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マネジメントは教養や所作ではなく、"業務"である

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はじめに

「マネージャーは尊敬される人柄じゃないと無理ですよね」
「マネージャーは対人感受性がないと」
「そもそも、人として向き不向きがあるよね」

経営者の方と議論していると、マネージャーを誰にしようかと悩む時、あるいは自社のマネージャーについてコメントをする時、こういうご意見はよく伺います。

これらの問いに対して私の答えは「No」です。
マネジメントはフローもやり方もはっきりと言語化できる"業務"であり、そこにはマニュアルが存在します。訓練すれば誰でも一定程度のレベルで実行可能なものだと考えます。

今回は私が代表を務める会社、EVeMが提唱するマネジメント”業務”の実行方法「THE MANAGEMENT PATTERN」と、それを実行可能にする訓練方法について書きたいと思います。

マネジメントは"業務"である

ドラッカーの言葉に「仕事を生産的なものにし、人間を活かすことが、マネジメントの役割だ」というものがあります。 とても学びになる言葉ですし、私も共感します。

しかし、これだけでは”教養”の域を出ないと思います。学びにはなるが、どうアクションすれば良いかはわかりません。 たくさんの偉人の言葉や、研究された理論からは多くの学び・気づきを得ることができますが、 これだけでは次に何をして良いのか見出すことはとても難しい。

教養よりももう少し行動に近いものとして、"所作(しわざ、ふるまい、身のこなし)"というのがあると思います。 私は昔、あるマネジメント研修を受け「人は、これは自分の仕事だという"所有感"を持つと、仕事が自分事化し意欲が湧く。マネージャーはメンバーに、所有感を持たせるように仕事を任せる」ということを学びました。とても重要なことですし、私はその通りだと思いました。

しかし、これは何か具体的な行動に落とし込める粒度のものではありません。 所作だけでは行動に落とし込むのは相当に難しく、私はこの研修を受けてもなお、自分がどう行動して良いか、具体的なアクションは見出せませんでした。

所作よりもさらに行動に近づけるものとして言語化したものが"業務"です。所有感を持たせるように仕事を任せる、という所作を業務に落とし込むと、たとえば以下のような業務が想定できます。

「誰が何を決めるのか権限設計表を所定のFMTで作成し、メンバーが自分で決められる範囲を明確にすることで、メンバーは迷わず意欲高く仕事に臨むことができる」

ここまで言語化できれば行動可能です。シートやセリフに落とし込める粒度の業務レベルで言語化されるから、人は必要に応じて必要な行動を取ることができます。

権限設計表は上記のような表です。時間がかかるな、めんどくさいな、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のトレーニングでは10分ほどで大方は完成します。

教養や所作のレベルでは、マネジメントという「業務」が何かはわからず、その解像度が低いので具体的に何をしたら良いか行動が見出せません。

何をしたら良いか行動を見出せない中でも人を動かそうとする時、「地位で人を動かす」「尊敬される」この2つは方法としてあり得るかもしれません。

しかし、「地位で動かす(上位であることを活かした圧力で人を動かす)」マネジメントでは、現場の意見は活発には生まれません。完全に答えがわかっていて現場の声など必要のないビジネスであれば地位を活かしたマネジメントで良いかもしれませんが、そのようなビジネスはこの時代に存在しているのでしょうか?

もう1つの「尊敬される」というのは、とても難しいことだと思います。まさにセンスの中でもセンス、再現方法を言語化するのは非常に困難です。それでもなんとか尊敬されようとした先に、「メンバーと仲良くする・メンバーに好かれる」という少し異なる方向性を見出し、そのためのアクションをしている方もいるかもしれません。

しかし、そうして「仲良く」「好かれる」ということに取り組んだ結果、チームの成果のために厳しい要望をメンバーにする、メンバーを評価する、そういうマネージャーのやるべきことがやりにくくなります。
友人に厳しい要望や評価が行い辛いのと同様に、「仲良くなる」という仕事仲間を超えた友人のような関係性の先に苦しむのは、マネージャー自身なのではないでしょうか。
マネジメントは、地位や尊敬、親密さをテコに行うものではなく、「マネジメントという業務」を実行するのみです。

マネジメントの「型」の作り方

マネジメントには行動レベルではっきりと定義できる業務の「型」が存在します。 その型を1つ、みなさんと一緒に作っていきたいと思います。

上記の問いについて、みなさんはどのように考えどのように行動しますか?言語化することが難しく、感覚的に考え取り組んでいる人が多いのではないでしょうか。
「メンバーによって柔軟に変えますね」というのは答えになっていません。
どのようなメンバーに、どのように関わり方を変えるのか、ここまで定義しないと実際の行動には落とし込めません。

