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急がず、しかし、休まず

『コスパ』が重視される社会になったのは、
一体いつからでしょうか。

私たちはどんどん進化してどんどん道具を発明してどんどん世の中を、そして自分たちを便利にした。てっきりそう思っていた。今でもそう思っている節がある。

けれど、
これがどうも大胆な読み違えとも言える。

技術が便利になれば失うものがある。西洋化した結果、日本家屋はかなり数を減らしたでしょう。服装で身分が分かる文化なんぞも無くなってしまったから、刀を見て「あの人はお偉い方だ」と直感する平民の気持ちを想像するのだって、簡単なことじゃありません。もちろん、皆さんと同じ時代を生きてるので僕もそうですよ。一切偉いなんて事じゃない。


ただ、このコスパ重視の社会は、
学問やら理性との相性は悪いでしょう。

以前、批評家として大成した小林秀雄が「分かるっていうことと苦労するっていうことは同じ意味ですよ」と言ってましたね。あの一言に詰まっていると私は思います。


近頃は随分コスパばかりが議題に上がる。そのひとつにはモノが飽和したからというのがあるでしょうが、それに目移りしているようではきっと大したことできないでしょう。寺田寅彦の『科学者とあたま』の一節に「わき目も触れず」という言葉が出てきます。今、この一言を遂行できる人は何人いるのでしょう。


昨日、4、5年ぶりに『音読』をやりました。
それは良い時間だった。


高校にも上がると皆んなで声に出して読むみたいなことはやらなくなって、選択肢のどれを選ぶかという事だけが気に留まる。ただ、それじゃ目の前の文章は真心を打ち明けてくれないかもしれませんね。


北大路魯山人という芸術家に『数の子は音を食うもの』という短い随筆があることをご存知でしょうか?

数の子は皆さん分かりますね。ニシンの卵を塩漬けにして食べる、プチプチっと音の鳴る黄色いアレです。他にも音が心地よい食べ物っていくつかありますでしょう。お煎餅とかお漬物とか。さらに他にもいくつかある。


それはその音を含めて私たちは味わっている。つまり、味わうという言葉から味覚と嗅覚しか連想しない人は『数の子の美しさ』が分からない。コレは私が偉そうに言ってるんじゃなく、北大路魯山人が言ってるんですよ。

魯山人は五感で触れることを凄く大切にしていた。自然の美というものを家宝のように愛でていた。そんな魯山人に今の私たちを見せたらゲンコツの一発でも飛んできそうなくらいだ。


音読をすると「この語感が心地よいな」というのがある。それは声に出して同時に自分の耳で聞いているからです。つまり、五感で文章と向き合っているという事ですね。

ラップの韻だとかあるが、本来の私たちは五感を要する美しさを本能的に欲していたはずです。しかし、今はそれを理性で押さえつけている。

ふと試したければ何か名著を音読してみると良い。短くて良い。どれだけ言葉のリズムや表現が美しいかが少し分かるはずです。それは昨日の僕が保証します。


再びの話で申し訳ないが、小林秀雄は「その人が見えてくるまで読んでは、じっと待つ」と、ただそうやって物を分かってきた人です。そして、それを読者にも求めた。

早く知ろうなんて味わいがない。というか、早く知ったというのは「知った気になっている」ことの何よりの証明かもしれない。そんなことを私の中の小林秀雄は言っているような気がするんです。
#読み違えていたら申し訳ない


今日の原題は(のちに変えてるかもしれないが)、『急がず、しかし、休まず』というものだが、これはゲーテの詩の一部である。ゴチャゴチャと話す前に、全文を載せておく。全文といっても数行の短い詩だ。

星のごとく
急がず、 しかし、休まず、
人はみな
己が負い目のまわりをめぐれ!

ゲーテ詩集(新潮文庫)より


コスパ主義に走らず、
ただ、考えることをやめない。

ゲーテはきっと人間という存在に対して誠実だった。誠実だから急がなかったし、そしてまた、休まなかった。僕にはそう思うんです。


何でもかんでも知識として蓄えればあなたの土壌は肥沃になるかと言われたらそんな事はないでしょう。砂漠に何したって砂漠です。土にはならない。

何かを焦って吸収しようとすればそこは砂漠でしょう。逆に、何かをジッと待っていつか受け入れられたら良いと気長にしている人は土かもしれない。気付けば芽が少し出ているかもしれないし、花が咲くこともあるかもしれない。 


つい私も早く知ろうとしてしまう。色々偉そうに物を書いてるけど、まぁ物を書く人間なんて全員偉そうであることも事実だか、私だって全くもって大した人間じゃない。

だから、適度にこのnoteに帰ってくるでしょうし、どこかで似たことを書いてる(すでに書いた)かもしれない。けど、それで良いんじゃないかなとも思います。


締まりの悪い文章で申し訳ないです。今日挙げたものの原著に当たってもらえれば、何か五感に来るものがあるはずです。


では、また明日
長濱(2024.4.17)



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