見出し画像

第51回埼玉文学賞・俳句部門準賞『傾ける』を読んで

2020年11月、第51回埼玉文学賞・俳句部門準賞を
同じ俳句結社の仲間・箱森裕美氏が受賞されました。
受賞作は下記URLより閲覧できます。

本当におめでとうございます!
今回初めて作品を拝読し
改めて嬉しく思います。

タイトル「傾ける」というこの作品群は
箱森氏の良さが存分に出た表現と構成。傾けるというタイトルが、作家としての視線や観察力を暗に示していて、まず唸る。

以下、感銘句を挙げます。

 下心閉ぢ込めてゐる桜餅
 ストローをぷつりと昏き五月来る
 手握つてをりひなげしへ変はるまで
 まなうらに秋の蛍の永らへる
 目覚むれど畳に桃の香りけり
 身の内に広がる洞や金木犀
 憎しみはあらずマフラー編みにけり
 寒泳の息継ぎのたび告白す

箱森氏は昔から高い技術を会得していました。
そこに近年「自分の意思」が加わり、
ときにそのことが一句や作品群としての完成度や魅力を
危うくすることもしばしばありました。
しかし、それは「自分はこう言いたいのだ」
という表現者としての攻めの姿勢ゆえの結果。
彼女は自分だけの表現を得るために
傷だらけになって闘ってきたのです(もちろん今も)。

そして今回の「傾ける」は、全体に攻めつつもバランスの取れた構成で
読んでいて一定の速度と流れがあり、その表現上の緩急が快かったです。

一句のうちの言葉も意表をつく配置や使用をしつつ、
ほどよい飛び方や距離感のため、読者の脳や心のうちに
いい感じのグルーヴが生まれ、再読したくなる。

全体的に読者を置き去りにしない
(=言いたいことを言ってるけど独りよがりではない)
安定かつ新鮮な表現力と内容が光っていました。

さらにもう一つ。
これは個人的見解ですが、
以前より私が氏の「俳句作家」としての個性と
考えている良さが今回発揮されていたと思います。

それは作品群によって「一つの物語」を描く手法です。

ご本人は今回、そういう意図はなく
特にテーマは立てていないのかもしれません。

でも、独立した一句が隣り合い、群れをなすことで
ある空気が生まれ、自然とそこに物語が
生まれる構成となっているような感覚を覚えました。

「散文的な要素を韻文に自然に取り込み、
物語る句を生みだせる作家」

箱森裕美の個性と表現手法、そして作家性が、
成熟しつつある証明が今回なされたと思います。

私自身、最近彼女の手法に影響を受けています。
彼女の作品を読んで「より我儘に、自由につくろう」と
ある挑戦ができました。
それは今年の収穫の一つでした。

これからも箱森裕美から
さまざまに学びたいと思います。
そして私も私だけの表現を目指して挑戦を続けたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?