異譚

    柏木さんと坂口くんの怪異譚です。ときどき墨田くんも登場します。

最近の記事

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夏蔭【短編小説】

 その女は私をみるといつも笑いました。    私が怒っていても、笑っていても。たとえ泣いていたとしても、女は笑ったことでしょう。 けらけらとよく笑う女でした。その女が怒っていたり、泣いていたりしたところを私は見たことがありません。  常にとはいいきれませんが、少なくとも私の前では笑っていました。  一里塚に立つ大きな榎木の下に、その女は座っていました。青々と茂った榎木の下では、涼やかな風が吹いていました。  女の艶やかな黒髪は風に靡き、絹のようになめらかな白い肌が、よ

    • ドラゴンフルーツ実生記録 ~1週間

       5月下旬から6月にかけて私はスーパーに立ち寄るたびに、ドラゴンフルーツを探していました。目につくのはリンゴやオレンジなどの見慣れた果物たち。どこを探しても見つかりません。  そんな中、遂にあるショッピングモールでドラゴンフルーツを見つけました。歓喜の声をあげ、ドラゴンフルーツに駆け寄る私はさぞ怪しげだったことでしょう。  ということで自宅で早速切ってみます。果肉が赤いものと黄色のものもあるみたいですね。今回は白でした。  こうして見ると本当に不思議な形をしています。ワン

      • アガベホリダ・オテロイの実生記録  ~3週目

         5月も下旬に差し掛かるころ、アガベホリダとアガベオテロイの播種をしました。3週間目までの記録です。  今回はオテロイとホリダを50粒ずつ購入しました。  購入先は皆さんご存知seed stockさんです。モニターでvictoriae-reginae 'Bustamante'を頂きました。笹の雪系の品種っぽいですね。  念のためメネデールとベンレートの水溶液に一晩漬けます。 用土は軽石と赤玉土と鹿沼土を混ぜたものです。水はけがよければ何でもいい気がします。 表土にはバ

        • イワヒバをダイソーで買ったトレーに板付する

           最近、ホームセンターでも板付けにされたビカクシダをよく見かけます。ビカクシダを壁掛けにしている人はもれなくおしゃれ。  私もおしゃれになりたいと思った土曜日、しかし手ごろなビカクシダが手元にありません。そんなとき目についたのがこの子でした。 イワヒバ Selaginella tamariscina  イワマツと呼ばれることもありますが、シダ植物の一種で岩場に着生しているそうです。どちらかというとイワヒバが普及している名前なんですね。ずっとイワマツと呼んでいました。改めて

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        夏蔭【短編小説】

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        • 真昼の遊霊
          63本
        • 柏木怪異譚
          32本

        記事

          行列

          廃ホテルから出てきた彼らは、葬列に並ぶ人たちのように悲しみにくれ、そうしてフラフラと前に進んでいく。 「ショーをご覧いただきありがとう!」 機械仕掛けの男は列を見送り、仰々しい笑顔を顔に張り付けお辞儀を何度も繰り返した。 彼らの列を乱してはいけない。

          柏木怪異譚 棲むもの 陸

          「ここがぼくの寝ている座敷です」 「縁側につながっているんだな」 畳張りの座敷がつながる縁側はフローリングで真新しい様子だった。窓から差し込む西日が縁側の空気を暖めている。 「ここにも出ます」 「ここは何が」 「夜は雨戸を閉めるんですが、その雨戸を叩く音が時々聞こえます」 彼は雨戸を少し出して、拳で何回か叩いて見せた。耳障りで金属的な音がする。 彼がもう一つ案内した先にはこれまでの襖とは異なって、今風な焦げ茶色のドアがついた部屋があった。 「元は弟の部屋でした

          柏木怪異譚 棲むもの 陸

          柏木怪異譚 棲むもの 伍

          「こんにちは」 襖がゆっくりと開けられ、一人の女性が顔を出す。目元が冬崎くんによく似ていた。 「今日は仕事早かったんだね。こちらがこの前話していた、坂口さんと柏木さん」 紹介された順に私たちは会釈をする。柏木さんは「お世話になります」と言いながら、ずっと膝の上に抱えていた紙袋を手渡す。 手渡された袋を見て彼女は笑顔で「ありがとう」と言い、「息子がお世話になっています」と続けた。 「お母様は何かこの家で奇妙な体験をしましたか?玄関での出来事ならばすでに冬崎君から聞きま

          柏木怪異譚 棲むもの 伍

          柏木怪異譚 棲むもの 肆

          「まずは君自身が体験したものから聞かせてもらおうか」 「実際に体験したのはその帰省した日の夜でした。ぼくは帰省すると座敷に布団を敷いて寝ています」 ちょうどこの部屋の隣ですねと、彼は壁の方を向く。 「冬崎くんの部屋はないの?」 「ぼくが一人暮らしをするまではあったのですが、今は冬崎家の物置となってしまって使えないんです」 天井から吊り下げられた蛍光灯がチカチカと点滅した。この部屋に窓は一つしかない。そこから光が差し込み、私たちの座っている周辺だけがやけに明るかった。

