見出し画像

「俳句入門講座」を担当して

はじめに

このたび「俳句入門講座」(全三回)の講師を担当しました。
今回、その体験+カルチャースクールでの俳句講座の体験をもとに「これから俳句講師をしてみたい方」へ私なりの雑感を少し書いてみようと思います。参考になれば幸いです。
(本稿はあくまでも著者個人の見解となります。予めご了承ください)

全ての受講生が「未経験者(初心者)」とは限らない

どんな講座も講師にとっての初回は
教室の雰囲気とペースを掴むのに大事な回。
そして受講生。自治体等の講座だと、結社の方が応援として参加される場合もあると思いますが、ほとんどが初対面の方ということが多いでしょう(私は普段、カルチャースクールで俳句講座を毎月担当していますが、大体どの講座も初対面の方が来られます)。そして、どんなタイプの方々が受けに来られているかも本番当日になるまでわかりません。

私の経験ですと、そもそも入門(初心者)講座の場合、次の3つのタイプの受講生が存在すると思います(以下、初対面の受講生のケースで記述)。
① 本当の初心者(未経験者)。
② 実戦なしだが知識はあるタイプ。歳時記を持っていて俳句マニュアルや雑誌を読んでいるが、句会などは未経験。
③ 経験者。すでに結社や地元の俳句会に入って俳句をつくっているが、文法などの知識を習いたいタイプ。

つまり「入門講座」と銘打って講師はそのつもりで内容を用意していっても、実際は②や③のタイプが多いこともあるのです。
そうすると「すでに知っていることばかりで、収穫がなかった」という評価になる可能性が。 

その場合どうするか?

私は「俳句(句会)経験の有無」を講座の最初の段階で確認したうえで、
「本講座は講師の経験に基づいて行う内容であり、
経験者の方の場合、すでに得ている知識と違う場合もありうる。
また、句会に既に所属している方は先生の指導と違うこともあると思う。
でも、それは当然。なぜなら俳句は作る人の数だけ、考えや方向性がある。
だから、一つの考えやツールとして本講座を参考にしてほしい」
と最初に伝えるようにしています。その一言が最初にあるかないかで、受講生の印象は結構違ってくるようです。

こんなふうに、おシゴトとしての俳句は、普段の俳句を作り、句会に参加する側とは違う意識や視線、工夫が必要になります。

その後の講座内容は、イントロダクションにふさわしく講師の自己紹介から、俳句や季語(歳時記)の説明などと繋げるとやりやすいと思います
(私もこの路線にプラスアルファで内容を組み立てました)。
ただ、この場合も自分自身の句作経験や句会でのエピソードなどをちょこちょこ織り交ぜて、内容に緩急をつけるようにしています。
また、現在のトピックなども入れると関心をもってくれるようです。
実際に私がしたのは「マスク」の話。マスクが季語か知っているかの知識の確認から、他季で(季語の属性をなるべく外して)「モノ」としてマスクを詠む場合の考え方など。
今回の初回では、この話に結構反応がありました。

つまり、初回に講義する情報や知識はオーソドックスな内容でよいのです。
ただ、そこに「講師の「俳句経験」」を肉付けすることで
内容に厚みと説得力が増し、受講生の表情もどんどん変わってきます。
なお、「講師自身の初心者時代」「最初の頃にやってしまった失敗」なども入れると、共感をもって聞いてもらえるようです。

「作り方」の説明はシンプルでOK、でも配布資料はしっかり用意

第2回目では「実際の作り方」をテーマに、
主に基本的な文法講座(省略の考え方や切れ・切字など)を実施。
さまざまなスタイルの俳句を例として提示し、説明。

文法は説明する側も理解する側も結構難しいです。
ですから、あれもこれもと盛り込まず、
第1回同様にオーソドックスな内容と進行がよいかと。

そして、気をつけたいのは「時間配分」。
文法説明は意外と時間がかかります。
また、板書をすると書いたり消したりの繰り返しになり、
それにも割と時間がとられます。
ですので、こまめに時計を見る癖を。