メンバーの業務を、業務の重要度が高い・低い、業務に対するスキルが十分・不十分の4つの象限で整理すると、関わり方が見えてきます。

【業務の重要度が高い*メンバーのスキル十分】
メンバーのスキル十分なので基本任せる形で良いですが、業務の重要度が高いので「定期的に進捗を教えてください」という関わり方「定点確認」になります。定例会議などで定期的に進捗を確認します。

【業務の重要度が低い*メンバーのスキル十分】
メンバーのスキル十分ですし業務の重要度も低いので、定例会議を開くまでもなく、週報での報告など非同期のコミュニケーションで十分な関わり方「お任せ」になります。

【業務の重要度高い*メンバーのスキル不十分】
スキル不十分でかつ業務の重要度が高いので、メンバーにとってはプレッシャーが大きくかかる仕事になります。この時に「定点確認」の関わり方にすると、毎回の定例会議はメンバーにとって相当憂鬱になるはずです。
定例会議のたびに「できていません」と報告を繰り返すうちに、メンバーは自分の無力さを感じることになり、心身ともに疲弊してしまいます。ですので、この時はマイクロに関わって”あげる”必要があり「共同ワーク」ということで、密に関わり一緒に業務を進めていくという関わり方になります。

【業務の重要度が低い*メンバーのスキル不十分】
スキル不十分でかつ業務の重要度が低いので、メンバーにとってチャレンジングだがチームとしては今すぐ成果は出なくて良い業務であり、人を育てるのに最適な「トライ」の仕事になります。一度任せてあえて失敗させてみる、1つ1つ教えながらじっくりとやる、など育成を念頭においた関わり方になります。

メンバーごと業務毎のマネージャーの関わりは方このように表で整理します。関わり方を見直してみることは非常に有益です。

・「お任せ」で良いところ、マネージャーである自分の好きな業務なのでつい「共同ワーク」で関わってしまった
・本当は「共同ワーク」で関わるべきところ、メンバーの主体性を期待し「定点確認」にしてしまっていた

など、発見がたくさんあると思います。そして、その関わり方を見直すだけでも、マネージャーの業務は大きく最適化されて行きます。
これが、教養や所作ではなく"業務"のレベルで言語化するということになります。

シートやセリフに落とし込めるレベルまで業務として言語化することで、はじめて実務で再現可能なものになります。

参考までに解説動画もつけておきます。

メンバーとの関わり方という"業務"を、上記のように「状況・問題・解決方法」のフォーマットで実践のパターンとして整理しました。そして、そこに「関与方針」という名前をつけました。これを私たちは「関与方針の型」と呼びます。これがマネメントの型です。
マネジメントのすべての業務を"教養"や"所作"で終わらせることなく、実践のパターンを言語化し、そのパターンを認識しやすいように名前をつけています。

この手法は「パターン・ランゲージ」と呼ばれているもので、もともとは1970年代に建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱した知識記述の方法です。アレグザンダーは、町や建物に繰り返し現れる関係性を「パターン」と呼び、それを「ランゲージ」(言語)」として共有する方法を考案しました。
このパターン・ランゲージという手法をマネジメント業務の言語化に応用しています。

パターンランゲージについては慶應義塾大学の井庭先生の上記の動画にわかりやすく解説されていますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。

マネジメントに限らず、ご自身のやってこられたことを「型」にして誰かに伝えたいという方にとって、パターン・ランゲージはとても有益な方法だと思います。

パターンランゲージには3つの効用があります。

【認識のメガネ】
「関与方針という言葉」があるから今何が起きているかがわかります。

【対話の共通言語】
「関与方針という言葉」があるから組織内でスムーズにコミュニケーション・連携ができます。

【アクションの促進】
「関与方針という言葉」があるから次に何をすれば良いか具体的なアクションを考えられます。

これは日本語や英語などの自然言語と同じ効用になります。
「はじめに言葉ありき」ではないですが、パターンランゲージという”言葉”があるから、個人も組織もより良い行動が可能になります。

マネジメントの型の種類と体系

マネジメントの型は基準の型、動作の型、心得の型の3種類があります。

基準の型(1個)、動作の型(59個)、心得の型(40個)の3種類、合計100個の型があり、そのジャンルと体系は上記のように整理できます。
先ほど出た「関与方針の型」は、動作の型の中の、「チームビルディング」のジャンルに属する型の1つになります。

型を覚えるのではなく、型の組み合わせ方をマスターする

100個のマネジメントの型をすべて覚える必要はありません。「型の組み合わせ方」をマスターします。

まず、マネジメントができているとはどのような状態か?を定義しチェックする型「基準の型」に現状を照らし合わせると、課題がクリアに言語化できます。基準の型は「課題を言語化するための型」といえます。