          柏木怪異譚 棲むもの 肆

          柏木怪異譚 棲むもの 参

          3人分のお茶を注ぎ終えると、冬崎くんはテーブルの向かいへと座った。私の背後には襖を隔てて、先ほど通ってきた長い廊下がある。 わずかな沈黙の間私は昨日見た夢のことを思い出していた。どこかの部屋でモンキチョウが飛んでいる。その部屋は光が差し込んでいるのに、どこか暗くてそして冷たかった。不思議なことにその部屋の中には、入り口のドアとは別にドアがついている。 そのドアの方へ蝶は飛んでいき、すり抜けて行ってしまった。だから、私も追いかけようとしたのだ。すると、後ろから誰かに手をひか

          柏木怪異譚 棲むもの 参

          柏木怪異譚 棲むもの 弐

          助手席には籠いっぱいに檸檬が積まれている。車が揺れるたびにそれが跳ねて鈍い音を立てた。そのうちのいくつかはまた少し跳ねて私たちのところへ転がってくる。 「そのままで大丈夫ですよ。あとで拾うので」 「いい香りだ」 柏木さんは落ちていた檸檬を拾い上げると、それを優しく撫で回す。彼女がそうしていると不思議と車内の香りも強くなっているようで、香りを身に纏ったような気分がした。 「砂糖漬けにするんです。そのまま食べてもいいですし、お酒なんかに浮かばせても美味しいですよ」 「へ

          柏木怪異譚 棲むもの 弐

          柏木怪異譚 棲むもの 壱

          目的地まではあと1時間ほどかかる。いくつかの電車を乗り継いで、私たちはある街へと向かっている。緋色のボックス席に座るのは今や私と柏木さんだけとなった。車窓からは田畑と薄い空が覗く。始めは外を見ていた柏木さんも、しばらくするとイヤホンを取り出し音楽を聴き始めた。 また、30分ほど経った時のことだ。静かな車内にはどこかの駅に到着するアナウンスが響いた。 「二文字しりとりをしよう」 「蟻とか亀とか?」 「そっちではなくて、後ろの二文字を使ったしりとりの方だ。しりとりならば『

          柏木怪異譚 棲むもの 壱

          長い夜に

          秋という季節が好きだ。 夜が長いからだ。そうして冬みたいに寒くない。 朝は苦手だから夜は長い方がいい。 外の空気も少し冷たいだけで綺麗になったように感じる。 長い夜の前にはコーヒーを飲む。 そうすると夜はいつもより少しだけ冴え渡る。 冴え渡った頭で何かを考える。 そういう夜はいつもより少しだけ素敵なアイデアが浮かぶ。 また今日も夜が始まる。

          長い夜に

          柏木怪異譚 よくある話

          柏木さんは突然姿を現した。あの時、高崎くんの部屋から消えてから2週間が経っていた。 彼女にはもう会えないのではないかと思っていた午前10時、私は珍しく大学の図書館を利用していた。 読むはずのない10冊の本を積み重ね、1冊の本を読んでいた。 「坂口くん」 向かい側の席に座った誰かは私の名前を呼んだ。いつもと変わらないその声で彼女は私を呼ぶ。 「どこに行っていたの?」 「実家だよ。帰りたくなってね」 「連絡ぐらいしてくれてもいいのに」 「こう見えても私は忙しいのだ

          柏木怪異譚 よくある話

          生誕祭

          空が落ちてくる。 大地が浮かび上がる。 ぼくのせいだろうか。 ラッパ吹きの天使がもうすぐ来る。 壊れたエアコンを気にしている余裕なんてなかった。 それでも君は直せと言うから。 それなら代わりに世界を救ってよ。

          柏木怪異譚 布団 終

          その日の夕方、秋晴れの空はオレンジジュースを溢してかき混ぜたように綺麗だった。 高崎くんとはあれからそれぞれ分かれて、また5時にあの部屋へと戻ることになっている。 私があの部屋の前に着いたのは、ちょうど街の5時を知らせるチャイムが響いたときだった。 高崎くんを待つ前に私は部屋へと入る。明かりのついていない部屋の中は限りなく静かで、影が濃い。 玄関で靴を揃えるとき柏木さんの靴がないことに気がついた。 「柏木さん?」 リビングには誰もいない。少し前に柏木さんが使ってい

          柏木怪異譚 布団 終

          柏木怪異譚 布団 伍

          あれから3日がたった。1日目の深夜に雨が少し降ったこと以外は、あまり変わりがない3日間だった。 あの部屋の前の埃の溜まった玄関の隅には、ゴミムシが死んでいた。カラカラに干からびてその黒い身体は光を失っている。 前にはなかった21.5インチのモニターが、高崎さんのテーブルには置かれている。その前では胡座をかきながらコントローラーを握る柏木さんの姿がいた。 「柏木さん、それは?」 「この部屋は何もなさすぎるからね。暇つぶしだよ」 「あれからどう?」 「ときどき出るよ。

          柏木怪異譚 布団 伍