見出し画像

朗読劇ありがとうございました!上演台本の初稿晒します

11/27(月)~11/28(火)に神戸三宮シアター・エートーにて行われましたYCA主催の朗読劇『大人になろうか!』が無事終演致しました!
ご来場頂きましたお客様方、出演者の皆様、YCA事務局や講師の菱田先生、そして何より同期の皆、本当にありがとうございました!

そもそもこの朗読劇は何なのかと言いますと。
誰も存在を知らない説もあるYCA(よしもとクリエイティブアカデミー)の脚本家コースの生徒が書いた脚本を、グランドホテル形式の朗読劇として実際に上演しよう!という趣旨のもと行われた公演なのですが、
実際に上演された内容は、我々生徒が書いた初稿を、講師の菱田信也先生が朗読劇の台本として成立するよう手直ししてくださったものとなっております。

ただまあせっかく書いた脚本なので、どうせならより多くの人に見てもらいたい!ということで私が書いたエピソードの初稿を公開します。
完成稿じゃなきゃ意味ねえだろというのはごもっともですが、講師の先生の手が入っている以上は私が勝手に晒していいものではないので…
どちらかといえば、来年以降YCA脚本家コースに入る後続の人に向けての、「こんな感じに書いておけば後は菱田さんが良い感じにしてくれるよ」というサンプル例だと思っていただければ幸いです。

朗読劇「大人になろうか!」のそもそものあらすじ

若手漫才師
「あの日のドリンクバー」
初単独ライブに集ったのは、
悩み多き20名の客。
劇の舞台は、客席。

それぞれが葛藤を抱えながら
たどり着く、それぞれの
『大人になろうか!』
とともに幕が上がる。

11/27(月)公演
”あのドリ”ボケのガチ恋ファンと、お笑いヲタクと、担任教師


登場人物

あの日のドリンクバー(通称あのドリ)のボケ・太郎(演:鯉太郎)
あのドリのツッコミ・西野(演:でる)

太郎のガチ恋ファン・工藤沙織(演:松屋翠)
お笑いオタク・染井柚希(演:須藤優羽)
担任教師・松田勝弘(演:ネイビーズアフロ はじり)

本編

 *沙織と柚希、最前列まで移動しながら、

沙織 「ゆずちゃん! これって、自由席ってことはどこ座ってもええんよな?」
柚希 「あー…そうだと思うけど…」
沙織 「一番前空いてるやん、ラッキー! ゆずちゃん、ここ座ろ!」
柚希M 「えぇ~…。私、ネタ中にメモ取りたいから、最前は気まずいんだけど…。かといって、正直に話して引かれるのも嫌だし…。仕方ないかぁ…」

 *2人、最前列に座る。

柚希M 「…お笑いの聖地、大阪に引っ越してから早1か月…。東京ではなかなか見れない関西芸人を堪能できて、充実した毎日を送っているけど…。正直、同級生とは全く話が合わない…! 私はもっと漫才のネタの作品性とか、マイムの重要性とかの話がしたいのに、自称お笑い好きな子にさえポカンとされちゃうし! 工藤さんはあのドリファンらしいけど、正直この子の場合は…」
沙織 「あぁーっ! ねえ見て、太郎くんのインスタ、ストーリーあがってる~! 『今日は初単独、ゲボ吐きそうなほど緊張してる』やって! きゃーっ、ライブ前の真剣な太郎くん、めっちゃかっこいい~っ! 緊張なんかせんでも、太郎くんはいつだってカッコいいし可愛いし最強なんやから、堂々としててーっ!」
柚希M「…百パー、顔ファンなんだろうな~~~。あぁぁ、合わないわ~~~」

 *受付での松田とスタッフのやり取り(影ナレ)

松田 「あっ、すみません…。飛び込みなんですけど、まだチケットって買えますかね…? あ、はい、当日券で…。あのー、席とかって後ろにしてもらえたり…あっ、自由席なんですか? はい、わかりました、はい…」

 *松田、舞台上に現れて、最後列の座席に。チラチラと沙織と柚希を気にしている。

松田M 「はぁ~…うちの制服着たのが二人して変な路地の中入ってくから、つい心配で着いてきてもうたけど、まさかお笑いのライブとはなぁ。…勢いでチケットまで買ってしまった」

松田M 「…しかしまぁ、工藤と染井が仲が良いとは意外やったなぁ…。染井は転校したてとはいえ、あんまりクラスに馴染めてないみたいやったから、担任としては心配やったんやけど…。一緒にお笑い見に行く友達ができて、いやぁよかった、よかった…」

