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103:オールフィクション
・先日寝坊をし、毎日リモートで行われる朝礼に参加できなかった。
・がしかし、出社の予定をぬるりと在宅勤務に変え、「顧客から電話が来ていて朝礼に参加できなかった」という鮮やかな言い訳によって、難なくその窮地を脱した。
・会社員としての仮面を被っている時、嘘を吐くことに全く抵抗がない。
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・もう4年以上前、新卒入社した会社で研修を受けている時「働くこと」自体に違和感を覚えた自分は、社会を脱する方法を考え続けた。
・最近流行りの「その水になじめない魚だけが、その水について考えつづける」というやつ。文学紹介者・頭木弘樹先生の初エッセイ集『口の立つやつが勝つってことでいいのか』で出てきた言葉。
・とは言え、視野が狭く性根が怠惰であるためそれまで何の能力も培ってこなかった自分は、当然のごとく社会を脱する方法を見つけることなどできず、今もなおもがき苦しんでいる。
・そしてもがき苦しんでいる間も残酷なことに季節は移ろうため、サラリーマンなどという奴隷を少なくとも現在までは続ける羽目になってしまった。
・そんな自分がとりあえずのアイデンティティを保つために実行した策は、「仕事においては仮面を完全に被ること」だった。
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・家の玄関のドアを開け閉めをスイッチとし、外に出る時は「会社員」という名前をつけた仮面を被る。
・『出社したら明るく挨拶』『基本笑顔で』『すれ違ったら挨拶』『指示されたことにはとりあえず快い返事』『連絡には即レス』『怒られた時はその内容の妥当性を判断する前に平謝り』『仕事をお願いする時には誰が相手でも低姿勢』『仕事をしてもらった時には多大なる感謝』
・平日は本来の自分ではない何かに憑依してもらい、「自分ではない人」に「会社員」という役割を任せている感覚で、奴隷業を遂行してもらっている。
・こうすることによって、仕事中に受けたストレスは、帰宅した時にはすべて無に帰すことに成功した。
・同時に、仕事で関係するすべての人間たちに興味がなくなり、嘘を吐くことに全く抵抗がなくなった。
・社外においてはもちろんのこと、社内においても自我を全く出せない。徐々に「自分がどう見られているか」に考えを巡らせることができなくなっていった。
・なぜなら、「自分ではない」から。
・でも社会においては、こういうやつが求められるだろ?
・求められることに対して何の疑問も抱かず遂行するような、奴隷。
・関西大学経済学部の植村教授も著書『隠された奴隷制』の中で、新自由主義による「個人の自助努力」「自己責任」といった思想が、奴隷状態を覆い隠す「新しいヴェール」として使われてきた、と言っていた。
・そのヴェールに気づかない奴隷でいなければ、サラリーマンをやることはできない。
・自分にとっての、それになるための防衛機制は、「別人格を保有すること」であった。
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・『こんなものに本腰を入れるまでもないと1人嘯きながら、それは虚栄心を守るための手段に過ぎなかったのだ。』
・この言葉を、将来は言わなくて済むよう、今は大噓つきとして生きていく。
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