▼参考:基準の型

マネジメントは、課題をクリアに言語化することがとても難しいです。
なぜ難しいかというと、「マネジメントができている状態とは何か?」という定義が曖昧だからです。成果を残せばそれで良いでしょうか?メンバーが心身ともにボロボロの状態でもOKでしょうか?「マネジメントができている状態」について、はっきりと定義できていない方がほとんどだと感じます。
それがはっきりと定義されれば、課題もクリアに言語化できます。

マネジメントは、定常的にやることが固定されている業務ではありません。
例えばある経理担当の方の請求書に関する業務であれば、毎月変わらず一定の期日に請求書を発行し、入金を確認し、会計システムに登録し・・と、その業務内容自体は毎月変わりません。この業務においては、いかに正確に、効率的にそれをこなせるかが腕の見せ所となります。
一方、マネジメント業務の場合、1から10まで行動リストがあり、どのような状況でもそれを繰り返すという"定常業務型"とは種類が異なります。その時その時の課題に応じて必要な業務を行う"課題対応型"の業務であります。

課題がクリアに言語化できれば、その課題を解決するために参考になる型「動作の型」を選択します。型を暗記しておく必要はなく、型のリストを見て適切な動作の型を探せばそれで大丈夫です。
基準の型が課題設定のための型ならば、動作の型は「課題解決のための型」といえます。

そして、マネジメントの動作を行うときは、図の右下にある「心得の型」を意識します。
毎月心得リストをチェックし、自分が特に意識すべき心得の型を決め、それを意識しながら動作を行います。

このように、100個のマネジメントの型を覚えるのではなく、100個の型の”使い方”をマスターし、型を使いこなせるようになることが重要です。
常に「型の組み合わせ方程式」が、簡単なメモや頭の中で描けるようになれば、マネジメントはスムーズにできます。

100個の型全てをここではご紹介できないのですが、以下の問いをご自身に問いかけるだけでも、より効果的なマネジメントが行えるはずです。

・基準の型に照らし合わせると、基準とご自身のマネジメントに、どのようなギャップがありますか?
・そのギャップが起きている要因は何ですか?
・その要因を解決するために何をやりますか?

この3つだけでOKです。基準の型のブログを見ていただいた上で、ぜひやってみてください。

THE MANAGEMENT PATTERN

これまで見てきた100個のマネジメントの型、そしてその組み合わせの方程式を合わせて「THE MANAGEMENT PATTERN」と呼んでいます。これはEVeM独自のメソッドになります。

THE MANAGEMENT PATTERNが使いこなせるようになれば、地位で圧力をかける必要も、人から尊敬される必要もありません。
言語化された業務をやることこそがマネジメントだと考えています。

そして、言語化されたこの業務を行う専門職が「マネージャー」であり、マネージャーという言葉は職位ではなく”職種”を表す言葉だと考えます。
エンジニア、デザイナー、マーケター、セールス、経理、人事・・・と同列で”マネージャー”が並ぶべきであり、業務内容がはっきりとした専門職です。

マネジメントは訓練可能である

教養や所作であれば訓練不可能ですが、言語化された業務であれば訓練可能です。
私たちEVeMのイネーブルメント方法は「1.トレーニング」「2.ツール」「3.実用化モジュール」の3つに分かれます。ご参考までにご紹介します。

1.トレーニング
トレーニングのプログラムは、「ダイナミック・スキル理論」という理論に基づき設計し、トレーニング提供→スコア測定(実践意向度・NPSなど)→改善を何度も繰り返した独自のものになっています。

これまで1,700名以上の方が本トレーニングを受けていただき、そこから得たフィードバックをもとにリーンにプログラムの改善を繰り返しています。
ダイナミック・スキル理論はハーバード大学教育大学院カート・フィッシャー教授が実証研究をもとに提唱した、能力開発のメカニズムです。以下の書籍が詳しいので、マネージャーのトレーニング開発などを担当する方にはおすすめです。

ダイナミック・スキル理論では、能力の成長についてさまざまなエッセンスがありますが、中でも私たちが特に重視しているのは、「スキルの発展は理論だけでは不十分であり、実践を通じて初めて深まる。具体的な課題に取り組むことで、理論的な知識が実践的なスキルへと変化し、持続的な成長が促進される。」ということです。

型を作成する際に活用したパターン・ランゲージの特徴なのですが、パターン・ランゲージでは、この状況でこのアクション、という風に、具体的なアクションまで実行可能なフォーマットになっています。それは、学問的な理論とはまた異なる粒度のものになります。