 *他の客の騒ぎ声など聞こえてきて、

柚希M 「(舌打ち)何なの、さっきから? これから神聖な単独ライブだっていうのに、ギャアギャア騒ぎやがって…! 私が性格の悪いお笑いファンだったら、着てるものから適当なあだ名つけて、SNSで注意喚起という名の晒し上げしてやるところだっつーの!」
沙織 「ゆずちゃん、顔怖っ! どしたの、お腹痛い?」
柚希 「あっ…い、いや、別に大丈夫だけど…」
沙織 「ならもっとスマイル、スマイル~! これからお笑いライブなんやから、余計なこと考えんと、思いっきり楽しも!」
柚希 「は、ははは、そうだネ~…。…え、えーっと…工藤さんはさ…」
沙織 「もー、沙織って呼んでや~! クラスメイトになってもう1か月やろ? ゆずちゃんてば、まだ転校生気分なんかーい!」
柚希M 「うわーっ、悪い子じゃないのは伝わるんだけど、めっちゃ苦手~~~!」
柚希 「えーっと…沙織ちゃんはお笑いとか普段見るの?」
沙織 「ううん、そんなに! うち昔からテレビとかあんまり見ない家やったから、新喜劇とか数えるぐらいしか見たことないんよ。大阪人のくせに~って感じやろ!」
柚希 「…まあまあまあ、私らぐらいの子って、最近テレビ見ないし…。あっ、なら劇場は? マンゲキとか、森ノ宮とか、ZAZAとか、よく行くところある?」
沙織 「行ったことない! 今日ここが初めて!」
柚希 「…えっ? ここが? っていうことは…あのドリの単独が、人生で初めて来るお笑いライブってこと?」
沙織 「そうなの~! 私のはじめて、太郎くんに奪われちゃった♡ なーんちゃって、ボケやで、ボケ! あはははは!」
柚希M 「…どうしよう、客層がクソすぎる…。これ、ハズレライブだ…!」

松田M 「おぉ、話盛り上がってるやんか! 工藤はともかく、染井は東京の人やのにお笑い好きなんやなぁ。あの日のドリンクバーなんて、俺は聞いたことも見たこともなかったのに」

松田M 「いや、ほんまよかった、よかった…。特に工藤は…ちょっと前まで色々あったもんなぁ。楽しそうに笑ってるとこ見ると、ほっとするわ」

 *松田はずっと沙織と柚希を見守っている。

沙織 「ゆずちゃんって、いつからあのドリのこと好きなん?」
柚希 「…3年前の東西NSC対抗ライブから」
沙織 「えっ! 3年前ってことは…11歳からってこと!? そんな前からお笑い好きなん!?」
柚希 「親の影響でちょっとね。うちのお母さん、私を妊娠してた時、周りのママ友が好きな歌手の曲とかで胎教してる中、松本人志の放送室で胎教してたっていうちょっとイッちゃってる人だから、あはは…」
沙織 「…へー!」
柚希M 「あっ、今めちゃくちゃスベった! 私が持ってるエピソードで一番強いやつ持ってきたのに! やっぱり今の14歳に放送室のワードは刺さらないか…!」
柚希 「そ、そういう沙織ちゃんは、いつからあのドリ好きなの?」
沙織 「結構最近! ゆずちゃんに比べればまだまだ新参やなぁ~」
柚希 「…もしかして、M-1の予選動画から入ったクチ!?」
沙織 「へ?」
柚希 「(熱弁)あのネタで3回戦落ちはありえないよね! レポによると現場でもめちゃくちゃウケてたっていうし、準々通ったコンビであのドリよりウケてないコンビめちゃくちゃいるのに、あれで受からないって完全に審査員の好みで弾かれたとしか思えないけど、そんなん納得いくかぁ! 少なくとも準々決勝は絶対に行くべきだったから! 準決勝まで行くかどうかは2本目のネタ次第ではあるけど! とにかくあのウケとネタ内容で3回戦敗退は絶っっっっ対にありえない!!!」
沙織 「……」
柚希M 「…ヤバい、二連でスベった! 予選のネタ動画公開以降、新規ファン増えてたから、つい…!」
柚希 「ご、ごめん! オタク丸出しすぎて引いたよね!」
沙織 「なに言ってんの、引かへんよ~! めっちゃ怒るぐらいファンってことやんか! そっか、やっぱりお笑い詳しい人から見ると、ありえない審査やったんや~」
柚希 「えっ…あ、う、うん…」
沙織 「動画は見たんやけど、他のコンビとの差とかそんなんは全然わからんくて。けど、3回戦後のラジオで太郎くんがめっちゃ愚痴ってるの聞いて、そうなんや~って思ってた!」
柚希 「え…ラジオって、あのドリがYouTubeに上げてるやつ?」
沙織 「うん! 『あの日のドリンクバーのごちゃ混ぜラジオ』! 私、最初にあのドリに会ったの、ラジオやねん!」

 *会場内で停電が発生!

