亀と夢と私。
娘が小学5年生の頃だったと思う。
ある日、帰宅するなりこう言った。
「ママ、私も亀が飼いたい」
も?
聞けば、友達との学校の帰り道
小さな亀がひょこひょこと道を歩いていたらしい。
亀を飼った経験があるからと
友達がその亀を自分の家に連れ帰ったのが羨ましかったようだ。
亀か・・・
賃貸住宅の我が家では、犬や猫はご法度だが
メダカやイモリなどを飼ったことはあった。
同じ水棲生物の仲間だろうと気軽に考えた私は
つい娘の要望のまま、次の日、ペットショップへ向かった。
ペットショップで亀を扱っていること自体、
その時初めて知ったのだけど
水槽の中には手のひらに乗るサイズの子亀がウヨウヨいた。
イシガメ、クサガメ、ミドリガメ、種類もいろいろだ。
娘が選んだのは、綺麗な緑色の甲羅のミドリガメだ。
正式名はミシシッピーアカミミガメ。
目元の赤いラインが特徴で、アメリカ原産のいわば外来種。
お値段もイシガメやクサガメよりほんの少しお値打ち。
ここでまず、大いに選択を間違えた。
「この子がいい!」という娘の言葉のまま選んだ子亀を
水槽やらなんやらと共にいざ購入という段階になって
ペットショップのお姉さんが、十数枚におよぶ取説的なものを出してきた。
これをまずは見ないと買えない&飼えないらしい。むむむ・・・?
要約するとこんなこと書いてあった。
・水換えは夏はほぼ毎日、寒くなっても1週間に1回は行うこと。
・亀は菌をたくさん持っているので、触ったら必ず石鹸で手を洗うこと。
・日光に当てないと病気になるから、必ず1日1回は日光に当てること。
・ミドリガメの寿命は平均15年、長いと20年生きる。
・外来種なので池や川に捨てると日本の生態系を壊すから絶対にダメ。
責任を持って最後まで飼うこと。etc.etc.・・・
15〜20年間、夏は毎日水換え・・・?
これは、もしかしたら犬や猫に匹敵する
大変な世話が必要な生き物を飼おうとしているのではないか・・・
次第にそんな思いが生まれる母の横で娘は
目をキラキラさせながら「うんうんうん」と勢いよくうなずいている。
最後に「ここに同意のサインをお願いします」とお姉さん。
「・・・ねえ、やめようか。亀」
そう言えばよかった。
やめた方がいいと私の直感は叫んでた。
でも、娘の嬉しそうな様子を見るにつけ言えずにペンを手渡され
嫌な予感しかしないまま、十数枚目の紙の最後にサインをし
子亀を連れ帰って、今、約8年目。
当時、3cm程たっだ甲羅は12、3cmにはなっている。
綺麗な緑色だった甲羅は、黒色混じりの濁った緑色だ。
最初の頃は室内で飼っていたけど
今はベランダの片隅で小型犬用のゲージの中に水場を作り
夏も冬もそこにいる。
予想はついていたけれど、餌やりも水換えもいつしか担当は私のみ。
娘はすでに亀の存在をすっかり忘れている・・・。
家の中の小さな水槽で飼っていられた最初の半年くらいは良かったのだ。
娘も毎日餌をやり、小さな亀の一挙一動にキャッキャと喜んでいた。
しかし、最初の夏が来て、あまりの水の汚れた方の速さと臭さに辟易し
狭い我が家の中に水槽を置いておくことが苦痛になった。
そうなってくると、川や池には確実にいる捨て亀達の存在が気になりだす。
ここにうちの亀も・・・
やっぱり日本古来種のイシガメあたりにしとけば・・・
何度そう思ったかわからない。
でも、お姉さんに見せられた取説の内容が蘇り
新聞などで繁殖した外来種を一斉駆除などのニュースを見れば
もしうちの亀もここにいて駆除されてしまったら・・・
駆除って何?殺しちゃうってこと?え?どうやって・・・?
と怖い想像がぐるぐるして、とても捨てる勇気が持てなくて今に至る。
それに、いつしかすっかり生き物がかりの私がベランダに出れば
餌をくれると思って急いで水場から出て、ゲージの脇まで寄ってくる姿や
雪の日に甲羅が凍りついていても、実は生きてるみたいな生命力に
好きじゃないけど嫌いじゃない。愛してないけど離れられない。
そんな腐れ縁カップルのような情が湧いてしまったのだ。
餌はやるけど、水換えは水が完全に枯れて匂いが収まってからしかしないというスタイルを築いた私のDVぶりにも、じっと耐え忍び
時にはひっくり返ってアタフタしながらも自力で起き上がる勇姿に
心ならずも、愛おしいと思う時があるのは否めないのだ。
ウザいけど、かわいい・・・。
今年の冬は長く寒かった。
今年こそ冬眠したまま死ぬんじゃないかと期待、いえ心配していた。
そして小春日和の今日、ベランダに出たら亀が動き出していた。
寿命が15年だとして約半分ほど生きた亀の
その臭さに辟易する季節がまたも到来。
もう、どこかの川や池に捨ててしまおうと思う気持ちはない。
だけど、亀を飼ったことを後悔しない時はない。
あの日のペットショップでの直感を信じるべきだったと今も思う。
特に夏。
でも、いつか、亀が自由に動き回れる池のある庭を持つ家に住むこと。
そして、ある日、庭の片隅で甲羅だけになって土に還った亀の最後と出会うこと。
それがここ数年の私の夢のひとつになっている。
そうした時にやっと亀を飼ったことを良かったと思える気がするし
亀だってきっと我が家に飼われて良かったと思って天寿を全うするはずだ。
お互いに「ありがとう」ってきっと思えるはずなのだ!
それに亀のおかげで夢ができた。そう考えれば、なんか美しい。
そうモノは考えようなのだから。
これは決してペット自慢ではない。
むしろ、亀を飼うのはやめた方がいいという警告だと思ってほしい。
ペットショップでの直感はいつだって正しいという話だ。
亀の話はまたたぶん、つづく。
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