よって、これを実行するためのシートやセリフを開発することが可能になり、トレーニングではそのシートの記入やセリフを決めたロールプレイングでの実践を繰り返します。ポイントは、「実際のチームやメンバーを想定した」トレーニングであることです。実行可能なフォーマットとツールがあることで、架空のケースをもとに解決の方向性を考えるような研修や、内省を促すに留まる研修ではなく、実際のチームやメンバーを想定した具体的なアクションを行うトレーニングが可能になります。

OJTではありませんが、これを私たちは「経験的実践トレーニング」と呼んでおり、実際の経験に極めて近い具体的な課題に取り組み、「100個の型」や「組み合わせの方程式」といった知識を実践的なスキルへと昇華させて行きます。

具体的な課題を通して、という意味では、トレーニングを通して出てきた疑問に具体的な対話を通して向き合える存在が必要です。いくらシートやセリフが具体的だとしても、こういうケースはどうすべきか、など具体的な実行に関する疑問は出てきます。その際に、ユーザーの置かれた状況や業務内容が実感を持ってわかるトレーナーがいないと、実践に向けた有益な対話ができません。

EVeMでは、「2階層以上のマネジメントを経験していること」を最低条件とした上で多くの厳しい基準で選考を行い、入社後300時間以上トレーナートレーニングを受け、そのプロセスの中で多くの試験をパスした方のみをトレーナーとしています。そして、トレーナーの皆さんはデビュー後もユーザーからのスコアリングで厳しく評価されるシステムになっています。

重要なのは「ユーザーの質問に対してそれっぽくはぐらかして回答しない」ということです。これは創業以来とてもこだわっていることで、具体的な問いには具体的に”対話”します。答えがわからないならわかったふりをするのではなく、何度もユーザーと対話のラリーを繰り返し、議論し、答えを探します。それっぽい答えを述べて終わり、というやりとりでは、「具体的な課題を通して」ということが達成できません。

2.ツール

マネジメントの型それぞれや、組み合わせの方程式を実務で使えるようにするためのスプレッドシートが40枚程あります。

また、そのスプレッドシートには、「マネジメントの型」や「組み合わせ方程式」に関するナレッジを反映したAIのAPIを繋いでいます。
AIによるサジェストを受けながら、かつ使い慣れないソフトウェアではなく使い慣れたスプレッドシートで、どんどん実践が進みます。

型という共通言語がなければAIとの対話も抽象度が高いものになってしまい、具体的なアクションのヒントにはなりにくいですが、型という共通言語があれば、具体的で意味ある対話ができます。

AIを使ったスプレッドシートについては、ICCサミットを運営するICCパートナーズさんでご活用いただいた際の記事に具体的な事例がありますのでそちらをご参考にしてください。

3.実用化モジュール

THE MANAGEMENT PATTERNの中に、それを継続的に活用する仕組みがビルトインされいます。2つの仕組みです。

動作1on1】
「基準の型」に照らしわせて課題をクリアに言語化し、その課題を解決するために「動作の型」を選択する一連のコーチングフォーマットになります。

【心得チェック】
「心得の型」を網羅的に点数づけし、自分が特に意識すべき心得と具体的な行動を導き出し共有する会議フォーマットになります。

マネジメントの仕組み化、というとたくさんのルーティン業務を組織に装着しそれを横断的に管理する部署がマネージャーに対し期日を定めやらせる、そしてマネージャーの業務が膨大になり疲弊し結果形骸化する、ということをイメージしがちです。
一方、THE MANAGEMENT PATTERNを継続的に活用し続けるためには2つのモジュールを運用するだけでOKです。動作1on1も心得チェックも、月に30分やれば十分です。

重い運用業務を、かつ組織のマネージャー全体で、というのは結局いつか形骸化します。ライトな仕組みで、かつ実務そのものであるということが重要です。

2つのモジュールを継続的に活用することで、マネジメントの業務レベルは向上し続けます。

さいごに

業務のカタチが見えない、だから訓練できない、だから経験則やセンスにたよるしかない、マネジメントとはそういうものであるという世界ならば、マネージャーを計画的に増やすことができません。せっかくの良いサービスもマネジメントの力が得られず、会社もサービスも滅びることすらあります。

そういう悲しい事態を避け、良いサービスが成長する社会を作る一助になりたい、という想いで事業をやっております。

私たちの想いを表現した3分の動画もぜひご覧いただけると嬉しいです。
また、これを多くの人に使ってほしいと願っていますので、ご興味ある方はぜひご連絡ください!いますぐやりたいという話でなくても大歓迎です。
まずは壁打ち、お待ちしております!

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