沙織 「きゃあ!? 何これ、こういう演出?」
柚希 「いや…明らかにトラブルっぽいけど…」

 *係員からトラブル説明。近くで雷が落ちたことを説明され、ライブを中止する可能性があることを示唆される。

松田M 「やれやれ、とんだトラブルに見舞われてしまった…。工藤と染井は大丈夫か? 急に真っ暗になって、怖がってたりしないか?」

沙織 「あっ、太郎くんのインスタ! ストーリー更新きてる~! 『開演直前に停電とか、俺前世で猫でも蹴ってたんかな』やって! もぉ~、こんな状況でもお笑いにしようとする太郎くんカッコよすぎやって~~~! ほんま好き~~~!」
柚希 「あはは、確かに~…」

松田M 「…うんうん、大丈夫そうやな! ひとりだったら不安だろうけど、友達と一緒っていうのもあって、何ならちょっと楽しそうやん! いやぁ~、仲良きことは美しきかな!」

 *停電継続中

柚希 「…ねえ、あのドリを初めて知ったのがラジオって、どういう流れだったの? もともとラジオが好きだったとか?」
沙織 「ううん! あのドリに会うまで、ラジオなんかお父さんの車の中でしか聞いたことなかったよ! そうやなぁ、どっから話せばええんかな~…。ちょっと重い話になっちゃうかもやけど…」

沙織 「私、ゆずちゃんが転校してくるちょっと前まで、不登校やったんよ」
柚希 「…えっ? 沙織ちゃんが?」
沙織 「別にいじめられたとかちゃうで。うちのクラスの子、みんな明るくて良い子ばっかやし。けどある日な、いつも通り学校に行こうとしたら…『あ、無理や』って思ったんよ。その日は熱あるって嘘ついてズル休みした。それが次の日も、次の次の日も続いて…」

沙織 「そうなるきっかけがあったわけでもない。いまだに何が理由なのか全然わからん。でも…学校に行って、クラスのみんなに合わせることが、急にしんどくてたまらんくなった」

沙織 「友達からめっちゃライン来たし、先生も心配してうちまで来てくれた。親も、途中からズル休みってわかってたはずやのに、何も言わないでそっとしておいてくれた。…優しくされればされるほど、自分がイヤになって、ますますしんどくなって…。そんな風に過ごしてたら、ふと気づいたんよ。『あれ、私最近笑ってへん』…って」

沙織 「ソッコーでTikTokとかYouTubeで、『おもしろ動画』で検索して、笑える動画いっぱい見た! 生まれてはじめて梅干を食べた赤ちゃんの反応とか、マムシに噛まれて顔パンパンに腫れた犬の動画とか、そんなん見てケタケタ笑ってた!」

沙織 「…でもそれも数秒だけや。気づいたらすぐ真顔になってんねん。笑えば笑うほど、空しくなってくだけやった。けど笑ってないと頭おかしくなりそうやったから、意味ないってわかってても、ひたすら画面を下にスワイプし続けた…。そしたらな、巡り巡ってあのドリのラジオの切り抜きに出会ったんよ。M-1で落ちた後、太郎くんがお酒飲みながら愚痴ってるだけの動画」

沙織 「何でかな…私、その動画を何回も繰り返し見てもうたんよ。この人はいったいどういう人なんだろうって思って、切り抜き元のラジオも聞きにいって…。お笑いのことなんも知らんから、何言ってるのか全然わからんかったけど、全部聞き終わったあと…私、泣いてた。酔っぱらって愚痴ってばっかりの太郎くんが、私の中のモヤモヤした気持ちとリンクしたような気がした」

沙織 「それからは一日中、太郎くんのことばっかり考えてた。他の動画も全部見て、ラジオも全部の回聞いた! 普段ラジオなんか聞かへんから、何回も途中で寝落ちしてもうて、全部聞くのに半月くらいかかったわ~! そしたらな…ある日急に、『今日は学校行けるかも』って思って、また行くようになったんよ」