また、時間内に説明が終わらない可能性があります。
そのため、受講生への説明は簡便にしても、
配布資料の内容は「充実」したものに
しておくとよいと思います。
そうすると、受講生が帰宅して内容を読むことができ、
自身で知識を得る「喜び」が生まれます。講座終了後も復習できるので、お得感をもってもらえるのも○。

また、例句をあえて配布資料にない句にしておくと、
焦って進行してしまい時間が余ってしまいそうな時に
新しく使うことができます。
そのことによって、気持ちの余裕が生まれて、
ペース配分を組み立て直すことができます。

提出俳句作品の鑑賞はできるだけ丁寧に。句会を行うなら、なるべく全員が発言できるように

第3回め(最終回)は、実際に受講生に俳句をつくってもらうことが多いと思います。
その方法も下記のようなやり方があると思います。
① 当日、教室でつくってもらい、鑑賞
② 宿題として「季語」を出し、当日までつくってきてもらい、鑑賞
③ 宿題として「季語」を出し、当日までつくってきてもらい、句会

私は3パターンのすべてを経験しています。
このどれを選択するかは、講座の時間により変更しています。
今回は90分/回だったので、②を選択して実施しました。

実作でたまにあるのが
「作れない場合は、作ってこなくていいですか?」
「未経験だから作れない。講座だから作らなくてもいいですよね?」
と、おっしゃる受講生がいることです。

歌や料理などの講座だと「体験(実技)に参加しない」
という方はあまりいないと思うのですが、
なぜか俳句だとたまにこういうケースがあります。
確かに、俳句の実作は難しいですし、
他人の前で自分の作品を鑑賞されるということは
経験のない方には恥ずかしい部分はありますね。
私自身も最初はそうでしたし。

だから、こういうときは
「俳句は作って、鑑賞してもらって、作者と読者で
作品を練り上げていく過程を楽しむ創作。
そして、句会はその相互コミュニケーションの場」
という内容のお話をするようにしています。

そうすると、大体全員つくって提出してくれます。

鑑賞でも句会でも、評価するときは「その方の個性」を
なるべく言語化し、よいところを伝えることを第一にしています。
そして、句意や言葉がわからない場合は「ごめんなさい、私には意味がとり切れなくて。教えてもらえますか」と率直に聞くようにしています。

句会ができる時間があるときは、全員に意見を聞き、発言してもらうようにしています。
この時に「自句自解」をする受講生が結構います。
その場合、私はあえて止めずにお話ししてもらうようにしています。
そのことでその作者の隠れている個性や良さが見えることもあり、
話してもらうことでこちらもより提案ができるようになるので、
教室の空気がグッと柔らかく楽しいものになるからです。講師の進行もスムーズになります。

その他

「教える」仕事をしている人のアドバイスを受ける

「いつか俳句の魅力を伝える側に立ちたい」
そう思っていた私にとって、
実際に講師を担当する話が来た時に参考になったのが
習いごとの先生たちの教え方でした。
・受講生の立場に立って「わかりやすい」言葉で伝える
例)「措辞」「斡旋」などは初心者には専門用語。わかりやすい言葉に都度言い換える。
・ネガティブな言葉は口にしないように努める。
・わかるまで何度も同じことを繰り返す。
・(主にカルチャーですが)新しい人が入会したら、
 その都度おさらいの会を設けて、文法講座などの基礎の回を
 設ける。そうして初心者もクラスにスムーズに入れるように配慮する。

私が一番参考になったのは、教師をしている人からの「板書」の仕方でした。当たり前なのですが、「受講生の視線の流れる方向へ(縦書きなら右から左へ)必ず書くこと。そうすることで、理解が進む」ということ。

いや~、やはりプロは違うなと思いました。これらは今も心がけるようにしています。

おわりに

初心者や未経験者に「俳句を教える・伝える」ことは、自分自身の俳句作品を顧みるよい機会となります。そのことにより、私の作品もおのずと変わっていきました。そして、本業でも人との会話の仕方や声の高低、言葉の使い方などを気をつけるようになり、本業・副業ともに相互作用を及ぼしているようです。

新しい作品と自分の扉を開ける機会として、いかがでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?