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【特別作品三十句より①】『炎環』2021年9~11月号

以前も書きましたが
現在、俳句結社『炎環』誌上では若手作家を中心とした
「特別作品三十句」が毎月ペアで掲載されています。
(ひと月遅れて、同人ペアによる鑑賞文も同時掲載)。

現在、どんな若手作家が炎環にいるのか。
彼らがどんな個性をもち、世界を展開しているのか。
一目でわかるとてもよい企画で、毎月楽しみにしています。

ここでは一作家・一句で簡単な雑感と共に
ご紹介したいと思います。ご一読願えれば幸いです(敬称略)。

【『炎環』2021年9月号】
◆「追憶」 西川火尖

誘蛾灯母の不眠に付き合ひぬ

三十句が私小説のように家族の問題と帰省をテーマとした
ストーリー仕立てで、最後までしっかり読ませてくれます。
とにかく巧み。
言葉と季語の使い方・組み合わせ。構成。
ゆえに、生まれるさりげない詩情。
「はっ」と胸を掠める驚き。
掲句の子と母の距離、時間の残酷さ。切なさ。悲しさ。
読み進むうちに、読者も物語の中の一人に
知らぬうちになっている。
「うたごころ」という資質に恵まれた
作者の本領が発揮された三十句です。

◆「陰陽」 箱森裕美

背中から愛されてをり夏の潮

一句の情報量がすごいのですが、
しっかり17音の中に昇華して
明確なテーマを伴った景として読ませる。
私は言葉の量がどちらかというと少ない、
単純なつくりの人なので
いつも「すごいなあ、私にはできないなあ」と思います。
加えてポップでカラフル。
純情で熱い部分と、残酷で醒めている部分と。
私もこういう部分がほしいなあと、
羨ましく思っているのです。

掲句も大胆だけどぐぐっと来て、ほろっときちゃう。
そして、季語が揺るがず世界を支えている。

しっかりした技術に個性が加わると
彼女みたいになれるんですね。
俳句+あるふぁ、を屹立できる。
これからの俳句のヒントがある、そんな句柄の作家です。

【『炎環』2021年10月号】
◆「やがて牙」 内野義悠

遠雷や甘噛みの歯のやがて牙

2021年、円錐新鋭作品賞・第三席(澤好摩氏 選)。
素直な感性と技術が個性を獲得し始めた過渡期の作品。
掲句は表題句であり、作者自身の自画像かもしれません。
変わりゆくときの言葉や型、感覚の揺らぎの振幅が
三十句に出ており、時に危うい部分は否めません。
しかし、挑戦としての発表作には今後に繋がる
きざしになりそうな萌芽が多く見られました。
今後が期待される作家です。

◆「石神井公園」 前田 拓

こがねむし甲の静脈踏みにけり

実は11月号で私が彼の鑑賞文を担当しました。
写生力と事物に対する感応力があり、真っ白なページのようで
これからそこにどういう映像を描くのか、
可能性がたくさんの作家。

このまま無理に自分を変えようとせず
マイペースにやってほしい。
続けていけば、機会が来ればおのずと「個性」は出てくるから。
「変えてはいけない」部分は創るうえで誰しもにあります。
そこを見極めて自覚していけば、
化ける可能性があるとひそかに思っています。

【『炎環』2021年11月号】
◆「水音」 星野いのり

おとうとのだんだん沈む平泳ぎ

前にも書きましたけれど、本当に上手。
これだけたくさん勉強していて、しっかり身につけているのは
本当にすごい。
言葉による描写力、季語の選択の的確さ。
改めて末恐ろしく、頼もしい実力と思います。
掲句も中七の転換と心理的屈折が絶妙。
このまま自由に自在に作り続けてほしいです。

◆「目が醒める」 春野 温

濡れ犬を青くして鳴る誘蛾灯

「今後どうなるか」「どういうふうに自分の世界を創っていくのか」
興味深い作家のひとり。私以外にもそう思っている人は多いと思う。
読者の心を連れ去る力が強くて、こういう作家は久しぶりに炎環で見た。
その危うさに毎月はらはらしたりヒリヒリするのですが、
その紙一重の部分が魅力的。
他にも魅力的な作品が三十句にはあって、ぜひ読んでほしい。

この方もそのうち現在の詩の世界から少しずつ変わっていく、
いかざるをえない時が来ると思うのですが、
その時にどんな「顔(個性)」を見せてくれるか、
なんとも楽しみです。

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ 

この企画は、まだこの後も続くようで
私の周囲にも原稿依頼が来て、
頑張って作っている人たちがいます。
また別の機会にご紹介できればと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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