沙織 「最初はみんなから腫れ物扱いされて、しんどかったけど…。そんな時はな、夜寝る時、あのドリのラジオをつけっぱなしにして、太郎くんの声を聞きながら寝るねん。そしたら朝起きた時、学校に行けんねん」

沙織 「…イタいやろ? 私。自分でもわかってるんよ。ほんまは太郎くんも、ゆずちゃんみたいにちゃんとお笑いのことわかってる人から応援されたいと思うねん。でも私はな、太郎くんがおらんかったら一生笑われへん。大げさでも何でもない、本当にそうなんよ。だから早くこんな停電直って、私を救ってくれた太郎くんに…あのドリに会いたい! そんで、いつか太郎くんに直接会って言うねん。『あなたのおかげで、今こうして生きてます』…なんてな!」
柚希 「…すごいね、沙織ちゃん」
沙織 「あっ、めっちゃ反応に困ってるや~ん! ごめんね、急にキモ語りして! なんか変なスイッチ入ってもうて!」
柚希 「ううん、本当に凄いと思ってるよ。あのドリも、私みたいな頭でっかちより、沙織ちゃんみたいな子に応援された方が嬉しいと思う」
沙織 「え~、それはないやろ! 私最近まで漫才とコントの区別ついてへんかったのに~! あははは!」

 *涙ぐんでいる松田

松田M 「工藤…。いつも一生懸命で、気を遣いすぎる子だから、一時はほんまにどうなるかと思ったけど…。またあんな風に笑えるようになってよかった…。先生は嬉しいよ…ぐすっ」

 *トラブル復旧! 会場内に明かりが戻る

柚希 「…直った~~~!」
沙織 「やったぁ~っ! これでようやく太郎くんに会える! あぁ~、生で見る太郎くん、きっとインスタで見るよりもずっとカッコいいんやろうなぁ~!」
柚希M 「…沙織ちゃん、ものすごく純粋に太郎のファンだってことはわかったんだけど…。言うほどカッコいいか…? どっちかっていうとツッコミの西野の方がイケメンだと思うけどなぁ…。まぁ、恋する乙女は盲目ってことか…」

松田M 「あぁ、よかった! 2人ともあんなに楽しみにしてるのに、中止にでもなったら可哀そうすぎたもんなぁ。いやあ、教え子が楽しそうにしてるだけで泣けてくるなんて、俺も歳を取ったよ…ぐすっ」

 *松田、ポケットからティッシュを取り出して、思いっきり鼻をかむ。その音で沙織と柚希、松田に気付く。

柚希 「(小声)…えっ。ねえ、沙織ちゃん、あれ…」
沙織 「(小声)うん…松田先生、よな…?」
柚希 「(小声)…気付かないフリしとこ。捕まったらめんどくさそうだし」
沙織 「せやな。学校の外で担任とバッタリとか、ダルいもんな」

END


11/28(火)公演
あのドリのボケ役の父

登場人物

あのドリのボケ・太郎(演:じゃけぇなんぶ)
太郎の父・五郎(演:岡泰聖)
太郎の母・幸代(演:豊島朱梨杏)

本編

 *五郎、舞台に登場、座席を見渡して、

五郎 「はぁ~…案外ちっちゃい劇場なんやなぁ! お笑いやるって言うから、新喜劇とかやってるとこでやるんやと思っとったのに。まあでも、島の青年会館みたいで、こっちの方が落ち着くわぁ」

 *スタッフを探しながら

五郎 「すんませーん! これどこ座ればよかとですか? (反応返ってこず) …なんや、忙しいんかな? ま、適当に座ればえっか」

 *適当な席に座る。

五郎 「よっこらしょ…はぁ、疲れたわ~。漁師やけぇ、船なんぞ乗り慣れてるちゅうても、漁船とフェリーじゃ感覚が違うわな。自分に向かって長旅ご苦労様っちゅう感じや、あっはっは! …まだ始まるまで時間あるんかな。それやったら先にお土産買いに行けばよかったわぁ。漁師仲間の連中に、551の豚まん買うてきてくれ頼まれとるからのう。あとスナックのママに頼まれたあれ…なんやったっけ、ミチローおじさんのチーズケーキ? そんなんも買わんとなぁ。まあ、わしは島からほとんど出たことがないけ。大阪の街はちっともわからん。お笑いが終わったら、太郎に案内してもらわんと。…っと、そうやそうや! 忘れるところやった!」

