見出し画像

地元パワーを盛り込んだ「技術」の教育

教育学部で技術が専門の鎌田英一郎先生。地元の生産者と学生を繋げ、地域の中で学びの種を探し出す授業が魅力です。今回は教育学部1年生対象の初年次セミナーに注目して「地域と繋がることで広がる学び」について話を聞きました。

画像2

課題「上野さんの豚を使ったメニューを提案せよ」

初年度セミナーで鎌田先生が出したのが上の課題です。上野さんとは長崎県大村市で養豚業を営む上野養豚のこと。極上の豚肉への定評はさることながら、他業種との様々なコラボレート実績や、部位ごとに異なる味わいを満喫できる独自の販売企画「まるごとん」など、様々な活動が話題になっている新進気鋭の畜産農家です。

その美味しい豚肉を使い、特性を活かしたメニューを考えるというのが入学直後の新入生への課題でした。面白そうでしょう? 学生は4グループに分かれてメニュー考案に取り組みました。各グループの最終発表の一部をご紹介します。

「揚げないヒレカツサンドとヘルシースープ」

スライド1

“女性好みのヘルシーメニュー”をコンセプトにしたAグループ。油控えめにすることで揚げ物の風味と食べ応えを残しつつ、ヘルシーさも実現しました。そして、豚肉はビタミンB1やL-カルチニン、コエンザイムQ10も含まれている、美容に最適な食材ってことも調査しましたよ。

「豚肉とパイナップルの相性抜群なハンバーガー」

スライド1

“コロナ禍でも手軽に楽しめるテイクアウトメニュー”を考案したのはBグループ。パイナップルを使った理由はお肉を柔らかくするため、そしてインスタ映えするから。実際に写真の撮り方にもこだわっていること、伝わってきますよね!

「ウナギならぬ、上野豚のひつまぶし!?」

スライド1

あえて、別の地域の食文化にヒントを得ることで意外性を出したのはCグループ。名古屋名物を豚肉で再現した3つのメニュー案から最終的にひつまぶしに決定! 豚肉のひつまぶしって、本当に斬新。外はカリッ、中はふんわりのうなぎのような食感を出すために、部位を変え、料理法を変えて、試作を重ねたそうです。

裏切らない美味しさ、豚丼で栄養満点に!

スライド2

豚肉の魅力をとことん調べて行き着いたのが王道の「豚丼」だったDグループ。定番メニューの中にも“長崎らしさ”として中華の要素を加え、中華風ルーロー飯にしました。ニンニクを効かせることで、味わいでも栄養面でも豚肉を引きたたせています。

地域と繋がりを持ちつつ、研究の基本を学ぶ初年次セミナー

学生が楽しみながら課題に取り組んでいることが、発表内容から伝わってきます。そして、ただ楽しいだけではなく、下調べや試作を重ねている濃い内容であることにもお気づきいただいたと思います。この初年次セミナーにおける学生の取り組み内容は次の流れです。

1. 上野畜産の豚肉について調査し、気になる豚肉を取り寄せる
2. 家族や周囲の協力者、資料、メディアからアイディアを得てレシピを考える
3.中間発表(2で考案したレシピや、その裏付け調査内容を聴講者に伝える)
4.さらに改良を重ねるべく豚肉を追加注文
5.料理法、味わいを確認してレシピを完成させる
6. 上野さんをお招きして「オンライン最終プレゼンテーション&交流会」

初年次セミナーの 「学びの真髄」について、鎌田先生に話を聞きました。

画像10

初年次セミナーの目的は、科学的な思考力や課題発見能力、情報収集力、プレゼンテーション力などを養うこと。それに担当教員がそれぞれに独自のテーマを加えています。私の場合は、上野養豚さんとコラボレートすることで“地域と繋がる”という要素を取り入れました。学生にとって上野養豚の豚肉との出会いは、地域に密着して養豚という仕事を担い、課題に取り組みながら、活動の幅を広げている人物との出会いでもあります。最終プレゼンテーションでは、(株)上野養豚の代表取締役の上野活樹氏と取締役の上野淳子氏のお二人にもリモート出演していただき、仕事内容や豚肉のおいしい調理法についてのアドバイスなどをお話しいただきました。豚肉愛にあふれる上野夫妻の熱いトークに、学生は感銘を受けていました。

また、テーマを食と関連づけることにより、物事を五感で受け止めるようになります。食は生きることに直結しているので、自分のこととして捉えやすくなるでしょう。さらに、食は人と人とを結びつける効果があります。豚肉料理を家族で楽しむことができたという感想もたくさん聞きました。

私は、教育学部生に“将来、生徒が楽しんで取り組める質の高い授業を作ってもらいたい”と思っています。そのためのヒントの一つが“地域と繋がること”だと考えます。地域と繋がり、いろんな角度から見てみると、課題がたくさん見つかります。その課題をどう教育に落とし込んでいくのかを考えることが教員の技量です。この初年次セミナーの経験を、将来教育の現場で活かしてほしいですね」。

普段の生活の中に「教育におけるヒント」がたくさん潜んでいると考えたら、日々の過ごし方が豊かになりますね。最後に学生の発表から、豚肉の美味しい調理法(部位ごと)についてご紹介。今夜のメニューのご参考になさってください。

画像10


〈終わり〉


とっておきの「取材こぼれ話」

(1)鎌田ゼミでは畜産農家や水産試験場へ見学に行きます

現在、鎌田研究室に所属しているゼミ生は5人。うち小学生コース4人、中学生コース1人です。小学校教育では主に生活科の授業で栽培に関わる指導があります。中学校教育では、技術の授業に作物の栽培や畜産、水産の内容が含まれており「よりよい生活や持続可能な社会とは何か」について考える内容です。その教育力を培うために、鎌田研究室では畜産農家や水産試験場などの見学も定期的に実施しています。下記は長崎県佐世保市のさとむら牧場を見学したときの写真です。

画像10

↑牛には胃が4つあり、それぞれ機能が違うことについて説明を受けています。

里村1

↑体験実習で仔牛にミルクを与えています。

(2)鎌田先生が年に2回担当している公開講座

鎌田先生の魅力的な授業は、学外の方々にも受講の機会があります。毎年、春と秋の2回、学外向けに公開講座を実施しているのです。春は高糖度トマト、秋は伝統野菜がテーマです。お話をうかがったのはまさに、秋開催公開講座の直前で、研究室には公開講座で紹介する伝統野菜の種が揃っていました。

画像3

2つの公開講座は来年度も開催予定です。主催の長崎大学教育開発推進機構 生涯教育センターのWebサイトから時期や内容をご確認ください。

(3)この記事の関連Webサイトはこちらから。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?