 *幸代の写真を取り出す

五郎 「(ドラえもんの道具出すときの感じ)タラララッタラ~♪ お母ちゃんの遺影~!」

五郎 「ほら! 見えるか、お母ちゃん? 太郎が芸人になって、初めての単独ライブやぞ!」

 *周りの客の顔を見渡し

五郎 「へぇ~! 太郎のやつ、まだ全然売れてへん言うとったけど、ちゃんとファンおるんやないか! えーと…あの日のドリンクバー…やったっけ? テレビじゃ全く見んけど、大阪だと結構人気なんかなぁ? …太郎なんか家じゃ全然おもろくないけどな。たまーに帰ってきてもずっと携帯電話ポチポチしてて、せっかくやし一緒に飲もうや~って誘っても1杯飲んだら寝てまうし…。まあでも、酒弱いのはわしの遺伝やから、あんまり偉そうなことは言えんなぁ。漁師仲間に鍛えられたおかげで、今じゃそこそこいけるクチなったけど、昔はビール一杯でふらっふらなっとったっけ」

五郎 「…皆さん、うちの息子がお笑いするとこを見にきてくれたんやもんなぁ。ありがたい限りやで、ほんま。父親からしたら、おもんないけど好きなことに一生懸命な、心の優しいやつやけぇ。太郎! せめてここにいる皆さんをガッカリさせないような漫才せんとあかんぞ! あっはっは!」

五郎 「…太郎の奴、いくつになったんやったかな。確か、もう…二十五か、六かそこらか…。わしが漁師仲間に酒しこたま飲まされて、毎晩毎晩しんどかった歳やなぁ…。…あの頃は、なんでこんな道選んでもうたんやろうって…そんなことばっか考えとったっけ…」

五郎 「…ほんまは漁師なんか、なりたなかったよ。せやけど、親父が跡継いでほしい言うから、仕方なしに海に出た。わしがそうやったけぇ、てっきりお前も、自分の夢より家業を選んでくれると勝手に思っとった。…けどお前は、大阪いってお笑いやりたい言うて、島から出ていきよった」

五郎 「わしだって夢があった。子供のころ、アニメを見るのが好きでなぁ…中でもドラえもんが大好きやったんよ。(♪)あたまテカテカ、さえてピカピカ、それがどうした、ぼくドラえもん~! 暇さえありゃ歌っとって、おふくろによう、『そんなに歌うの好きなんやったら歌手になり』って言われとった! …でも、別に歌手になりたかったわけちゃう。わしがほんまになりたかったのは、ロボット博士やった。…ちゃんちゃらおかしい話やけど、わしはな…自分がいつかほんまにドラえもんを作れるって、本気で思ってたんや。高校も工業高校行って、そのあとはロボット工学とかを学べる東京のおっきい大学行くって決めて…。でも結局、親を説得する勇気がなくて、高卒で船継いで…。酒の飲みすぎと船酔いでゲボ吐きながら、何度後悔したかわからん…」

五郎 「…ああ、ちくしょう! なんで今さら悔しいなんて思うねん! …まさか…俺は太郎に…自分の息子に嫉妬しとるんか?」

 *停電発生!

五郎 「えっ…なんやなんや、どうした?」

五郎 「…トラブルって、じゃあこの舞台はどうなるんや? 中止なるんか?」

 *舞台に幸代登場

幸代 「あんた」

 *五郎、幸代に気付く

五郎 「…えっ? お…お母ちゃん!? なんでここに…! だって、お前は…十年前にがんで…」
幸代 「あんたがいつまで経ってもこっち来ぇへんから、迎えに来たんやないの」
五郎 「…こっちって、どういう意味やねん! わしは太郎がお笑いやるの見に、大阪に…」
幸代 「ちゃんと思い出して。あんた、どうやってここまで来たん?」
五郎 「そりゃあもちろん、島からフェリーに乗って…」

 *SE/波の音・子供の泣き声

五郎 「…あぁ…そうや…。子供が落ちたんや…。危ない言うたのに、甲板から身を乗り出してて、そのままドボンって…。だからわし、すぐ海に飛び込んで…助けなあかん思って…」

 *SE/波の音 だんだん強くなる

五郎 「すぐ助けが来たけぇ、子供は助かった…。でも、わし…それ見て安心してもうて…。いつの間にか、目の前が真っ暗になってもうたんや…」

 *SE/波の音 FO

 *停電継続中

五郎 「…そうか…そうかぁ…」

五郎 「(明るく振舞って)…やっぱりわし、漁師なんか向いとらんかったな。海の男が溺れ死んどったら世話ないで! お土産、一個も買われへんくて、島のみんなには悪いことしてもうた。せっかく大阪来たんやから、わしも豚まん食べたかったわぁ。あと新喜劇の珠代ちゃん! いっぺん生で見たかったわぁ! あっはっは!」

五郎 「…こんな時、ひみつ道具のひとつでもあればよかったのにな…。わしが夢を諦めんかったら、空を飛べる道具のひとつやふたつ、開発できとったかもしれん…。…自業自得やな」
幸代 「あんた、もう行こうや。…ここにあんたの席はないねん」

 *葛藤する五郎

五郎 「…太郎にはこれでよかったかもしれんな。わしが死んだら、芸人辞めても家業継げばええっちゅう、逃げの考えができんくなるやろ。もうお笑いだけで食うていくしかないんや」

五郎 「…ならわしは、あいつの邪魔にならんと、さっさと消えな。子供の夢のために汗水垂らしてこその親やけぇの…。そのためにも、こんな停電は早う直ってくれ。あいつの夢の舞台を潰さんとってくれ…」

 *トラブル復旧!

五郎 「おっしゃあ~! やったぞ、お母ちゃん! これであいつの夢が終わらずに済んだ!」

 *立ち上がって、周りの客に頭を下げながら

五郎 「皆さんもほんまありがとうございます! こんなに息子が愛されてるんや思ったら嬉しくて嬉しくて…! ほんまに、ほんまにありがとうございます!」

 *周りの客、誰も五郎に反応しない

五郎 「…あぁ、そうやった。もう誰にも見えんのか…」
幸代 「もう満足やろ? そろそろ行かな。お義父さんも上で待っとる」

 *五郎、しばしの葛藤のあと、深くうなずいて幸代のもとへ

五郎 「親父、怒っとったやろ。『お前が死んだら代々受け継いできた伝統漁法はどうなるんや!』言うてるのが目に浮かぶわ」
幸代 「あの世いったら、怒るも何もないんよ。ただ何も言わんと見守るだけや」
五郎 「…そっか」

 *五郎、舞台(実際の客席)の方を見つめて

五郎 「…太郎。お前はすごい男や。怖気づいて夢を叶えようともせんかった親父より、ずっと漢気のある、自慢の息子や。…俺からしたら全然おもんないし、芸人としてやってけるかどうか不安で仕方ないけどな!」

五郎 「…どうせすぐ逃げ帰ってくるやろうと思っとったのに、こんなたくさんの人に応援されて…。いっちょ前になったのう! あっはっは!」

五郎 「お前の晴れ舞台、一番上の特等席で見させてもらうわ。…じゃあな。太郎!」

 *五郎と幸代、舞台袖へハケ。入れ替わりで一般客入ってきて、五郎のいた席に座る

一般客 「あぶね、間に合った~! 開演ギリギリ!」

END


上演台本にする時に直されたところ(一部)
・ガチ恋ファンとお笑いオタクの話は、最後にお笑いオタクの柚希から「ライブ終わったら出待ちしようよ!伝えたいこと伝えてきなよ!」と背中を押される、というやり取りが追加された
・あのドリボケの父はこの世に存在しない適当な方言で書いていたので、全台詞を長崎弁に直してもらった
・担任教師松田の台詞がカットされた結果、朗読劇本番後のアフタートークではじりさんが「台詞が少ない」とイジられた。

改めて、全生徒の脚本を上演台本用に手直しした講師の菱田先生には頭が上がりません。ちょっと想像するのも嫌になるくらいの労力…😥
以前書いたnoteでも「シナリオの勉強としてめちゃくちゃ貴重な体験」と書いたこの朗読劇ですが、実際に上演してみてやっぱり面白い試みだと思いましたし、もっと広まってほしい!と心から思います。
何よりいちお笑いオタクとして…東京の芸人さんでもやってほしい…!推しの演技、見たい…!

※補足
この記事に乗せた脚本は厳密に言うと初稿ではなく、私(生徒)が書いた脚本としては最終稿にあたるもので、この脚本をもとに上演台本が作成されました。
じゃあ初稿って書くなよって言いたいんでしょ。悪かったよ!!!!!説明がややこいんで悪しからず!!!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?